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Vol.25237 第3部 子どもの突然死が教えてくれた現場の現実――死体格差という構造

医療ガバナンス学会 (2025年12月15日 08:00)


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JA尾道総合病院/田辺クリニック/合同会社MONSHIN
田邊 輝真

2025年12月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1歳の赤ん坊が心肺停止で運ばれてきた。全力で蘇生したが応答はなかった。CTを撮っても、死後変化のみで目立つ原因が見つからない。診断として「乳幼児突然死症候群(SIDS)」を示唆したいと思ったが、その定義は「解剖をしても原因が特定できない場合」である。つまり、解剖なしでは診断がつかない。若い両親が泣きながら処置室に入ってきた光景は忘れられない。私は警察に強く「解剖の必要性」を伝えた。
ただし、解剖が確実に答えをもたらすわけではない。判明する確率は30%とも言われる。さらに、現場には“構造”の問題がある。

■ 死後CTは保険適応ではない
同意書を取り、自費でお願いする病院もある。病院の負担でサービスとして行うところもある。しかし、同意を求められたご遺族は、「なぜお金が必要なのか」という怒りの矛先をどこに向ければいいのか分からない。クラークさんに怒号が飛ぶこともある。

■ 解剖医が圧倒的に足りない
依頼しても、「いつ戻ってくるか分からない」という現実がある。ご遺体が家に帰れない時間が長くなるほど、グリーフケアは難しくなる。

■ 現場はどこまで責任を持つべきか
救急は「生きている人を優先する」。だから死後の手続きは後回しになりがちで、調整も曖昧になる。
私は、この構造こそが「死体格差」だと感じている。
調べられる死と調べられない死。
時間・お金・地域差・制度の隙間が、死後の扱われ方に影響してしまう。しかし現場では、「誰かが悪いわけではない」ということも、同時に感じている。警察は事件性を迅速に判断する責務がある。医療は生きている人に資源を向ける役割がある。法医学者は、少ない人数で膨大な責任を背負っている。現場だけでは解決できない。
だからこそ、“見えないままの死”をどう扱うかは、社会全体で考える必要がある。あの日の子どもの死を前にして、私は「死因究明の価値」と「現場の限界」を痛いほど感じた。

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