医療ガバナンス学会 (2009年3月2日 09:43)
私はかねてより、日本の医療再生のためには、
気で取り組むこと、特に、その一環として、
立することが必須の条件であると主張してきた2,3,4。
自律処分制度は、医師、研究者らが参加する医療の質・
生労働省の資金による)の主要なテーマの一つである。
の情報が収集された。しかし、
どのように評価されているのか、
るのかなどについては、これまで情報を得ようとしてこなかった。
私は、この会議で、具体的な制度の枠組みを提案した。
して、可能な限り立法措置を必要としない制度とした。
ま存続させ、それに自律処分を加える形とした。
●国によって異なる自律処分制度
自律処分として、日本の多くの医師がイメージしているのは、
医療評議会General Medical Council(GMC)であろう5,6イギリスでは、
師の登録を担当しており、医師として活動するには、
ない。GMCは医師の年会費で運営される。卒前、卒後教育、
査と処分を責務としている。処分の目的は、患者保護とされる。
者からの苦情を受けて、医師の適性審査を行う。
の制限、停止、取り消しなどの処分を科す。
医師の処分制度は、国によって大きく異なる。
の質・安全戦略会議に提出した資料において、
設定、医籍登録、調査、
1 単一の専門職組織
イギリスではGMCが担当。
2 複数の専門職組織
ニュージーランドではニュージーランド医療評議会が規範設定と登
行動調査委員会が調査、医療専門職裁判所が懲戒を担当。
3 行政組織、専門職組織に分散
オランダでは教育機関が規範の設定、
央情報センターが免許・登録、苦情委員会が調査、
懲罰審議会とオランダ医療監察局が懲戒を担当。
4 行政組織
ノルウェーでは中央政府による一括担当(国立医療法規監督署)。
制度はそれぞれの国で時々の状況に応じて、歴史的に形成される。
で統一されていないのは、どの国の制度にも利点、
●日本の現状を基礎にした適性審査と処分の提案
日本で自律処分制度を創設するとすれば、
適切に機能するか、制度設立の合意に達することが可能か、
ないかという観点からも議論しなければならない。
本稿を書くにあたって、小松試案「医師の適性審査と処分」
試案は議論を開始するためのものであり、
論点を明確にするために、意識的に、GMCの対極の案とした。
中を排するために、一元的ではなく、
た。欧米の制度の模倣ではなく、
かそうとした。病院における処分と保険審査を重視した。
病院における処分は勤務医が対象となる。病院では、
の医師を実質的に処分している。
る。また、必要ならば、処分を適正に行うために、
の前に実施すればよい。
日本では、保険診療が適切に行われているかどうか、
険事務所で審査している。この保険審査では、包括医療を除いて、
れている大部分の診療内容がチェックされている。08年6月、
腰痛患者が細菌感染のために死亡した事件が報道された7。
ができなかったり、脱水になったりした患者のためのものである。
くの抗癌剤のように、投与経路が静脈内に限定され、
要がある場合である。私には、
では診療機関ごとの治療行為が把握できるので、
されていれば、簡単に気付く。
を医師の適性審査につなげることで、
保険審査でこれまで処分の対象となってきたのは不正請求である。
していない診療に対し医療費を請求するもので、
保険事務局が処分を決定してきた。
に医師として働けなくなる。
小松試案では、
審査担当医師が、適性審査委員会に審査を求める。審査委員会は、
あると判断した場合、問題の程度によって、審査結果を公表する。
行為を制御することができるよう公表方法を工夫する。
保険医登録についての処分は慎重に行う必要がある。
削減の道具として処分を濫用すれば、医療を荒廃させる。また、
な制裁手段ともなりうるので、
人権侵害が生じないよう注意しなければならない。
医道審議会による処分は、
会は厚労省医政局が事務局を担当し、事務局主導になっている。
院事件の報道の嵐の後、厚労省は、実質的に、
ることを医道審議会に指示し、
熱報道で安易に基本方針を変更するとなると、
を欠く。医道審議会に大きな役割を与えることは危険を伴う。
判の判断を踏襲する形で、処分を行うにとどめるべきである。
大野病院事件で、
落ち着く前に、医道審議会の役割を変更しないほうがよい。
試案の最大の論点は、
ないことであろう。規範として立派にみえるものにするためには、
規定が欲しくなる。医道審議会を専門職団体が取り仕切る、
会を廃止して、新しい強力な自律処分制度で、
つの案である。ただし、大きな制度改革が必要であり、
生む。うまくいかなかったときの弊害も大きい。
08年10月19日、東京で、前英国医師会会長ブライアン・
職の質保証について講演をした。
うかがえるイギリス医療の状況を通じて、GMCの処分制度が、
の一因になっている可能性が高いと思うに至った。
試案では制度改革を小さくすること、
た。小さい制度にはそれなりの利点がある。制度を創設しやすく、
い。また、処分として重いものを中心におくと、
いものになる。また、処分の重さのために、
かねない。
適性審査対象の中核をどこに想定すると、
小さくなるかを考える必要がある。いずれにしても、
医療の質を保って患者を守ることが目的である。
なる。戒告‐
医道審議会はそのまま残る。医師免許の取り消しは、
よい。免許取り消しは医師にとって極刑である。この重さには、
手続きがふさわしい。
●実現に向けて
自律処分制度を創設するには、自律を担う団体が必要である。
会は、開業医の利益を主張する団体とみなされている。
担い手となることを勤務医が受け入れるとは思えない。逆に、
性審査を担うとすれば、開業医が受け入れるとは思えない。
に裏打ちされた自立した個人の判断が必要になる。しかし、
きに、実体を伴わない規範が一人歩きする。
医療現場の実情から乖離した鑑定にあるが、
る。地に足のついた判断という点では、
幸い、公益法人制度改革三法が08年12月1日に施行された。
多数の利益の増進のために活動しなければならない。
不特定多数の利益の増進のためだったとは言い難いと考える。
師会はこれまでの組織形態と活動を継続するという意思を明らかに
日本医師連盟は日本医師会のいわゆる「政治部門」であり、
けてきた。08年12月時点で、
連盟が、
日本医師会館で行われた10。
いての三法の要求を表面上満たした上で、
治活動を継続するという。これが社会に通用するとは思えない。
組織的に主張するとなれば、公益社団法人ではなく、
をえないのではないか。
公益法人としての医師の新組織創設のチャンスである12,13。
主張せずに、
織が、医療の質保証の一環として、
新組織を作る過程には、開業医、勤務医、病院団体、日本医師会、
ることになる。
公益法人は、適性審査を引き受けるにしても、強制力を持てない。
夫すれば、新たな立法措置なしに審査することも可能である。
の適性審査を審査機関に依頼するような形がありうる。
て公益法人の適性審査を受けることを医師に求めてもよい。
なかったことの公表も行動の制御方法になりうる。
仮に、法律で調査権限を付与するとしても、
益法人が担うべきである。ただし、
が、社会からの介入を受けにくいので、安定的な運用ができる。
今、必要とされるのは、
論である。
自律処分制度ではなく、説得力と正当性を持ちえない。
おける正義を先頭に立って主張することではなく、
料を、偏ることなく準備することにとどめるべきである。
現場の医師と研究者では、ものの見え方がかなり異なる。
訳者であり、日本に特有の現象まで、
である。欧米の制度を、
もある。イギリスの医療、
ひどいという事実をしばしば忘れる。
ギリス在住日本人や、
された日本人には信じられないことに違いない。
●考え方の変遷
私はここ数年医療について考え続けてきた。
壊 立ち去り型サボタージュとは何か」(朝日新聞社2006)
え方を変えた。当時、事故調査委員会の調査結果を使って、
協議し、行政処分を適切に決定すると安易に書いてしまった。
きれていなかった。人間の政治行動は、
史的事実を前提に組み込んでいなかった。調査権、
激しい対立構造の中で、問題を一元的に解決することは、
療を壊す。
ないことを第一に考えるべきである。そのためには、
と、権力を集中させないことと、チェック・アンド・
とが肝要である。
裁判所が立法、行政から独立しているのは、
判の重い手続きは、基本的人権を守るためである。行政処分や、
重い処分を下すための手続きの正当性を担保するのは難しい。
でどおり、裁判所に任せるほうが、害が少ない。
ら、現場で医療を担っている保守本流の医師が、
判断を支えるべきである。このような活動を、
のも、新しく創設される医師の公益法人の役割であろう。
●終わりに
自律処分制度は、諸刃の剣であり、
うる。害を小さくするためには、
多段階で少しずつ修正していくべきである。
立法措置にたよらない制度が望ましい。
文献
1 小松秀樹:医療事故調 対立の概要と展望. 医学のあゆみ, 226, 630-635, 2008.
2 小松秀樹:医療における罪の定義. 論座, 2007年10月号, 113-119.
3 小松秀樹:非難すべき医療者とは. 青年法律家, NO443, 10-12, 2008年1月25日.
4 小松秀樹:「医療再生のための工程表」義解. 月刊保険診療. 63, 97-103, 2008.
5 General Medical Council: Good Medical Practice. 2006.
6 General Medical Council: Indicative Sanctions Guidance for Fitness to Practise Panels. 2005.
7 MSN産経ニュース:点滴作り置き常態化、院長認める 三重県が診療所に再度立ち入
り. 2008年6月14日.
8 羽生田俊:[公益法人制度改革」に向けた医師会の対応について(
29日.
9 日本医事新報:公益法人制度改革 日医はどう変わるか. 日本医事新報, No.4394, 2008
年7月5日.
10 小松秀樹:
Research Information Center (MRIC) メルマガ臨時vol 134, 2008年9月26日.
11 今村 聡:小松秀樹医師よ、ともに戦おう. 中央公論, 186-193, 2008年12月 号.
12 小松秀樹:公益法人制度改革がもたらす日本医師会の終焉. 中央公論, 50-59, 2008年
9月号.
13 小松秀樹:医師会、病院団体、各学会の役員は歴史を動かす覚悟を 日本医師会三分の計. Medical Research Information Center (MRIC) メルマガ臨時 vol 124, 2008.9.12.
資料 医師の適性審査と処分(小松試案)
1 原則
1-1 倫理的に不適切な行為と能力不足に対応して、患者を保護し、
1-2 医師の公益法人が定めた「適性審査基準」によって、
1-3 応報感情の処分への影響を排除する。
1-4 権力の集中と濫用を防ぐために、審査と処分の実施者を分離する。
1-5 現行法で可能な処分とする。
1-6 従来実施されてきた実質的処分を活かす。
1-7 実際に被害が出ていない事例が処分の対象となりうる。
1-8 調査は文書の調査と、関係者の聴き取りとする。
1-9 被処分者からの不服申し立て機関を、医師の公益法人に作る。
2 関係者
2-1 医師の公益法人内に設置される「医師適性審査委員会」
臨床現場の医師を代表するものにより構成される 。臨床現場から離れた医師 は、原則として、委員にしない。
2-2 医師の公益法人内に設置される「再審査委員会」
医師適性審査委員会の委員経験者により構成される。
2-3 病院団体
2-4 社会保険事務所
2-5 保険審査担当医師
2-6 郡市医師会
2-7 患者・家族
3 処分の実施者と類型
3-1 医師適性審査委員会
3-1-1 調査前事情聴取で問題なしと判断。適性審査は実施しない。
3-1-2 適性審査実施
3-1-2-1 調査結果
3-1-2-1-1 適性に問題なし。調査結果非公開。
3-1-2-1-2 適性に問題あり。
3-1-2-2 結果の通知
3-1-2-2-1 医師の能力に問題あり:本人、
3-1-2-2-2 医師の行動の倫理性に問題あり:本人、本人が所属する郡市医師
会、雇用している病院に通知する。
3-1-2-2-3 保険診療上問題あり:社会保険事務所に通知する。
3-1-2-2-4 患者側からの訴えが調査の端緒だった場合は患者側にも通知する。
3-1-2-3 結果の公開の有無
3-1-2-3-1 調査結果非公開処分。
3-1-2-3-2 調査結果公開処分。
3-2 病院
3-2-1 適性審査委員会と無関係の処分は従来どおり行う。注意処分、
3-2-2 適性審査委員会を介した方がよいと思われる場合は適性審査委員会
3-3 社会保険事務所
3-3-1 独自の調査で、不正請求に対し、
3-4 学会 下記処分を独自に、あるいは、適性審査結果の通知を受けて、
3-4-1 専門医資格の停止、取り消し。
3-4-2 会員資格の停止、取り消し。
3-4-3 再教育
医師の公益法人と協同で、
3-5 郡市医師会
3-5-1 患者、あるいは、医療関係者からの通知を受けて、
3-5-2 適性審査結果の通知を受けて、
4 適性審査委員会への適性審査要請
4-1 患者
4-2 医療関係者
4-3 病院
4-4 保険審査担当医師
不適切な医療に対する医療費請求に対し、適性審査を要請する。
が適性審査を要請すると、
は保険審査担当医師とする。
5 適性審査と処分の全体像の報告
5-1 適性審査委員会:審査結果の概要を6ヶ月に1度公表。
5-2 病院団体:処分の概要を6ヶ月に1度公表。個人情報は除く。
5-3 社会保険事務所:処分の概要を6ヶ月に1度公表。
5-4 学会:処分の概要を1年に1度公表。個人情報は除く。
5-5 郡市医師会:処分の概要を1年に1度公表。個人情報は除く。
6 不服申し立て
6-1「再審査委員会」
被処分者からの適性審査に対する不服の申し立てを受けて、