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Vol.25181 現場からの医療改革推進協議会第二十回シンポジウム 抄録から(3)

医療ガバナンス学会 (2025年10月3日 08:00)


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2025年10月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第二十回シンポジウム

11月1日(土)

【Session 02】 東日本大震災から14年 相馬市の歩み 14:10 – 14:30 (司会:上 昌広)

●立谷 秀清 福島県相馬市長、全国市長会顧問

 

【Session 03】 福島から能登へ 原発事故からの災害対応の変化 14:40 – 15:20 (司会:坪倉正治)

●山本知佳  福島県立医科大学放射線健康管理学講座助手・博士課程

令和6年能登半島地震後の能登地区における医療・介護・福祉施設入所者の発災後の生存時間解析調査 ―施設ボランティアとしてー

2024年1月に発生した能登半島地震では、石川県能登地域を中心にライフラインの長期停止や建物被害が広範囲で発生し、介護施設も大きな影響を受けた。私たちのチームは、地震後に活動を行った輪島市の福祉避難所を契機に、地域の高齢者施設に入り、食事介助や清掃、医療・看護的支援などの生活支援を行いながら、職員協力のもと、施設運営の実態や入所者の健康状態に関するデータを収集した。本調査は、能登半島地震で被災した高齢者施設の入所者を対象に、震災後の死亡を含む健康リスクの要因を明らかにし、医療・介護・福祉施設の高齢者をどのように守るか示唆を得ることを目的とする。

調査は、石川県医師会および福島県立医科大学の共同研究として、能登地域の介護老人保健施設および特別養護老人ホーム11施設を対象に実施した。2019年1月〜2024年10月までの入所者カルテから、年齢、性別、要介護度、ADL、避難経験などを抽出し、震災前後の変化を分析した。あわせて、職員への聞き取り調査を通じて、災害急性期における施設対応およびケア継続の実態を把握した。

震災後には90歳以上の高齢入所者で死亡リスクの上昇傾向が認められ、要介護度4以上の入所者では震災前後を通じて高い死亡リスクが確認された。これらの傾向は、南相馬市での調査結果とも一致し、災害時の環境変化が高齢入所者に与える影響を再確認する結果となった。質的分析では、施設の被害状況や資源制限の中でも、職員が役割分担や優先順位を調整しながら、可能な限り日常に近いケアの継続を図っていたことが明らかとなった。避難判断、物資調整、情報共有、他職種との連携など、多岐にわたる対応が行われていた。

本調査から、ケアの継続性が失われた際に死亡リスクが高まる可能性が示唆され、今後の災害対応においては、ハード面の備えに加えて、入所者の状態に応じた柔軟な支援体制と、現場支援を支える仕組みの整備が求められる。
●北澤賢明  福島県立医科大学医学部4年、放射線健康管理学講座MD-PhDコース生

能登町小木での1か月半―震災後の地域医療と伝統行事に触れてー

春の風がまだ冷たさを残す頃、私は能登半島の小さな港町へ向かいました。

福島県立医科大学では4年次に学年全員が研究室に配属され、4月から5月にかけて研究に取り組みます。私は現在所属する放射線健康管理学講座の坪倉正治先生の計らいで、1か月半、能登町のクリニックに滞在することになりました。同クリニックは2024年1月1日発生の令和6年能登半島沖地震で被災しましたが、翌2日から診療を再開していました。出発前、坪倉先生から「まずは地域の人と顔なじみになってこい。関係性を作ることが第一だ。データはその次でいい」と助言をいただき、心を引き締めて能登へ向かいました。

現地では、能登半島で被災した地域住民の方のお話を聞く機会が多くありました。輪島市町野町、珠洲市高屋、能登町小木、七尾市などで震災後1年経った今、思い考えていること、不安に思っていること、必要としているものなどについてお聞きしました。仮設住宅で過ごされている方も多く、日々の生活再建への道のりは決して平坦ではありませんが、皆様の前向きに歩もうとされる姿がそこにありました。

滞在中、小木地区独特の「伴旗祭り」に参加しました。各町内から一旗ずつ伴旗を出し、九十九湾を周回して豊漁を祈願する行事です。朝5時、町内総出で滑車を使って巨大な旗を立ち上げる光景は圧巻でした。町会長さんによれば、コロナ禍と震災で担い手が減る中での開催となったとのことでした。旗の題字は若い世代に引き継がれ、伝統は守られながらも新しい姿へと変わりつつありました。

1か月半の間、多くの方々に温かく迎えていただきました。能登の皆さま、小木クリニック院長の瀬島照弘先生、坪倉正治先生、趙天辰先生、山本知佳先生、阿部暁樹先生をはじめ当講座の皆さまに心より感謝申し上げます。この経験で得た成果を必ず地域に還元できるよう、今後もデータ解析を進めてまいります。
●坪倉正治  福島県立医科大学医学部放射線健康管理学講座主任教授、南相馬市立総合病院地域医療研究センターセンター長

福島14年の経験と能登半島地震から考える原子力防災と災害時健康支援のこれから

2024年の能登半島地震では、高齢者施設や医療機関が長期間孤立し水・電力・通信が断たれる中、入所者の健康状態が悪化するなど、深刻な影響が生じた。広域避難を行った施設もある一方で、移動による負担や環境変化が健康に影響する事例も見られ、避難と留まることの双方にリスクがある現実が改めて浮き彫りとなった。これらの状況は、2011年の福島第一原子力発電所事故後に経験した課題と驚くほど重なっている。

福島での14年間の活動では、内部被ばく検査や住民説明会に加え、避難指示下・解除後の地域医療支援を継続してきた。その中で明らかになったのは、放射線被ばく自体の健康影響が低く抑えられていた一方で、避難や生活環境の変化による二次的・長期的な健康被害が深刻だったという事実である。避難関連死、生活習慣病や精神的影響の悪化、介護需要の急増、そして避難指示解除後に生じる新たなコミュニティの変化が、時間の経過とともに繰り返し現れてきた。

こうした教訓を受け、国の原子力災害対策指針では「屋内退避を優先し、状況に応じて避難へ移行する」という段階的防護方針が導入された。しかし能登半島地震では、屋内退避が安全であるための前提条件、すなわち遮へい環境、物資備蓄、換気管理、人的支援が整っていない施設が多数存在し、「避難も屋内退避も困難」という事態が現実に発生した。制度と現場の間には依然として大きな隔たりがある。

今後の原子力防災と災害医療には、放射線防護だけでなく、人々の健康被害全体をできる限り小さくするための柔軟で現実的な備えが欠かせない。とくに、要配慮者が安全に過ごせる屋内退避のあり方を実際に使える形で整えること、医療や介護の現場が災害時にも途切れず機能できるよう日頃から準備しておくこと、そして複合的な被害を想定した訓練や資源の準備を重ねておくことが重要である。

本発表では、福島と能登の両方の現場から得られた知見をもとに、制度改定の成果と限界を整理し、次の災害で同じ問題を繰り返さないための具体的方策をともに考えたい。

 

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