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Vol.149 「工程表」で原発作業員の人生まで決めてはならない

医療ガバナンス学会 (2011年4月27日 14:00)


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有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
木村 知(きむら とも)
2011年4月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


東電は4月17日、福島第一原発事故事態収拾についての「工程表」を発表した。
これによれば、放射線量の着実な減少(ステップ1)に3カ月、線量を大幅に抑制する段階(ステップ2)までは最長9カ月かかる見込みとのことだ。しかし現 場は作業員が近づくことさえ困難な高放射線量を示す環境下にあり、この「工程表」を「あくまで希望的観測」とみる関係者も多いと言われている。

この困難に立ち向かう作業員の方々の劣悪な待遇についての情報は、このところやっと各メディアで少しずつ取り上げられるようになってきたが、ここにきても政府の対応、施策は、全くと言っていいほど進捗していない。

まず、作業員のメディカルチェックについて尋ねた梅村聡議員の質問に対する4月13日時点での厚労省からの回答は、「交替勤務制とし、過重労働とならない よう配慮しつつ、個々人から体調不良の申し出があった場合は、現地に駐在している医師にて診療を実施」「今後、全員に対して健康診断を実施する予定」とい う、「厚生労働省」という省名にもとる、あまりにもお粗末なものであった。
多くの作業員が皆同様に過酷な労働環境に置かれている状況では、自らの体調不良を「言い出しにくい環境」であることくらい、普通は想像に難くない。このような環境下にある労働者に、自己申告だけで健康管理しようとするなど、耳を疑う信じ難い対応と言える。

そして4月15日、衆議院厚労委で柿沢未途議員が行った作業員の健康管理に関する質問において、柿沢議員が、ILO第115条約「第五条 労働者の電離放 射線による被ばくを実行可能な限り低い水準のものとするため、あらゆる努力を払うものとする。すべての関係当事者は、不必要な被ばくを避けるものとする」 との条文を提示し厚労省としての現状認識を問うたのに対し、大塚耕平厚労副大臣は「現場では、あらゆる努力をしているものと信じている」とあまりにも当事 者意識に欠ける答弁を行った。
続いての「第十二条 放射線作業に直接従事するすべての労働者は、就業前又は就業直後に適切な健康診断を受けるものとし、就業中は適当な間隔を置いて健康 診断を受ける」との条文に現況が反しているのではないかとの問いに対して大塚副大臣は、「作業員は三日勤務すると茨城のほうの拠点に行き、そこで除染のの ち健康診断を受けていると聞いている」との答弁を行ったが、これは4月16日に対策拠点の「Jヴィレッジ」に入って実際に作業員を診察した愛媛大学谷川武 教授の「最近は、4勤2休という態勢」という報告を考慮すると、事実とは全く異なる答弁との疑いを持たざるを得ないものであり、厚労省が現状把握を全くし ていないということが、改めて明らかとなった。

さらに4月20日の衆議院厚労委で福田衣里子議員によりされた作業員の個人線量計についての質問に対し、松下忠洋経産副大臣は、当初足りなかった線量計を 「全国からかき集め、4月1日時点で約1000個入手した」との答弁を行ったが、福田議員はそれ以前の3月18日時点ですでに800個が現場に存在してい たことを指摘した。松下副大臣の説明によれば、現在作業員は「日中400〜500人、夜間200〜300人」とのことであるから、3月24日の「水たまり 被曝事故」時点では線量計は数量的には十分に足りていたはずである。つまり、線量計はあったのに装着させていなかった、ということも判明した。

また、短期就労者を含む原発作業員全員の健康管理、被曝管理についての質問に対し、岡本充功厚労政務官は「作業期間や被曝線量のデータベース構築をどのよ うなのもにするかを今考えているところ、健康管理については専門家の意見も聞きながら実施を検討する」という極めて曖昧で頼りない答弁に終始、結局厚労省 としてはまだ何も施策を講じていないということが、ここでもまた明らかとなった。また、作業員の事前の造血幹細胞採取についても、原子力安全委員会の「現 時点での採取は、必要ない」との見解を追認する形で「今のところ必要ない。」との答弁。現状把握さえしていないにもかかわらず、何を根拠に「必要なし」と 判断しているのか、説得力に欠ける以前に無責任とも言うべき姿勢が露呈した。

放射線管理手帳の所持についても、政府は直接関知し管理しているものではなく、あくまで事業所の自主規制に任されており、仮に所持せず労働しても法律で罰せられるものではない、とのことだ。

奇しくも昨年7月に、日本学術会議の放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会から「放射線作業者の被ばくの一元管理について」という提言がなされている が、ここでは、「放射線作業者個人の累積線量(生涯線量)および5年間あるいは1年間の被ばく線量を確実に把握し評価する一元管理システムが、他の多くの 原子力先進諸国では出来上がっているのに、わが国には存在しない」という驚くべき実態が指摘され、「線量限度を超えている放射線作業者が確認されているに もかかわらず、法的に必要な措置が取られていないということは、原子力先進国として恥ずべきこと」として、現状の早期改善を求めている。

つまりわが国では、原発作業員個々人の放射線管理自体が、もともと現場に一任され、公的一元管理などされていないという、とても先進国とは思えない、そもそも極めて杜撰な状況であったわけだ。
これは今回の事故以前から、脈々と受け継がれてきた構造上の問題である。厳密な線量管理をすれば職を失う労働者も生じうる。線量が上限に達してしまうと、 原発での作業は出来なくなるからだ。雇用者はそのような、何とか職を確保したいという労働者の弱みにつけ込んで、杜撰な線量管理を「労働者との合意の上」 として半ば公然と行ってきたのではあるまいか。
それが、今回の事故を契機に計らずも露見した、ということではないだろうか。

つまり、そもそもわが国の原発での作業員の被曝線量管理は「いいかげん」であり、大事故が起こった現在も、その「いいかげんな慣習」のまま放置され、水素 爆発や大量の汚染水の流出など次々に起こる「想定外」の事態に、「作業員の健康管理など、とてもじゃないが配慮なんかしていられない」というのが、東電、 経産省、厚労省の本音なのではなかろうか。

これまで見てきた厚労省、経産省の回答や答弁が、他人事のような誠実さに欠けた極めて「場当たり的」なものであるのは、おそらくこのためであろう。

先日公開された「工程表」も極めて「場当たり的」だ。このような「場当たり的」な工程表は、今後いくらでも修正、変更されるであろう。そして今後、事態収 拾が「工程表」通りに運ばなかった場合、あらゆる「規則」「基準」を、その現状に合わせて変更していく可能性が十分考えられ、いっそう作業員の健康管理、 被曝管理が蔑ろにされてゆくのではないかと懸念される。

ICRP2007年勧告には「線量限度は、緊急時被ばく状況(志願して人命救助活動に参加する場合、破滅的な状況を防ぐことを試みる場合)には適用されな い」とある。最近メディアでは作業員の方々が「志願」して作業に当っているとの記述をよく見るが、作業員の方々が「志願」して自由意思で自ら進んで作業に 参加しているとして、これを逆手に取って被曝線量上限を仮に無制限化しようとしているのならば、それは言語道断、決して許されることではない。これ以上、 国際的に決められた規則や基準を、都合よく解釈し適用することは、絶対に許されない。

「工程表」はあくまで事態収拾のロードマップであり、そこで働く作業員の方々の人生のロードマップではない。「工程表」で原発作業員の方々の人生まで、決して決めてしまってはならないのだ。

木村 知(きむら とも)
有限会社T&Jメディカル・ソリューションズ代表取締役
AFP(日本FP協会認定)
医学博士
1968年カナダ国オタワ生まれ。大学病院で一般消化器外科医として診療しつつクリニカルパスなど医療現場でのクオリティマネージメントにつき研究中、 2004年大学側の意向を受け退職。以後、「総合臨床医」として「年中無休クリニック」を中心に地域医療に携わるかたわら、看護師向け書籍の監修など執筆 活動を行う。AFP認定者として医療現場でのミクロな視点から医療経済についても研究中。著書に「医者とラーメン屋-『本当に満足できる病院』の新常 識」(文芸社)。きむらともTwitter: https://twitter.com/kimuratomo

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