医療ガバナンス学会 (2025年10月16日 08:00)
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( https://www.genbasympo.jp/regist )
2025年10月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
11月2日(日)
【Session 08】 医師不足、医療崩壊 11:00 – 12:00 (司会:上 昌広)
●井元 清哉 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 教授
ITの発展による新たな医療へ向けた医師の働き方改革
約10年前となる2016年、厚生労働省からの委託を受け「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」を実施した。10万人以上の医師を対象に、
①出身地・出身医学部所在地・家族構成・収入等を含む、医師の属性に関する項目
②医師の勤務実態を詳細に把握するためのタイムスタディに関する項目
③他職種との役割分担やキャリア意識等の将来の働き方に関する項目
④将来の勤務地に関する意向等の医師偏在対策に関する項目
について重点的に調査を実施し、1万5,677人から回答を得た。
調査の中で、2016年12月の1週間を対象に30分刻みのタイムスタディを実施した。その結果は「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」の報告書にも反映されているが、「多くの医師で過重労働や超過勤務が継続している実態が一般化していることが示されている」と総括された。
その調査から10年が経過したが、医師の勤務状況はどのように変化してきただろうか?私自身は、厚生労働省が策定する全ゲノム解析等実行計画に基づくゲノム医療の実現に取り組む研究者である。現在、生成AIやゲノム解析の大きな発展の追い風を受け、これまでは助からなかった命が助かる、医療の大きな発展が期待されている。それには、新たな医療に取り組む医師の増加が求められる。過重労働・超過勤務を解消し、医師が必要とする知識を学習できる環境を整え、今こそ新たな医療の実現に力を入れるべきと考える。
1.「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000161081.pdf
2.「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000163402.pdf
3.調査を実施した厚生労働科研費研究班のホームページ(調査結果の解説)
https://ws-reforms.hgc.ai/
●宇都宮 高明 成田市議会議員、千葉県地方議員連絡協議会会長
成田市医学部新設の概要と、成田空港「エアポートシティ」づくりに参画を!!
私がこの第10回シンポジウムで「成田に医の英知の結集を」と発表させていただいてから10年、この間に成田市に国際医療福祉大学医学部が新設され、大学病院も開院した。成田空港も、現在の1200 haから2300 haへと日本最大の国際空港への機能強化が進んでおり、空港を核とした「エアポートシティ」構想が実現に向けて動きだそうとしている。
そこでこの構想のひとつである「健康医療」分野における国際拠点づくりに、「現場からの医療改革推進協議会」が、この20年の英知を携えて参画を、と提起する。
▪国際医療福祉大学新設の概要―成田市
2017年4月、医学部開学。2020年3月、大学病院開院。
2023年度時点、教職員数1,878人、学生数2,605人。
大学新設関連 成田市支出 143憶円
大学新設関連 国・県補助金 47億円
大学グループの市での投資額 1,008億円
▪卒業生が県内医療体制に与える効果─大学のコラムより
2023年度、千葉県人口10万人当たりの医師数は1年ごとに0.7人、看護師数は同1.2人、理学療法士は同0.9人、作業療法士は同0.3人、言語聴覚士は同0.3人が底上げ。今後さらなる押上効果の蓄積が期待される。
▪成田空港を核とした国際的な産業拠点形成の取り組み
空港周辺地域に集積を目指す産業として、物流、精密機器、航空宇宙、健康医療、農業、観光の6つの産業があげられている。
▪ライフサイエンス分野における国際拠点化
大学・研究機関・企業等と連携を図り、空港の国際物流機能を活用した医療・バイオ・創薬などライフサイエンス分野の産業クラスター形成を目指す。特に、細胞治療薬や遺伝子治療薬など、極めて短い有効期間での流通が求められる先端医療薬品の製造・保管・出荷機能を空港周辺に集積し、迅速かつ安定的な供給体制を構築する。
●清水 敬太 東京大学教養学部理科三類2年、医療ガバナンス研究所研究員
今の医学部生は何に悩み何を考えているのか
私は東大の理科三類に進学した後、悩んでいました。授業が面白くない、満足できない。本当にこのまま理三から医学部に進学し、医者になってよいものだろうか。研究の道に進むべきだろうか、などなど悩みは尽きませんでした。様々な経験を積み、現在は医師になることを心に決めましたが、その覚悟に至るまでにどのようなことに悩み、どのようなことを考えていたのか、一医学生のリアルな経験をお話しします。
そもそも私が医学部に入学したきっかけは、中高の期間にコロナ禍を経験したことでした。といっても、コロナ禍で尽力される医療従事者の皆さんを見て彼らのようになりたいと思ったからなどという立派な理由ではなく、コロナ禍においてもろもろの学校行事がほぼすべて中止か縮小かを余儀なくされたことに鬱々とした気持ちを抱いてたからでした。コロナ禍がこのように中高生に対して大きな抑圧を伴ったことは仕方ない、では次のパンデミックのときに中高生のために少しでも貢献できることがあれば、という思いで医学を志しました。
しかし医学部に入学した後も気持ちが定まらず、「医者になる」と胸張って言えるようになるには、結局のところ2年生に進級する時期を待たねばなりませんでした。覚悟を決めるにあたり、上先生を始めとする諸先生方のご指導がいかに大きな影響を与えたかは、言うまでもありません。
私は、自身の経験が一般的なものであると主張する気はありません。むしろ珍しい方かもしれません。しかし、ひとりの医学部生が真剣に自らの将来を悩み考え、切迫感を持って行動した軌跡をここで皆様にお示しするとともに、自身の「医療」に対して抱くイメージがいかに変遷してきたかについてお話したく存じます。
●塩崎 恭久 元厚生労働大臣
「医師不足問題」等への挑戦と今後の展望
【1.はじめに】
超高齢化や人口減少、生活様式の多様化といった急速な環境変化の中、医療現場では医師不足や偏在、長時間労働など構造的課題が続いてきました。厚生労働大臣経験を踏まえ、現場と行政、専門家の知恵、そして新たな視座をどう結集したか、今後への提言をお話しします。
【2.問題の本質と現状認識】
医師不足は単に「絶対数」の問題ではありません。地域・診療科ごとの偏在、都市部集中、過疎地・特定分野の医師不足が長年放置されてきました。需給推計も実態を十分反映せず、「女性医師は男性医師の八掛け」など不適切な前提も使われていました。製薬企業や社会各般における医師資格保有者(MD)価値への無頓着等の結果、現場の不満や持続可能性への疑念も広がりました。
【3.行政としての取組と改革】
大臣時代は「現場・患者・若手や女性医師の声」を政策の中核に据え、「私的勉強会」や机上論から脱却、データサイエンス・科学的根拠に基づく政策形成を志向し、以下を実行しました:①井元清哉教授による医師勤務実態の大規模調査の指示と状況把握。②渋谷健司教授たちによる医師働き方改革検討会の立ち上げと、医師の長時間労働是正・健康確保措置・地域医療維持のバランスや、ナースプラクティショナー制度を含む大胆なタスクシェアリングおよびシフティングを総合的に議論。③現場を重視し専門医制度の一時延期を決断、専門医機構や厚労省に「地域医療への責任」を強く要求。
【4.創造的な成果】
これら現場起点の改革は、古い慣習から脱却し、行政主導から現場・専門家主導・データ主導へのパラダイムシフトをもたらしました:①科学的エビデンス・調査をもとに医師需給の本質的課題を明確化、政策の透明性と納得性を向上。②医師の時間外労働上限規制、健康確保措置など持続可能な医療現場づくりの基礎を策定。③偏在・不足対策とキャリア支援、若手・女性医師の活躍推進。④タスクシェアリング、タスクシフティングを含む多職種協働など“医療現場の多様性”を担保する改革。
【5.今後への展望と提言】
持続可能な医療現場と広くMDが貢献する社会づくりには、政策の不断の見直しとイノベーションが不可欠です。どういう社会を作るために、いかなる医師をどれだけ育てるか。現場・患者・社会のあらゆる声に耳を傾け、医療従事者の働き方および社会の幅や厚み創出等を踏まえた「現場起点・未来志向」の政策を、次世代に受け継ぐことが重要です。
●鈴木 寛 東京大学公共政策大学院 教授、慶應義塾大学政策メディア研究科 特任教授
※パネルディスカッション形式