
医療ガバナンス学会 (2025年12月1日 08:00)
この原稿はAERA DIGITA(2025年10月15日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/267370?page=1
内科医
山本佳奈
2025年12月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回、アメリカの医療機関を受診した理由は、今年になって頬やおでこ、あごにニキビのようなできものが増えたことでした。これまで肌トラブルはほとんどなく、スキンケアに特別な手間をかけたこともありません。
ところが、顔のあちこちにできた赤いできものは、様子を見ていたものの、一向に改善しなかったのです。アメリカで「皮膚科医と共同開発されたブランド」として有名な洗顔料や日焼け止めに変えてみても改善せず、むしろ悪化してしまいました。
「これはもう、自分ではどうにもできないかもしれない……」と思い、皮膚科を受診することにしました。振り返れば、小学生以来の皮膚科受診です。しかしながら、アメリカでの受診は想像以上にハードルが高いものでした。
●皮膚科の予約が取れたのは1カ月後
まず、プライマリーケア(家庭医)にメールで相談しました。返信が来たのは数日後で、「プライマリーケアを受診する必要はありません。アクネセンター(皮膚科)に直接電話して予約してください」とだけ書かれていました。
早速、指示の通りに電話をしたものの、ようやく予約が取れたのはそれからさらに1カ月後。日本なら待ち時間はあるものの、基本的に受診したいタイミングで受診できるので、このプロセスの長さにはとても驚きました。
実際、アメリカでは医師の予約まで平均で約1カ月かかると報告されています。医師紹介会社Merritt Hawkins[※1] の2025年調査でも、皮膚科の初診までの待機期間は平均36.5日とされており、私の経験もその傾向に近いものでした。
また、OECDの統計によると、日本は国民皆保険制度の下、人口あたりの外来受診回数が年間約12回と加盟国中でも高く、アメリカの約4回を大きく上回っています(OECD Health Statistics 2023[※2] [※3] )。「行きたいときに受診できる」仕組みが、日本の医療の大きな特徴だと改めて実感しました。
●やっと受診日に、しかし…
ようやく迎えた皮膚科の受診日。しかし、診察室に入ってきたのは皮膚科医ではなく、RN(Registered Nurse:看護師資格者)でした。米国では、初期診療を看護師が担当し、必要に応じて医師へ引き継ぐ体制が広く取られています。対応してくれたRNは、肌を軽く見ただけで、「マイルドなニキビですね」と言いました。
そして、「このブランドの洗顔料を使うといいですよ」と勧められました。それは、私がすでに使っていた「皮膚科医と共同開発されたブランド」の製品でした。一瞬驚きましたが、同じブランドを推奨されたことで、あの製品自体が悪かったわけではなく、原因は他にあったのだと安心しました。
抗生物質の塗り薬と、肌のターンオーバーを促すビタミンA誘導体のレチノインが処方され、薬の使い方の説明を一通り受けたあと、年配の皮膚科医がやってきました。しかし、私の皮膚の様子をじっくり見ることなく、ほんの少しの言葉を交わしただけで部屋を出ていってしまいました。
ワクチン接種まで含めても、診察全体は20分ほどだったと思います。同じ施設内にある薬局に行き、薬を受け取るまでに、さらに20分ほど待ちました。それでも、医療保険に加入しているおかげで受診料は0ドル(無料)。支払いは薬代の30ドルのみで済みました。
●アメリカの医療費は高い?
アメリカの医療費は高いというイメージがあります。確かに、医療保険の月額料金は高額な一方で、実際に医療機関を受診してみると請求される負担額は意外に少ないこともあります。ただし、保険制度は複雑で、加入状況や地域によって支払額が大きく異なるという現実もあります。
私が加入している保険では、受診から検査、ワクチン接種、薬の受け取りまでがすべて同じ医療ネットワークの中で完結します。これは、HMO(Health Maintenance Organization)と呼ばれる仕組みで、利用できる医療機関があらかじめ決まっているかわりに、医療費を比較的安く抑えられるのが特徴です。
HMOは予防医療を重視し、加入者が医療費を抑えながら一貫したケアを受けられるよう設計されていますが、その反面、専門医へのアクセスは限定されがちだと指摘されています(U.S. Centers for Medicare & Medicaid Services, Health Maintenance Organization (HMO), Medicare.gov, updated May 2024[※4] )。
診療記録や検査結果はネットワーク内で共有され、重複検査が避けられるなど、全体として合理的に設計されています。ただし、専門医にかかるには、まず家庭医(プライマリーケア)を通して紹介を受けなければならず、日本のように「自分の判断で自由に受診する」ことはできません。
効率性やコスト面では優れていますが、どの医療機関も同じようにシステム化されている分、診察は簡潔で、人と人との対話はやや少なめに感じます。カルテや検査結果は共有されているはずなのに、それを踏まえたやりとりが十分に行われていない印象も受けました。情報はつながっているのに、目の前の患者としての私には、どこかしっかりと見てもらえていないような、そんなモヤモヤした感覚が残りました。
●再処方やオンラインチェックインは便利
一方で、便利だと感じた点も多くありました。RNが「インフルエンザワクチンを希望しますか?」と聞いてくれ、その場で接種してもらえたことです。日本のように、その場で問診票を書く必要もなく、アレルギー歴やワクチン接種歴に関する簡単な質問の後、さっと接種して終了。接種後の経過観察の指示もなければ、接種記録のようなものもありません。もちろん、接種記録は必要な時にホームページからダウンロードできるので、安心です。
また、薬がなくなったときはオンラインで再処方(リフィル)を申請することができます。希望すれば、自宅まで郵送してもらえます。日本のように毎回受診して処方箋をもらう必要がないため、忙しい人にとってはとても助かる仕組みです。
日本でも[※5] 2022年から一部の薬でリフィル処方が解禁されましたが、まだ運用は限定的で、高血圧症や脂質異常症、糖尿病や骨粗鬆症、アレルギー疾患などの慢性疾患に限られています。日常的な外用薬まで広く活用されているアメリカとの違いを感じました。薬の管理も医療の一部としてシステム化されている印象を受けました。
さらに、事前にオンラインでチェックインを済ませることもでき、診察当日は待ち時間もほとんどなく、呼ばれました。予約システムが整っており、概ね時間通りに進む点もアメリカの医療の良さだと感じました。
皮膚科の予約に1カ月、診察に20分、薬の受け取りに20分。日本では当たり前だった「すぐ診てもらえる医療」は、実はとても恵まれた仕組みだったのだと実感しました。医療の「速さ」と「丁寧さ」は、どちらが優れているという話ではありません。ただ、自分の体の小さな変化に気づいたとき、すぐに専門医にアクセスできること——その安心感の大きさを、アメリカでの皮膚科受診を通して改めて感じたのでした。
【参照URL】
[※2]https://www.oecd.org/en/data/datasets/oecd-health-statistics.html
[※4]https://www.medicare.gov/health-drug-plans/health-plans/your-health-plan-options/HMO
[※5]https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202410_003.html