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Vol.155 中国における看護の発展-ベッドサイドの看護師にも求められる専門誌への論文投稿

医療ガバナンス学会 (2011年5月2日 06:00)


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東京大学医科学研究所 特任研究員 児玉有子(看護師)
2011年5月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


様々な分野で中国の発展が伝えられていますが、看護も例外ではありません。中国では、看護師長などの看護管理者の平均年齢は38.8歳、日本は48.5才 です。40歳で大学病院の看護部長を務める方もおられます。中国の看護師は、日本の看護師に「丁寧な態度」おもてなしとも置き換えられる患者への接遇に非 常に興味があるそうです。それ以外は日本以外の国からからすでに導入できている。ということなのかもしれません。
今回のレポートでは、中国のがんを専門とする看護師との議論の中から感じた中国の看護の躍進について紹介します。

【なぜ中国】
昨年夏、岐阜でアジア臨床腫瘍学会学術集会が開かれました。その際、がん看護、がん専門看護師について日本、中国、韓国それぞれの専門家が登壇したセッ ションに参加しました。この日、私は日本のがん専門看護に関する分野が中国や韓国に随分と差をつけられてしまっていることを初めて知りました。
中国からの留学生と中国の看護の質に関する研究に取り組んだ7年前から比べると、その進歩に愕然としました。しかし一方では、同じ看護職がこんなに短期間で変われることに勇気を持ちました。

【なぜ上海】
一番の理由は、先に述べた岐阜での学会の演者であるWu Beiwenさんが上海交通大学附属病院の看護部長であったことです。第2の理由は言葉の壁が高い私にとって、信頼できる通訳者となるLiang Rongrongさんが上海にいたことです。Liangさんは、昨年まで我々の研究室で研究補佐を務め、後に上海に戻っていました。彼女は文化大革命、天 安門事件で苦労して、日本にやってこられた中国の知識人です。偶然にも同じ職場で働き、友人となりました。彼女が私の渡航と打ち合わせに関する下準備を念 入りにしておいてくれたため、今回の訪問調査は非常にスムーズに進みました。
どこの国であっても人脈、人とのつがなりが重要であることを改めて感じました。

【主任、師長、部長への必須条件は論文】
中国の昇進制度は日本とは異なります。看護師資格を得たあと、試験に合格すれば、上位の称号を取得できる仕組みがあります。護士、護師、主管護師、副主 任護師、主任護師と5つの段階があります。ただ、これは看護業務を制限する資格制度ではなく、いずれの資格でも提供できる看護技術に差はありません。た だ、日本で言う病棟主任、師長、看護部長などの管理職へのステップアップに、称号の取得が条件となっています。
これは、日本で議論が進んでいる特定看護師、専門看護師、認定看護師制度と大きく異なります。

より上位資格を得るためにはいくつかの条件がありますが、日本と最も違うと感じたことは、副主任護師、主任護師へのステップアップには、英文専門誌に論 文が掲載された実績が必要なことです。通常は、3篇以上の論文掲載が求められます。必ずしも筆頭著者である必要はありませんが、専門誌への掲載歴が必要と いう条件は日本の看護師長や看護部長になるための必要条件とは大きく異なる点です。
また、これらの研究では、他分野との協同研究が高く評価されるようです。看護の中に閉じこもらない、他分野とも対等に研究(議論)できる能力が求められている結果でしょう。
現場の状況を異分野の人に理解していただける言語や数値に表わし、看護の価値を伝えて行くことを中国から日本の看護師も学ぶべきです。中国よりも10年以上早い時期に専門看護師制度をスタートさせた日本でも取り入れたらどうでしょうか。

【周りのスタッフの評価】
「論文と臨床の評価は違う」と思われる方も多いでしょう。その通りです。
主管護師以上の受験には、中国でも人物評価が加味されます。副主任護師になるには修士課程修了以上、最高位の主任護師には博士取得レベルが求められます が、主管護師以上の称号は人数が制限されるため、まず病院内で選抜されます。その際には、個人の努力と、同僚の評価が考慮されるようです。

【ライセンス取得後も勉強を続ける】
大部分の看護師は、2つ目の称号である護師まで取得します。Yanさんは、護師を目指さない人を「勉強しない看護師」、あるいは「サボる看護師」と呼んでいましたが、その頻度は20人中1名程度のようです。つまり、ほぼ全員が、ライセンス取得後も勉強を続けます。

中国は看護師の増員に懸命です。2007年に一般病棟の看護師配置基準を患者1人に看護師0.4人とし、この基準を満たすため看護師養成定員が増員され ました。また、増員に伴う質の低下にも神経を尖らせています。中国政府は病院の評価基準に看護師の質を取り入れようとしており、その際に、護師以上の資格 を持っている人の割合を参照するようです。また、50%以上の看護師が大卒となるような政策誘導しています。
繰り返しますが、これは「免許更新制度」ではありません。看護師の生涯学習、知識の更新にウェイトを置いています。このような生涯学習の機会の保障は日本の看護にも必要ではないでしょうか。

学習の機会は多様です。例えば、日中の学校の他に、夜間の学校、インターネットによる通信教育も用意されており、個人の意思で選んでいました。ただ、称 号取得のための費用は自腹です。自己投資は専門職者として当たり前のことなのでしょう。「護師の試験日前後の勤務調整が何よりの課題です」と看護部長は 言っていました。このコメントは、中国の看護師が如何に勉強しているかを示唆しています。

【ベテランを大切にする、看護も専門科を決めてのキャリア形成】
これは、私自身も重視しているポイントです。中国の看護管理者も同じようです。「ベテラン看護師は、たとえ護師であっても、同僚から一目置かれる存在で あり、このベテラン護師こそが病棟で重要な役割を持っている。特に上位称号取得の人数は限られているため、現場を支えるベテラン看護師を大切にしてい る。」と語っていました。
中国の新人看護職は、最初の1~2年目はいくつかの病棟を5~6ヶ月ごとにローテションし、3年目に看護師自身が専門に関わりたい病棟(診療科)を決 め、その分野の専門家としてのトレーニングを積みます。個人の希望で専門を決め、トレーニングが積める環境は、我が国とは対照的です。古いしがらみがない ため、合理的なキャリアパスが出来つつあるのかもしれません。

【最後に】
今回の中国との共同研究は、Liangさんのネットワークなくしては実現しませんでした。また、岐阜で衝撃受けるきっかけは癌研究所顧問 土屋了介先生からいただきました。
さらに、今回の訪問はがん研究開発費(課題番号80)の一部です。がん看護、がん専門病院に求められている看護の専門性についての研究を進めています。 がん研究開発費において看護が取り上げられることは、初めてのことと聞いています。看護に関する研究へも注目くださり、採択してくださったがん研究セン ター理事長嘉山孝正先生の看護への深い理解に感謝いたします。
多くの方々に支えていただきながら、大好きな看護の研究ができますこと、改めて感謝申し上げます。

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