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Vol.26011 ニキビ治療で皮膚がめくれ「外に出るのも人に会うのもイヤ」 女性医師が学んだ「共感」の重要性

医療ガバナンス学会 (2026年1月20日 08:00)


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この原稿はAERA DIGITA(2025年10月29日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/268395?page=1

内科医
山本佳奈

2026年1月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ニキビを治したい。その一心で、1カ月越しにようやく受診できた皮膚科で、処方された薬によって、思いがけない痛みとつらさを初めて体験することになりました。

ニキビ治療に関する知識は持っていたものの、実際にどのような経過をたどるのかは「教科書で知っている」にとどまっていました。頭では理解していたはずのことが、自分の顔で起きると、まったく違う現実として迫ってきたのです。

アメリカでは、日本のように気軽に皮膚科を受診することができません。もし日本にいたら、「どうしたらいいか」とすぐ病院に行っていたと思います。しかしこちらでは、専門医にかかるまでのハードルが高いのです。

まずプライマリケア(かかりつけ医)を経由し、紹介状をもらってから予約を取らなければなりません。診察まで数週間、場合によっては1カ月以上待つことも珍しくありません。保険の種類によっては自己負担も大きく、心理的にも「もう少し様子を見てみよう」と思ってしまいます。

結局、自分でネットを調べ、英語の情報と格闘しながら、ひりつく肌を抱えて過ごす日々が続きました。洗顔剤や日焼け止めを変えたり、こまめに日焼け止めを塗ったりと、いろいろ試す日々が続きました。

しかし、一向に改善しない肌の状態に見かねて、プライマリケアにメールをすることに。「そんな症状なら、ニキビセンターに直接電話して予約を取って」と言われ、予約が取れた1カ月後にようやく皮膚科を受診することができました。

処方された塗布タイプの抗生剤とレチノイン酸での治療を始めてから2週間が経った頃から、肌荒れがみるみるひどくなりました。3週間目には、火傷したような強い赤みとひりつき、顔全体のつっぱり、鱗のようにめくれる皮膚——冒頭に書いたような症状が突然現れ、日に日にひどくなっていきました。

皮膚が少しでも動くとピリピリと刺激が走り、保湿剤を塗るにも、洗顔するにも痛みを伴いました。口を開けて笑うことさえためらわれ、外出する気も起きず、人と話すのも億劫になりました。たかが肌、されど肌。皮膚は、私たちを世界とつなぐ境界のようなものだと実感しました。

そんな時、通っているカイロプラクティックの先生に肌の状態を嘆きました。「顔が痛くて、外に出るのも人に会うのも嫌になります」と話すと、先生は親身になって自身の経験を話してくれました。「私も同じように皮がむけて痛かったけれど、しっかりと保湿剤を使ったら落ち着いたよ。あなたもやってみて」と。

たったそれだけの言葉でしたが、不思議と心が軽くなりました。専門家の助言ではなく、同じ経験をした人の共感が、こんなにも支えになるのかと感じました。その日から、先生のアドバイス通り、保湿を丁寧に重ねました。

すると、みるみるうちに肌の状態が落ち着いていきました一時は「この状態が続くなら、仕事も休みたい」と思うほどでしたが、数日で痛みが和らぎ、レチノイン治療を再開できるまでになりました。やっと救われた気がしました。肌が少しずつ落ち着いていくにつれて、心までやわらいでいくのを感じました。

皮膚は体を覆う最大の臓器であり、外見の変化は心にも大きな影響を及ぼします。実際、近年の研究では、ニキビやアトピーなどの皮膚疾患を抱える人では、抑うつや不安のリスクが高いことが報告されています(JAMA Dermatology, 2023)。皮膚と心は、神経やホルモン、免疫のネットワークを介して深く結びついているのです。

そして、今まで妹がひどいアトピーに悩むのをそばで見てきましたが、こんなにつらかったのかと、36歳にして初めてわかった気がしました。肌のトラブルは、単なる美容の問題ではなく、自己肯定感や社会との関わりにも影を落とすのです。治療を続ける意思を持ちながらも、日々の見た目の変化に一喜一憂する——その気持ちは、経験しなければ理解できませんでした。

今回の経験で、医療とは「正しい治療法を伝えること」だけではないのだと改めて感じました。近年の研究でも、医師の共感的な姿勢が患者の満足度や回復意欲を高めることが示されています(Patient Education and Counseling, 2021)。医学的な正しさの裏で、患者の「心の皮膚」にも寄り添える医師でありたい。そう思わせてくれたのは、アメリカの乾いた空気と、一人の先生の何気ない言葉だったのでした。

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