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Vol.158 原発作業員およびご家族、国民のみなさまへ(下)

医療ガバナンス学会 (2011年5月4日 06:00)


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〜原発作業員のための自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)の採取(さいしゅ)と保存計画について〜

虎の門病院血液内科
谷口修一
谷口プロジェクト事務局一同
Save Fukushima 50

http://www.savefukushima50.org/?lang=ja

2011年5月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


これでおしまいになりますが、私たちの意見を、子どもから大人まで、一般の方に分かりやすい文章としてまとめました。MRICでは(上)、(中)、(下)の3回に分けて配信して頂きます。

【9.誰が保存すればいいのか】

原発作業員の中の、誰が私たちの提案する計画を実際に受け、自分の造血幹細胞(ぞうけつ かんさいぼう)を保存すればいいのか、というのは難しい問題で す。みんなが一人一人違うからです。若い人もいれば年配の人もいます。放射線のせいで病気になりやすそうな人もいれば、そうじゃない人もいます。また、原 発の仕事と一口に言っても、ずっと長くはたらく人もいれば、ちょっとの間だけしかはたらかない人もいると思います。仕事に慣れたベテランの人もいれば、仕 事場に生まれて初めて行く人もいます。はなれた所であまり危なくない仕事をする人もいれば、放射線の出ている場所に近づいて、すごく危ない作業をする人も いるんだと思います。一人一人の考え方も違うでしょう。事故なんか起こらないだろうから大丈夫、と思う人や、心配性だからできることは何でもやっておいて 安心したい、という人もいるでしょう。

ですから、私たちの計画についてよくよく説明を聞いて、十分納得してもらった上で、保存をするのかしないのか、原発作業をされる方の一人一人がちゃんと 選べるようにするのがとても大切だと考えています。これは、原発作業員のみなさんは全員保存しないとか、全員保存するとか、いっぺんに決めてしまうより手 間のかかる方法ですが、一番いいやり方だと思います。

私たちは原発での作業の様子をテレビや新聞などで知っているだけで、実際の原発の仕事場がどうなっているのかは、行ったことがないので分かりません。危 なさがどれくらいあるのか、本当のところは知らないのです。ただ、この作業はまだまだ長くかかりそうだという話です。今まで起こったことのないようなタイ プの大事故なので、危険がとても多いようにみえます。

私たちの提案は、大きな原発事故に対して人類の歴史の中で初めて行うような計画になります。私たちの提案した計画は正しいことなのでしょうか? どんな 偉い人でも、賢い人でも、外国の人でも、その正解を教えてくれないし、そもそも正解を知っている人なんて神様しかいないのです。そんなことはやったことが ないからやらない方がいいよ、という人がいるのも、もちろんよく理解できます。ですから、何年か経った将来には、やっぱりやらないで良かったね、というこ とになるかもしれません。逆に、あのときやっておけば良かった、という話になるのかもしれません。福島県の原発事故は、日本で起こった大事故なのですか ら、私たち日本人が自分自身の頭でちゃんと考えて、自分の責任でどうするのかを決める必要があるのだと思います。

【10.分かりやすくするためのたとえ話】

私たちの提案を分かりやすくするために、たとえ話を使って説明してみると、こういうことになります。

津波に対して堤防をつくることを考えてみてください。政府や原子力安全委員会などの人たちは、5メートルの高さの堤防を作りました。今のところ、これで 十分防げるだけの大波しか来ていません。でも、私たちは津波がきたときに備えて、7メートルくらいの高さの堤防にしようよ、と提案しています。それには手 間もお金も時間もかかりますし、堤防を高くするときにかえって別の事故がおこるかもしれません。これから大波しかこないなら、堤防を高くしても無駄なだけ になります。逆に、大津波が来てしまったら、私たちの提案する堤防でも何の役にも立ちません。ちょうどよい大きさの津波が来たときにだけ、私たちの提案す る堤防が役に立つというものです。

また、もしものときの保険にたとえることもできます。万が一の事故が起きても、困らないように保険をかけるのです。保険をかけたからといって、実際に事 故が起こってほしいと思う人はいないでしょう。私たちも同じです。自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を保存したとしても、実際にそれを使っ て移植するような事故が起こらず、保存した細胞を使わないですむのが一番いいと考えています。

私たちは、現代の医療で最もいいものを用意したいのですが、予測のできない未来や自然の力の前では、いくら人間が進化して何でもできるんだ、といばって みても、この程度のものなのです。何が起こっても大丈夫、という方法は残念ながらありません。そういう意味では、私たちみんなは謙虚な気持ちで、みんなで 仲良く支え合って生きていくのが、一番大切なのだと思います。

【11.私たちの計画の現在の状況】

私たちが最初にこの計画を提案してから、すでに一ヶ月以上が経ちました。私たちの提案に対して、原発の問題に一番くわしい専門家の原子力安全委員会や政 府の人たちは反対しています。彼らの意見にはもっともな面もありますが、私たちと違って医療の専門家ではありません。ところが、日本を代表する科学者が集 まる、日本学術会議の人たちも反対しているという意見が先日でてきました。私たちはこの意見書を読んでとてもびっくりしました。というのは、偉い科学者た ちが集まって書いたはずの作文なのに、内容が間違いだらけだったからです。この人たちは、自分たちがどうして反対しているのかきちんと理解せずに、ただ反 対意見を言っていた、ということです。ここで私たちは、よく勉強している大人の人たちにも、ちゃんと私たちの意見が伝わっていないことに気づき、自分たち の説明の方法に不十分な点があったことがようやく分かりました。

今回の原発事故の問題を分かりにくくしているのは、私たち専門家が難しい言葉ばかり使っているのも原因の一つだと分かったのです。専門家だけで通じる特 別な言葉を使って議論するだけでは、全く駄目だということです。私たちは医療の専門家ですが、その仲間の間でさえも、うまく言葉が伝わっていないために勘 違いが起こっています。意見が違うというだけでなく、思い違いや誤解があるために別の意見になってしまうのです。科学者の間ですらこうですから、原発作業 員のみなさま、そのご家族や親戚、友人たち、さらには一般のみなさまには、私たちの意見と、政府や他の専門家たちの意見がどうしてまとまらないのか、なか なか理解できなかったと思います。

そこで私たちは、できるだけ分かりやすい言葉で、私たちの考えを説明するために、これまでの文章を書きました。専門家で意見が違うことはよくありますの で、実際のこの医療を受けるかどうかは、私たちの提案をよく理解してもらった上で、原発作業員のみなさまの一人一人の考えを大切にして決めるのが一番だと 思います。福島の原発事故は、私たちの大事な日本で起きた問題なのですから、偉い人や外国の人などの意見に任せるのではなく、日本人のみんなが自分の頭で ちゃんと考えて、自分自身で責任の持てる意見を持つことは、とてもとても大切なことです。

【12.おわりに】

私たちは、今まで何年も何十年も、白血病など血液の病気の人たちの研究と治療をしてきました。これまでの知識と経験から、私たちは、原発作業員の人たち が、自己造血幹細胞(じこ ぞうけつ かんさいぼう)を前もって保存しておけば、万が一、放射線被ばく事故が起こってしまったときに役立つに違いないと考 えています。これは政府や他の専門家の偉い人たちが反対しても、変わらない意見です。

最後に、私たちの大好きな宮沢賢治(みやざわ けんじ)さんの言葉を借りて、私たちの説明はおしまいにします。

「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない。」

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