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Vol.26001 2026年新年によせて

医療ガバナンス学会 (2026年1月1日 08:00)


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医療ガバナンス研究所
上昌広

2026年1月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

明けましておめでとうございます。新しい年を迎え、いかがお過ごしでしょうか。

2004年1月に始まったMRICは、今年で23年目を迎えます。ここまで続けることができたのは、皆様のお陰です。この場を借り、感謝申し上げます。

昨年は医療崩壊が国民的コンセンサスになった年でした。多くの医療機関が赤字となり、閉院や倒産が相次ぎました。この状況を憂えた政府は、年末の予算編成で、診療報酬本体を3.09%増額しました。これは30年ぶりの引き上げ幅です。

これはどう解釈すればいいでしょうか。日本経済新聞は12月25日の社説で「問題は、引き上げた報酬を誰が払うかだ」と問題提起しています。毎日新聞も同日の社説で、「伸び続ける医療費の抑制は超高齢化社会を乗り切るためには避けては通れない」と論じています。

このような議論に欠落しているのは、大局的な視野です。そもそも日本の国民医療費の総額は、いくらくらいが妥当なのかという最も重要な前提が論じられていません。
この点を論じる上で有用なのは国際比較です。主要先進国は、どこも医療費の抑制に懸命です。海外と比較することで、日本医療費について理解が深まります。

実は、我が国の国民医療費は多くはありません。医療費の対GDP比は10.6%(OECD『図表でみる医療2025』)であり、G7の中ではイタリア(8.4%)に次いで2番目に低いのです。
一方、高齢化率は29%とG7で突出しています。通常、高齢化に伴い必要な医療費は増えますから、これは異様です。日本、イタリアについで高齢化率が高いドイツ(21%)並みの財源(対GDP比12.3%)を確保しようとするならば、10兆円規模の追加財源が必要となります。

今回の診療報酬増だけで、日本の医療システムは安定しません。また、医療費の抑制は重要ですが、日本経済新聞や毎日新聞が主張するように、医療費を抑制し続ければ、やがて日本の医療は崩壊します。残念なことに、日本のメディアは、このような前提を国民に紹介しません。
では、どうすればいいのか。現状の医療制度を見直さざるをえません。現状のままでは、国民皆保険制度を維持できません。それは、国民皆保険制度が、現役世代が支払う保険料や税で、高齢者の医療費を賄う賦課方式で運営されているからです。

12月24日、朝日新聞は一面トップで、「出生66万人10年連続最少」という独自推計の結果を報じました。今後も減少する現役世代だけに負担を負わすことは現実的ではありません。
医療費を負担する新たな枠組を確立しなければなりません。週刊ポストが2026年1月2・9日合併号に掲載した「足下に迫る医療崩壊 地域別経営不安の赤字病院リスト」という記事が興味深いです。編集部は全国の2023年度の公立病院の経営状態を調べましたが、最も赤字が多かったのは東京都立多摩総合医療センターで約89億円でした。次いで、都立墨東病院(約86億円)、都立小児総合医療センター(約79億円)、都立駒込病院(約76億円)と続き、トップ10は全て首都圏の病院でした。内訳は東京7,埼玉1,千葉1です。

この事実は首都圏の医療費を、都県が負担していることを意味します。我が国の診療報酬は、厚労省が全国一律に規定します。東京の一等地と、地方都市が同じですから、診療報酬を抑制すれば、東京の医療から崩壊するのは当然です。それを東京都が食い止めている訳です。東京都には、それだけの財政力があります。
東京には、東京都以外にも港区、渋谷区、千代田区などの財政力が高い自治体があります。このような自治体も「貢献」できるはずです。

東京には大企業もあります。彼らも、地域医療の維持に貢献しています。
その一つが三井記念病院です。三井グループの支援で設立された総合病院で、一般財団法人三井記念医学財団が運営します。

同院は、2017年の決算で債務超過に陥りました。この時、三井グループが協力して病院を救済したことは有名です。累積損失は約142億円、2億5400万円の債務超過でした。負債は一つの病院としては大きいのですが、三井グループとしては微々たるものでしょう。

三井記念病院は、高度医療と共に、神田周辺の地域医療を担っています。三井グループが、この地域の住民の健康を支えたことになります。
東京や大阪には、JR、NTT、パナソニック、住友グループなどが経営する病院があります。彼らは地元の患者を受け入れています。財政力があり、病院赤字は大きな問題となりません。株式会社の力を借りることも、一つの方法です。残念ながら、厚労省は、株式会社による新規の病院経営参入を厳格に規制しています。見直す時期にきています。
さらに製薬企業や医療機器メーカーなどの医療関連産業も、応分の負担をすべきでしょう。それは、医療機関の経営難を傍目に、このような企業が空前の高収益をあげているからです。

例えば、2024年度、国内主要製薬企業10社の営業利益は約1.9兆円に達しました。その中のかなりの部分は為替差益によるものです。ちなみに、同時期の大学病院の赤字総額は約500億円です。製薬企業の利益の一部を還元するだけで、経営は正常化します。

大手製薬企業は、革新的医薬品の開発で、大学病院の研究成果を活用してきました。急速に進んだ円安で製薬企業は利益を得て、病院経営は悪化しました。国家への貢献を考えてもいい時期です。

最後に、厚労省の医療行政も抜本的に見直すべきです。製薬企業などの営利企業が栄えて、医療機関が苦戦するのは、診療報酬の付け方が不適切だからです。
例えば、医師に診察に対して支払われる初診料と再診療は、それぞれ2910円と750円、心肺停止患者に対して実施される心臓マッサージに至っては3000円です。
一方、血液検査は約3500円、MRIは約2万円、オプジーボの点滴は1回当たり約50万円です。人命救助に直接的に関わる心臓マッサージの価格は、オプジーボの140分の1で、街中のマッサージより安いのです。このような事実を知る国民は、一体、どれくらいいるでしょうか。

しかも、検査や薬剤から生じる収益の大半は、検査機器の初期投資や保守・メンテナンス費、薬剤の仕入れ代金として、検査会社、医療機器メーカー、製薬企業へと流れていきます。医療機関の手元に残るのは、わずかな分にすぎません。この構造こそが、医療関連産業が拡大する一方で、医療機関そのものが疲弊していく根本的な理由です。これは厚労省の失敗です。
高齢化社会で医療は最も重要な社会的インフラの一つです。医療を持続可能にするには、従来の仕組みを「合理的」に改めていかねばなりません。そのためには、我々は試行錯誤を繰り返し、それに基づき、合理的な議論を積み重ねる必要があります。

残念なことに、本稿でご紹介した「事実」がメディアではあまり報じられません。記者の多くが、財務省や厚労省の記者クラブから得た情報を中心に記事を書いているからでしょう。彼らが関心をもたないことや不都合なことは報じられません。我が国の医療の在り方は、もっと多面的な視点から議論すべきです。
私は、このような議論をするプラットフォームとして、MRICがお役に立てればと願っています。「ここが問題だ」「こうすればよくなる」という現場からの御寄稿をお待ちしています。

本年も宜しくお願い申し上げます。

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