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Vol.152 「谷口プロジェクト」を支えよう

医療ガバナンス学会 (2011年4月29日 14:00)


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ベイラー研究所 松本慎一
2011年4月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


谷口プロジェクトつまり、「福島原発作業員のための自家末梢血幹細胞採取・保存」を初めて聞いたときに、谷口先生の現場の人たちを助けたいという情熱と、血液内科医の知恵に感銘を受けました。
私が外科研修医の頃は、大きな手術前には手術中の出血量を予測して、輸血の準備や自己血の採取を行っていました。今回の福島原発事故は、今までで最も大き な原発の事故であり、この事故の作業員は被爆することが予測されます。作業員が被るであろう被爆障害から作業員を自家末梢血幹細胞移植によって守ろうとい う考えは、医師の真摯な思いに他なりません。
このプロジェクトに議論が必要であるという連絡を頂き、当然、どうすれば安全性を高め、効率を上げるという議論が必要であると思いました。
ところが、日本学術会議は私の想像だにしなかった見解を以下のように発表しました。

「日本学術会議は自家造血幹細胞移植が他者造血幹細胞移植に比し、適応のある急性被ばく犠牲者に迅速かつ安全に実施できる利点を有することは理解するが、 福島原発緊急対応、復旧作業に現在従事している作業者に実施できるように事前に採血保存することは不要かつ不適切と判断する。」

この、日本学術会議のステートメントは、真摯さに欠けるように感じられ残念ですし、問題があります。先端医療を米国で実践している経験と、日本糖尿病学会 から科学的根拠に基づいた治療のステートメントを出した経験から、私個人の意見として、今回の見解の出し方の問題点を指摘します。

【医療にエビデンスが必要という誤解】

自家造血幹細胞移植の利点を認めながらもエビデンスが十分でないことで不適切と結論しています。そもそも、医療にエビデンスは必ずしも必要なく、多くの医 療行為はコンセンサスつまり常識で行われています。Evidence Based Medicine (EBM) という考えが導入される以前の医療は全てコンセンサスです。
エビデンスを出すためには、対照群(コントロール)との比較実験が必要となりますが、コンセンサスが得られている医療がある場合、コントロールとなる医療 を受けない群をもうけることは倫理的に問題で不可能です。つまり、コンセンサスが得られすでに確立されている医療に対しては、通常エビデンスは生まれない のです。
未曾有の原発事故への対応にエビデンスのある医療なんてある訳ありません。ここは、知識と経験を持つ医師が真摯に最高の医療を考え、その考えに対しよりよ い医療にするための議論は必要ですが、エビデンスが不十分なためその医療行為が不必要で不適切という考え方は正しくありません。

【「不適切という判断」は不適切】

治療方針に対するステートメントは、コンセンサスとエビデンスの両方を考慮して「強く勧める」「勧める」「勧めるだけの根拠が無い」「行わないことを勧める」の4段階を用います。
今回の不適切という判断は、「行わないことを勧める」にあたります。
行わないことを勧めるためには、コンセンサスあるいはエビデンスが必要です。米国で、新規医療をFood Drug Administration (FDA)に申請した場合、多くの課題や意見を受けますが、行わないようにとは、決して言われません。これは、「行わないように」と言うことで、その医療 を行うことで助かった患者さんを見殺しにしてしまう可能性があるからです。ただし、いったん深刻な有害事象が起こると、それをエビデンスにその医療行為は 中断されたり中止されたりします。
日本で初めての重大な原発事故の作業員に対する医療側の準備である、自家造血幹細胞移植に、不要かつ不適切というステートメントを出すだけの、コンセンサスやエビデンスはあり得ません。彼らが出せるステートメントとしては、「勧めるだけの根拠が無い」が精一杯のはずです。

【医療を選択するのは、作業員本人】

現在の医療では、医療関係者は、医療行為を行う際に現在考えうる全ての治療を患者さんに提示し、患者さんに十分理解してもらう必要があります。患者さん は、説明を受けた医療行為の中から、自分の考えで自分に最適である医療を選択します。「福島原発緊急対応、復旧作業に現在従事している作業者に実施できる ように事前に採血保存することは不要」というコメントは、この医療行為が必要か不要かをあたかも日本学術会議が決めることができると誤解していると思えま す。医療者がすべきことは、十分な説明であり、必要か不必要かという判断は、今回は作業員本人が決めることです。

【原発の作業員を助けたい】

谷口プロジェクトをサポートする舛添要一議員が、反対の立場を取る管直人首相に人命軽視内閣と怒っていたことが、今回の本質でしょう。原発での作業者を守 りたいという真摯な思いである谷口プロジェクトを否定する日本学術会議って、本当に真摯に現場の作業員のことを考えているか疑わしくなります。
谷口プロジェクトをどうすれば、現場の作業員にとって最良のものになるのかという議論と迅速にプロジェクトを実行することが重要と考えます。

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