医療ガバナンス学会 (2025年10月22日 12:00)
介護福祉士
鈴木 百合子
2025年10月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
地域医療構想に基づく病床削減が求められ、2027年4月までに全国で11万床を減らす方針が決まっています。これは医療資源の最適化と財政健全化を目的とし、年間7000億円の医療費削減が見込まれています。病床が過剰な地域では空きベッドによる経営難や不必要な入院が起きやすく、医療の質の低下を招くケースもあるのでしょう。こうした病院の撤退は、財政支援を活用しつつ、地域で合意形成を図る必要があります。
◯医療機関から溢れる高齢者と介護現場の危機
しかし、問題は単なる「病床削減」にとどまりません。私は介護福祉士として、サービス付き高齢者向け住宅で訪問介護に従事しています。医師も看護師も常駐せず、健常者から認知症、心疾患や脳疾患、がんなどの持病をもつ高齢者、退院後に行き場のない高齢者、お看取りの方まで総勢60人以上の利用者を、日勤数名、夜勤1名という体制で支えています。
本来は医療機関と連携して行うべきケアですが、実際には在宅診療の医師や訪問看護師が訪問していない時間帯は介護士だけ。多くの介護士はその責任の重さが気にならないようですが、正式な医療教育を受けていない職員の見落としや失策が死に直結するケースもありうるので、介護保険制度における現場の支援体制は不十分だと感じています。
◯2000年から2025年で人口構造や社会経済、家族のあり方が激変
この現状の根底には、2000年に始まった介護保険の制度疲労があります。制度創設から25年が経過し、人口構造や家族形態、財政状況は大きく変化しましたが、制度の根幹は抜本的に見直されていません。結果として家庭内の介護力は低下し、外注化が進み、高齢者本人と介護職に過度な負担が集中しています。
また、介護職に対する社会的評価が低いため、構造的な人材不足を外国人労働者に依存していますが、彼らにこそ十分な支援体制や待遇改善が伴わなければ、新たな格差や貧困問題を生みかねません。
◯制度を持続可能にするために求められる社会の姿
医療・介護の社会保障制度を持続可能なものにするためには、次世代の若者たちが「自分たちの制度を自分たちで創る」という当事者意識を持てる社会になることが必要です。例えば、医療介護費用をリアルタイムで開示して、どの分野にどれだけ資源が使われているかを市民が把握できる仕組みや、AIを活用して費用対効果を可視化し、非効率なサービスを見直せる仕組みを創ることが必要でしょう。
もちろん、判断の根拠は経験豊富な専門職の視点もAIに学ばせて、あまり非現実的な報告がでないようにすることが前提です。
医療・介護ともそれぞれ深刻な課題に直面する今こそ、関係者全員で制度の限界に向き合い、未来に向けた再設計に取り組む好機ではないでしょうか。
◯高齢者が望んでいるのは「尊敬され自信を持って生きること」
古代中国では「青春、朱夏、白秋、玄冬」の四季を人生にあてはめ、老人は鍛え上げられた玄人の「玄」。人生の風雪を乗り越えた卓越した知恵を持ち、尊敬される存在だったはずです。
高齢者が望むのは、ただ介護されることでなく、尊敬され、自信を持って生きることです。介護の場でも利用者が職員を気遣い、専門知識や生きる知恵を伝えてくれる姿に、家族のようなつながりを感じています。
介護保険に依存しすぎない。「制度の対象」でなく「地域の一員」として支え合える社会。
医療・介護・家庭・地域が協力する中で、私たちはお互いにかけがえのない存在になっていくのだと、日々、感じています。