医療ガバナンス学会 (2025年9月2日 08:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2025年8月11日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2025/08/11/164730
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2025年9月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
まさに、科学競争力の失われた30年である。国の経済力の強化には科学力の裏付けが不可欠である。この科学力の弱体化が、日本の国力の低下につながり、通貨「円」がどんどん弱くなっている。訪日外国人が増えて経済を活性化していると喜んでいるが、「円」が目を覆うほど弱くなっていることを反映しているのだ。訪日外国人が増えていると喜んでいるだけでは済まないのだ。
国の将来を憂う優秀な官僚が多数いた時は、国は正しく舵取りをされて、発展していくことができた。政治を見ていても、総理大臣候補と目される人たちが複数存在していた時には、いい意味でも、悪い意味でも競い合っていたように思う。官僚も政治家も小粒になって、天下国家を真正面から論ずる人が絶滅危惧種のようにほぼ消えてしまった。
日米関税交渉も、これまでの常識では考えられない口約束とは?国と国の取り決めに文書がないなどありえないことだ。日本の将来がかかっている交渉が文書で残せないはずがない。文書に残せないような屈辱的な内容になっているのではと勘繰られても仕方がない状況だ。80兆円の投資についても、日本政府の説明とトランプ大統領のSNSの内容とは大きく異なっている。
予算委員会を見ていても、野党は全くこの点を突っ込まない。本当に不思議であいまいな国になってしまったものだ。このフワフワした雰囲気が科学力の低下の一因だ。施策の失敗が今日の弱体化を招いたはずだが、いつだれがどこで判断を間違ったのかという反省がない。失敗をした原因・要因を分析して、それを生かしてこそ次があるのだが、この国には批判がないのだ。批判=悪口という雰囲気があるので、奥ゆかしい日本人は批判をしない、というと聞こえがいいが、批判をした人間が組織や社会から排除されるような文化が日本の停滞を招いている。
科学の進歩には公正・公平な評価が不可欠だが、ボス社会の日本ではボス同士が牽制し合って厳しい論評ができない仕組みになっている。民主主義という聞こえのいいなれ合いが続く限り、日本の科学力の再浮上なない。