医療ガバナンス学会 (2025年10月17日 12:00)
※この文章は、『ロハス・メディカル』2025年秋号に掲載された記事の本文を抜き出したものです。文中の図・表・コラムを見たい場合は、『ロハス・メディカル』サイトの電子書籍をご覧ください。
https://lohasmedical.jp/e-backnumber/174/#p=2
2025年10月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
この8月、日本高血圧学会が「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(以下JSH2025)を発表しました。前回の「高血圧治療ガイドライン2019」(以下JSH2019)から6年ぶりの改訂です。
これを超えたら高血圧という基準値が、JSH2019と変わらず診察室血圧で140/90mmHg、家庭血圧で135/85mmHgと維持されるなど、一見インパクトに欠ける内容ながら、少し読み込んでいくと、「序章」に前回はなかった「わが国の国民および患者の血圧の管理状態は必ずしも良好と言えない」との文言が入り、学会関係者の強い危機感も垣間見えます。
そんな文言がなぜ入っているのかと言えば、JSH2019発表直後の『Lancet』誌に、血圧をどの程度コントロールできているか高所得の12カ国を比較した論文が掲載され、我が国は世界に冠たる国民皆保険/フリーアクセス制度を持っているにも関わらずロクにコントロールできていないということが、世界に示されてしまったからです(図)。
そんな状況も関係してか、高血圧の影響で脳心血管疾患を発症して亡くなる人は07年の10万人から増え続け(もちろん一義的には高齢化の影響でしょう)、19年の推定値は17万人に上るそうです。
コントロール不良の理由は大きく2つあり、①血圧は高いのに薬物治療を受けていない人が多い ②薬物治療を受けているのにコントロールに成功していない人が多い、です。
本誌の読者で①に当てはまる人は想定しづらく、いたとしてもリスクを承知の上で薬物治療を拒否するのは個人の自由なので、今回は問題としないことにします。一方コントロールするつもりで薬を飲んでいるのに、ちゃんと下がっていないなら、医療費の無駄遣いという観点からも無視できません。
●正しい薬を使ってる?
どんな疾患にも、薬物治療してもコントロールできない治療抵抗性と呼ばれる状態は一定の割合で存在します。ですが、前項の図で諸外国と比較したとき、日本のコントロール不良率は異常です。JSH2025作成委員長の大屋祐輔・沖縄北部医療財団理事長は、内容を解説するプレスセミナーで「使うべき薬を使わないからコントロールできないのでないかと考えている」と述べました。
降圧薬には色々な種類があり、それぞれに向き(積極的適応)不向き(禁忌)があります。JSH2025では、このうち4分類5種類が最初に使うべき「G1降圧薬」として並記されました(表)。
ただ現実には、同じ「G1降圧薬」でも「グループa」であるカルシウム拮抗薬とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)の処方割合が極めて多くなり、「グループb」は本来使われるべき時にも処方されていないようです。
そうなっている表向きの理由は「グループa」に副作用が出づらく使いやすいからですが、額面通りには受け取れません。ARBすべてに後発薬が出てきたのは23年のことで、それまで製薬企業によるARBのプロモーションが盛んに行われていた影響もあったと思われます。ご記憶の方がいるはずの「ディオバン事件」(コラム)もARBの話でした。
●下がらないなら主治医と相談だ
JSH2025では、降圧目標が年齢や病態に関係なく130/80mmHgに一本化されました。少なくとも脳心血管疾患のリスクと天秤にかけると、きちんと血圧を下げることのメリットが副作用のデメリットを上回るとの判断だそうです。
ということで、薬を飲んでいるのに130/80mmHgまで下がっていないなら、漫然と放っておかず主治医と相談した方がよいでしょう。
相談した上で無理に下げなくても構わないとなるのは自由です。でも、下げたいと思っているなら、薬の選択が妥当なのか検討することから始めましょう。そのヒントとなるG1降圧薬の選択例(表)も示されました。
その他、生活習慣改善(コラム)でカリウムの積極的摂取が謳われました。主治医からも、そんな生活指導があるかもしれません。