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Vol.26007 地方の活力を取り戻す! 北好間での挑戦

医療ガバナンス学会 (2026年1月14日 08:00)


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本稿は、2025年12月10日に医療タイムスに掲載された記事を転載しました。

公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺センター長・臨床研修センター長
尾崎章彦

2026年1月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

■コミュニティーの絆から地方の再構築を

地方における人口減少や高齢化が進み、活力が失われつつある地域は少なくありません。前回の記事で紹介した通り、私は福島県いわき市北好間北二区を舞台に、トヨタ財団から研究助成をいただいてこの根源的な課題に挑むこととなりました。

このプロジェクトの本質は、いわき市の中でも特に強い絆を持つ北二区コミュニティの営みを下敷きに、アートを用いた「場」づくりとその学術的な評価を実施していくことです。

このほど、共同研究者で地域活動家でもあるIgokuのメンバー、小松理虔さんのお誘いで、長らく願っていた現地訪問が実現しました。北二区コミュニティの深層に触れることができ、今後の研究活動の方向性を定める上で非常に貴重な経験となりました。

■「人生すごろく」で知る人となり

北二区は、いわき中央インターチェンジから山側へと進んだ一角にある地域です。集会場の扉を開けると、おいしそうな匂いとともに食事を準備する女性陣の姿があり、奥の畳スペースでは“お母さん”たちが歌を歌っていました。

小松さんがまず紹介してくださったのが、北二区のお母さんたちのリーダー的存在であるKさんです。ショートカットがよく似合う女性です。

この日の活動の中心は、Igokuチームの猪狩僚さんが自作された「人生すごろく」でした。

私もグループの1つに参加しました。このゲームは単なる遊びではなく、サイコロを振って止まったマスに用意されたカードを引き、それにまつわるエピソードを披露する、という対話ツールです。

「小学校の校歌を歌ってみよう」「自分が落ち着く場所はどこか」といったライトな問いに加え、「蘇生処置を希望するか」「エンディングノートを書いていますか」といった、生き方や最期にかかわる深いテーマも含まれています。

終わってみれば、参加者が互いの“人となり”を知ることができただけでなく、私自身は、北好間という地域の成り立ちについても少しずつ理解を深めることができました。

■炭鉱閉鎖――衰退に立ち向かう強いコミュニティの絆

北好間地域は、かつて炭鉱で栄えた歴史を持ちます。昔はこの地区の小学校には1300人もの児童がいて、炭坑列車も走り、町には劇場があって映画や芝居などでとても賑わっていたそうです。

しかし、1950年代後半の炭坑閉山を境に人口が減少。お母さんたちが嫁いできたころには、すでに地域は衰退しつつありました。近年は、新しい建物などが建設できない「市街化調整区域」になってしまい、かつて子どもたちの遊び声が聞こえていた町の真ん中の広場にも、人の姿はありませんでした。

このままでは町の住民は減る一方です。危機感を募らせた元気なお母さんたちは、「カカシをたくさん並べてみっぺ!」と、立ち上がりました。カカシをたくさん作って並べることで地域の賑わいを維持しよう、というアイディアです。しかしそれは単なる「装飾」ではなく、コミュニティーの活力を守る切実な「手段」であったことが見えてきました。

しばらく話をしていると、Kさんらの準備した彩り豊かな食事が運ばれ、私も皆さんとご一緒させていただきました。

なお、いわき市内では約300箇所でコミュニティ集会が行われているようですが、食事を用意して皆で囲む形式はほとんど見られないとのことでした。

■「カカシ」「測定」は暮らしを取り戻す営み

今回、トヨタプロジェクトの中では、東日本大震災・原発事故後の住民の語りを紡いできた「福島ダイアログ」の記録も取り上げ、北二区とのつながりを探りながら、地域活動をどのように展開していくかを考えています。

原発災害と炭鉱閉山という全く異なる事象をどのように組み合わせるか、特に示唆に富んでいたのは、小松さんのコメントです。

「炭鉱閉山後の北好間におけるカカシづくりも、原発事故後の久ノ浜における放射線測定も、住民が『暮らしを自分たちの手に取り戻す』ための営みとして、本質的に共通する根っこがあるのではないか」

文化的実践と科学的実践という一見異なって見える活動は、いずれも地域の危機的状況下で、住民が自らの暮らしをたぐり寄せるための“プロトタイプ”として機能した可能性があり、本質的に同じなのかもしれません。

プロジェクトではまず北二区に注目していきますが、きっとさまざまな地域、さまざまな時間軸で、人々の生活と結びついた「暮らしを自分たちの手に取り戻す」営みがあることでしょう。今後少しずつ、いわきの他の地域にも着目し探っていきたいと考えています。

■「語り」から未来を拓く

今回の訪問で、地域の人たちとの「語り」を通じて地域再生のヒントを導くことが、私たちのプロジェクトの重要なプロセスになるとの手応えを得ました。

例えば、「人生すごろく」のようなゲーム形式の対話ツールは、お互いの人となりを知るにとどまらず、地域の人たちが共有し、大事にし、彼らを束ねているコミュニティ体験(昔の遊び、地域限定の祭りなど)を探る、重要な手掛かりとなります。

北好間での研究活動は、単なる学術調査ではなく、強い絆を持つコミュニティの歴史と知恵を未来につなぎ、日本各地の地方再生モデル構築に向けた挑戦です。今回の貴重な経験を糧に、「語り」から未来を拓く活動を深めてまいります。

 

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