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Vol.153 三度目の相馬・南相馬訪問記

医療ガバナンス学会 (2011年4月30日 06:00)


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東北大学医学部5年 一條貞満
2011年4月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

4月7日以来、三度目となる相馬市、南相馬市での活動が終わりました。私の視点で現況を報告します。

震災以来、相馬市と南相馬市は、津波と放射線という二つの被害を被ってきました。メディア報道のとおり、海岸付近の様相は日常とはかけ離れたものとなってしまいました。家を流された人も多く、震災の傷は、まだ残り続けています。

一方で、地震自体の被害は少ないと言っていいと思います。相馬高校教諭の高村泰広先生は、「地盤の固さの関係から、沿岸地域の揺れは弱く、反対に、内陸に ある福島市の方が、地震の被害を受けた」と言っていました。実際、建物に入っているひびは、福島市で多く見られます。そのため、車で移動している限り、沿 岸に近くない場所では、なにも問題は感じません。桜もきれいに咲いていて、地区ごとの境では、豊かな自然に癒されました。

しかし、両市ともに、放射線という大問題を抱えています。相馬市は、30 km圏外ということで、放射線はもう気にしないで、復旧に務める姿勢が感じられました。もちろん避難した人もいるようですが、迷いは少ないように思います。

一方、南相馬市は、20km圏内、20-30km圏、30km圏外という三つの区画にわかれ、非常に難しい立場にいます。避難命令は被災後、二転三転し、加えて原発問題の長期化のため、方針が立ちません。

三回目の福島入りの今回、南相馬市の脳卒中問題が浮き彫りになりました。同市は県から、30km圏内の入院を禁じられており、手術ができない状況が続いて います。救急搬送される患者は、福島市か仙台に運ばれます。福島市から相馬市の移動に1.5時間ほど搬送にかかります。南相馬市からの移動はゆうに2時間 はかかるでしょう。いわゆる脳卒中のゴールデンタイムを超過します。
ドクターヘリも飛んだ事もあるそうですが、夜は飛べません。今回の問題の抜本的解決策にはならないようです。

私は福島市出身で、相馬市は父の実家があるので、よく子供のころ車で相馬に行きましたが、行く事が決まると、道中を想像し、気が重くなりました。ひたすら 曲がりくねった道を通って山を越えるのです。車酔いしやすいのも手伝って、よく嘔吐しました。南相馬から福島市まで搬送しようにも、困難なのは容易に想像 できました。

南相馬市の脳外科の及川友好先生は、すでに数件、脳卒中患者を仙台、福島市に向けて搬送していると言っていましたが、その後、詳細に消防局に確認してくだ さり、震災以降、40件以上搬送されていたことが分かりました。さらに、意識障害のある患者さんがこの数字に含まれていないことから、この数字は氷山の一 角です。

この問題の原因は30 km圏内の病院に入院が許可されていないことです。さらに、34 kmの位置にある鹿島厚生病院が、「みなし30km圏内」という県のルールで入院が規制されていることが事態を悪化させています。ここで救急患者の対応が 出来ないかと検討されていますが、県の対応は遅く問題は解決していません。

鹿島厚生病院のスタッフは9割がた戻っており、やる気は十分でした。看護師さんは院長先生に、「いつから規制外れるんですか」と聞いてくるそうです。「もう少し」と渡邊善二郎院長は答えて、もどかしい思いをしていました。
南相馬では、ルールが人を死なせてしまうという、本末転倒な人災が起こっています。現況のしのぎ方を考えつつ、県には見直しを求める必要があります。

脳卒中問題の他にも、精神科分野も問題が発生しています。
南相馬市から第一原発にかけて、精神科があるのは、双葉病院、双葉厚生病院、小高赤坂病院、雲雀ヶ丘病院で、計500床ありましたが、今回の震災で、すべて閉じられました。精神科の医師はいなくなってしまいました。
今後、PTSDが問題になるであろうこの事態に、精神科医がいないという状況は、ますます具合が悪いでしょう。

今回の福島での活動で、県立相馬高校の養護教諭の只野喜代美先生にお話を伺いました。PTSDをかなり気にかけていて、彼女自身、非常に心労していたように見えました。
相馬高校は18日に始業しました。只野先生は、生徒が保健室にごった返すのではないかと心配していたようですが、実際は、学校全体が驚くほど静かだったそ うです。「大丈夫なのかな」と思っていたところ、今年新1年生の女の子が保健室に来て、少し休みたいと言ってきました。この子は、津波で実家が流され、家 にいた祖父母は亡くなったそうです。時々、ふと突然、涙が流れるそうです。先生方も、生徒にどう接していけばいいのか分からず、困惑しています。

只野先生は、自分が学校全体の心のケアをしなければいけないと考えているようで、しかし相談する相手も良くわからずにいました。只野先生が言うには、他の学校の養護教諭も自分と同じような心境だそうです。どなたか、専門性のある方が指導、支えてあげられたらと思います。

今週から、アースデイ奄美という精神科の先生のグループが、避難所などを回って、状況把握、対応を計っています。約一ヶ月滞在の予定です。阪神大震災の時も、PTSDは問題になりました。
アースデイ奄美のみなさんを含め、福島県沿岸部の精神疾患の対応をしてくれる先生が増える事を願います。

相馬市、南相馬市、ともに教育面でも苦戦しています。家にあった教科書が流されてしまった生徒、人事異動がうまく行かず、校長先生がいない相馬高校。そし て30km圏内の生徒2,000人が相馬市や南相馬市鹿島区などに通っています。ちなみに、鹿島区の人口は1万人。受け皿としては小さいのは確実で、相馬 市も飽和状態です。

相馬高校では、サテライトと言って、原町高校の生徒だけの教室を使って、授業が行われているようです。教室は飽和していると思われます。緊急時ですので、多少の無理は生じるかもしれませんが、改善策が望まれます。
こと教育面に関しては、星槎学園が活躍しています。初めて出会った時は、見た目はやくざに近いように感じて、身の危険を覚えましたが、みんな優しい人です。ですが、普通ではありません。
星槎学園の宮澤保夫会長は、小学生から高校生までチェックしていますが、小、中学校と違い、高校は県の管轄でした。市長さんとはよく話しており、順調に進んでいるようですが、高校の方は手伝うことが難しく、難航しているようでした。

未曾有の事態で、おそらく今までのルールを度外視しないと先に進みません。星槎学園の先生はみなさん実力のある方ばかりでした。星槎グループは今後、教育問題改善の大きな歯車になってくれる事と思います。

震災から一ヶ月半が経ちました。物理的な被災者の救済が収束しつつ、目に見えにくい問題の解決が求められています。被災地で生活している人たちは、原発の 行方どうこうは考えず、復興へと向かっています。しかし、確実に困難な状況にあります。国も民間団体も、応援していかなければなりません。

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