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Vol.25191 現場からの医療改革推進協議会第二十回シンポジウム 抄録から(7)

医療ガバナンス学会 (2025年10月15日 08:00)


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2025年10月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第二十回シンポジウム

11月2日(日)

【Session 07】 大野病院事件から20年 10:00 – 10:50(司会:鈴木 寛)

●井上 清成  井上法律事務所所長 弁護士

パラダイムシフトした医療事故調査制度の特徴

1 刑事責任追及の抑止
(1)「異状死」の呪縛からの解放
・「異状死→異状死亡→①医療過誤死、②死因不明」といった誤った連鎖
・しかし、医師法第21条の文言は「死亡」でなく「死体」
・そこで異状死亡説から異状死体説(異状死体→外表異状。厚労省が採用) へ転換
・その結果、医師法第21条の届出が激減→刊事事件が激減
(2)刑事責任追及と医療事故調の分断
・「刑事責任追及を免れるための医療事故調」という“幻想”を払拭し、医療事故調を「責任追及」と“分断”し、専ら「医療安全」の制度として制定

2 第三者機関から院内調査への転換
(1)医療事故調査委員会は第三者から院内へ
・医療事故調査委員会は、構想の当初は「中立公正な第三者委員会」が当然の大前提であり、「隠さない、逃げない、ごまかさない」という標語と共に、当時は、当然の良識として流布
・しかし、病院が事故を隠し、事故から逃げ、事故をごまかすという前提に立った制度設計は、現実ではなく思い込みなので自主的・自律的な「院内調査委員会」こそが当り前
(2)外に「透明」で内に「秘匿」から、内に「透明」で外に「秘匿」へ
・医療安全の推進は、インシデントレポートの院内報告システムを見れば明らかなとおり、院外で「透明」で院内に「秘匿」とするものではない
・院内に「透明」で院外に「秘匿」が常識、医療事故調査制度も同様であるべき

3 すべての死亡症例を病院管理者の下に一元的に報告・管理という原則
(1)医療事故調査制度の見えざる基盤
・「すべての死亡症例を病院管理者の下に一元的に報告・管理」という原則を、すべての病院・診療所・助産所に適用することが医療故調査制度の見えざる基盤であった
・ところが、この原則が途中でパクられて、特定機能病院だけに適用されてしまった
(2)リピーター医師対策としての補充
・この原則が特定機能病院を中心としたものとなってしまったため、中小 病院にリピーター医師対策の遅れが生じた
・その問題意識を一つの契機として、2025年6月27日から厚労省が「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を開催、同検討会は10月頃までを目処に継続

 

●鈴木 寛   東京大学公共政策大学院 教授、慶應義塾大学政策メディア研究科 特任教授

 

●細井 尚子  東京海上日動火災保険株式会社 東京新都心支店 開拓第一チーム 支社長(セクションチーフ)

 

●大磯 義一郎 浜松医科大学医学部法学教授、日本医療安全学会理事長

医療安全の現状と課題 −どうしたら上手くいく?前向き医療安全に向けて−

医療安全元年と言われた1999年から四半世紀が過ぎた。それまでの安全対策は、事故が起きた原因は「人が間違えたせいだ」として、間違えた人を探してその人を断罪することを繰り返していた。しかし結果として安全性を向上させなかった。そこで得られた教訓が「to err is human」であり、人が間違いを起こしても直ちに第三者に損害が生じないシステムの構築を図る、システムアプローチの手法が広がった。ところがやはり、複雑系である医療現場においては、産業界と異なり、安全性の向上は得られなかった。そうした中で提唱されたのが、“Safety-Ⅱ”のアプローチだ。

Safety-Ⅰの考え方では、「事故には根本的な原因が存在し、その原因を取り除くことで再発防止が可能」とする。これに対しSafety-Ⅱは、「事故には必ずしも特別な原因があるわけではなく、同じプロセスでも成功することもあれば失敗することもある」という考え方に基づき、事前の想定に関係なく、システムが求められた機能を果たすことを目標にしている。また、医療界は職種、年齢、職位等による上下関係が重んじられており、その結果、現場のスタッフが問題点を指摘しづらいという心理的安全性の欠如も、安全に大きな影を落としている。

このように四半世紀で医療安全に対する考え方が次々と変わっていく中、2015年より動き出した医療事故調査制度は、多くの制度的限界を抱えている。まずは、上に述べたように「事故だけ調査」はSafety-Ⅰの考え方であり、それだけで安全性の向上が得られない点(①医療安全学的問題)。次いで、いわゆるハコモノ行政の限界(②行政の限界)、医学界のタテ社会、学閥、高齢化等医療界の問題(③医療界の構造問題)、当初から問題となっている訴訟利権の問題(④金銭的利益の問題)、そして、社会保険料削減、働き方改革により病院自体が存続の危機にある問題(⑤医療経営上の問題)等。
これら多くの問題により、同制度は10年経過したにもかかわらず、医療現場の安全性の向上に寄与したとはおよそ言い難い状況にある。

医療安全は国民、医療者すべての願いである。欠陥だらけの人間が、どうしたら安全に向けた努力を真摯に積み重ねることができるのか。皆さんと意見交換できたらと考える。
●川口 恭   ロハス・メディカル編集発行人

※パネルディスカッション形式

 

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