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Vol.25246 長崎県・壱岐島沖ドクターヘリ事故 原因究明と対策の間の違和感

医療ガバナンス学会 (2025年12月26日 08:00)


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JA尾道総合病院 / 田辺クリニック / 合同会社MONSHIN
田邊 輝真

2025年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【別紙:提言編】

【提言】空の安全と医療現場を両立させるために ― 現場視点から導く3つの現実的提案 ―

(本記事は、別稿『長崎県・壱岐島沖ドクターヘリ事故 原因究明と対策の間の違和感』における議論を踏まえた、具体的な提言内容です)
本稿は、誰かを非難するためのものではありません。 また、医療搬送を止めることを求めるものでもありません。
むしろ、 「現場を止めずに、安全をどう積み上げるか」 そのための議論を前に進めることを目的としています。
以下に、現場視点から導かれる3つの現実的提案を示します。
提案1|「点検強化」で終わらせず、メーカーへ「再度のリコール(根本解決)」を求める ― 対症療法から、根治治療へ ―
今回の耐空性改善通報(TCD)は、いわば「頻回な検査でリスクを監視する」という対症療法に過ぎません。 短期的な措置としては理解できますが、根本的な解決にはなっていません。
私たちは、メーカーに対し、以下の対応を含む「再度のリコール(根本的な改修)」を強く求めるべきではないでしょうか。

●日本の環境への適応:高温多湿・塩害に耐えうる材質・表面処理への変更

●設計の見直し:排水性の改善や、腐食しにくい構造への再設計

●安全マージンの確保:「1本しかない」というリスクを技術的にカバーする強度の確保

「壊れそうかチェックし続ける」のではなく、「壊れない部品に交換する」。 この当たり前の安全対策を、日本全体でメーカーに要求していく必要があります。
提案2|現場整備士の声に寄り添う、日本の技術の公募と「非破壊検査」の現実化 ― 異業種の知恵を借り、アナログの限界を超える ―
現場の熟練した整備士が、視力等の身体的な変化のみを理由に退場に追いやられることなく、その技術を長く活かし続けられるような配慮と工夫が必要です。
人の目と手作業の限界を、日本が持つ高い技術力で補うため、航空業界の枠を超えた取り組みを求めます。

●国内技術の公募(オープンイノベーション):航空業界内に限定せず、医療(内視鏡・エコー)やインフラ点検(微細亀裂の検知)など、日本国内に眠る高度な非破壊検査技術を広く公募し、現場実装可能なツールを探求する。

●非破壊検査(NDT)の運用見直し:「塗装を剥離しないと検査できない」といった現場負担の大きい現行法を見直し、ポータブル機器などを用いた「日常整備の中で実施可能なNDT」を採用する。

●デジタルによる可視化:摩耗や腐食の進行を数値化・画像化し、AI等で経時変化を客観的に追跡できるシステムを構築する。
「疑わしい」と感じた時、整備士が迷わず科学的な根拠(データ)に頼れる環境を作ること。 それが、ヒューマンエラーを防ぐ最大の防御策です。
提案3|「安全判断にかかるコスト」を社会で分担する仕組み ― コストバイアスを中和するために ―
安全のための部品交換や追加検査が、 すべて運航会社の自己負担である限り、 無意識のコストバイアスを完全に排除することは困難です。

●予防的な部品交換・改修への補助制度

●医療搬送の公共性を踏まえた「安全投資」という位置づけ

●「止めない医療」を支えるための財政的後ろ盾
安全判断にかかるコストを、 現場だけでなく、社会全体でどう支えるか。 この視点なしに、持続可能な航空医療は成立しないと考えます。
(提言の位置づけ)
これらの提案は、

●技術者や現場を責めるものではありません

●行政の判断を否定するものでもありません

むしろ、 「現場を守り続けるために、今、何を変えられるか」 という問いに対する、現時点での現実的な選択肢です。
結びに代えて:彼への敬意として
34歳の救急医が、これから救ったであろう数多の命。 その無数の可能性は、経済合理性という言葉では決して測りきれない価値であり、計り知れない社会的損失です。
私自身、一人の医師として「代わりのきかない存在」でありたいと願うと同時に、強く思います。
「彼の死があったから、変わることができた」 そう言える変化を、今、私たちの手で作ること。 それこそが、彼に対する最大の敬意に繋がるのではないかと考えます。

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