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Vol.198 糖尿病が治る時代が到来!?― 国際膵臓・膵島移植学会に参加して―

医療ガバナンス学会 (2011年6月23日 06:00)


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ベイラー研究所 松本慎一
2011年6月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●国際膵臓・膵島移植学会
6月1日から4日までチェコのプラハで開催された国際膵臓・膵島移植学会に参加してきました。国際膵臓・膵島移植学会は、文字通り膵臓移植と膵島移植に特 化した学会です。移植という医療自身専門性が高いのですが、その中でも膵臓移植と膵島移植に特化しているというとっても専門色の濃い学会です。ただし、目 的は、皆さんがおなじみの糖尿病を治してしまうことにあります。

●糖尿病を治してしまうとは?
糖尿病は、血糖値が慢性的に高い病気ですが、インスリンという血糖値を下げるホルモンが不足していることが主な原因です。そして、このインスリンを出す唯 一の細胞が膵島細胞なのです。膵臓移植は、この膵島細胞を補うために膵臓という臓器をそのまま移植します。膵島移植は、膵臓から特殊な技術を用いてインス リン産生細胞である膵島細胞だけを取り出して点滴の要領で肝臓の血流にのせて移植します。このように、膵島細胞を補うことでインスリン分泌不足を解消し、 糖尿病を根本的に治してしまおうというのが、膵臓および膵島移植なのです。
膵臓移植が大掛かりな手術が必要なことから、最近では点滴で移植ができる膵島移植の研究や臨床応用が世界的に盛んとなっています。

●今学会での膵島移植のハイライト
膵島移植は、2000年にカナダのエドモントンのグループが、膵島移植を行った後7名の1型糖尿病患者さんのインスリン注射が不要になったと発表して、世 界的に一気に臨床応用が広がりました。この方法はエドモントン法と呼ばれて、臨床膵島移植の標準となりました。1型糖尿病とは、糖尿病の5%ほどを占める 自己免疫による膵島破壊のために起こる糖尿病です。この病気は大半の患者さんでインスリンがほとんど出なくなってしまうために、生命の維持にインスリン注 射が不可欠となります。
ただ、エドモントン法には、膵島分離の技術が難しく2回以上の移植が必要であること、移植後5年経つとインスリン注射の再開が90%の患者さんで起こるこ と、拒絶反応を抑えるための免疫抑制薬のひとつであるラパマイシンという薬に副作用が多いことが課題として上げられていました。

今回の学会では、エドモントンのグループから、免疫抑制剤を工夫することで移植後5年経ってもインスリン注射から50%以上の患者さんが離脱状態であることが発表され、膵臓移植と遜色が無い成績にまで向上していることが示されました。
また、我々のグループからは、日本で開発した膵島分離方法を用いると膵島分離の失敗は無く、1回の移植でインスリン注射からの離脱が可能であり、さらに、副作用が多いラパマイシンは全く使用しないことで移植後の患者さんの生活の質が劇的に改善することを発表しました。

つまり、エドモントンプロトコールの欠点である、複数回の移植の必要性、膵島分離の困難性、長期インスリン離脱の維持の困難さ、ラパマイシンの副作用はすべて解決できることが証明されました。
我々にとってうれしかったのは、エドモントンのグループが、我々のベイラー法を採用したと発表したことです。アメリカでは膵島移植はまだ研究的医療で行わ れているために症例数が増えにくいのですが、エドモントンのグループがあるカナダではすでに膵島移植は標準治療であるため症例数を増加させることが出来ま す。そして、世界をリードしてきたエドモントンのグループがベイラー法を採用したということで、我々が生み出したベイラー法が次世代の標準になってくれる のではないかと期待しています。

●バイオ人工膵島移植が糖尿病治療を変える!
今回、最も衝撃的だったのがニュージーランドからのブタの膵島を用いたバイオ人工膵島移植の臨床応用です。
まず、彼らは、偶然発見されたオークランド島に生息する無菌状態のブタを清潔の施設で飼育し、ウイルスモニターシステムを構築することで、臨床応用が可能なブタのコロニーの作成に成功していました。
そして、そのブタの膵島を特殊な膜に包むことで、拒絶反応を起こす抗体や細胞から膵島を守りつつも、膜に開いた小さな穴からブドウ糖やインスリンを通すことに成功していました。つまり、この方法を用いると免疫抑制剤を使わずに移植を行うことが出来るのです。
実際にこのバイオ人工膵島移植の臨床応用の許可をニュージーランド政府から取り付けて、1型糖尿病の患者さんに移植していました。
免疫抑制剤を使わないために、免疫抑制剤に関する副作用は当然ながら全くありません。インスリン注射からの離脱率は低いものの、ほぼ全例で血糖値が改善しインスリン注射の副作用である低血糖発作はなくなっていました。

つまり、ブタの膵島を用いるために脳死ドナーに頼る必要も無く、特殊な膜で膵島を包むことで免疫抑制剤を使う必要も無くなった、まさに次世代の膵島移植をすでに臨床応用し、画期的な成績を出していました。
この発表の座長を行っていた、異種移植の世界の第一人者の一人であるピッツバーグ大学のクーパー教授は、「ニュージーランドチームの努力のおかげで、ブタ 膵島を用いるバイオ人工膵島移植の新しい時代の幕が開けた。今後、他の国でも同様な治療が開始される重要な礎を築いた。」とコメントされました。数年前ま で、米国が世界この分野をリードしたいという思惑もあってか、他国での臨床試験には厳しい評価をしていた米国のリーダーが、とうとうニュージーランドチー ムの努力を認めたこの瞬間、私はとてつもない感動を覚えました。
ドナー不足と、免疫抑制剤の心配がない、バイオ人工膵島移植時代の幕開けです。

●最後に
国際膵臓・膵島移植学会は、膵島移植を専門にしている私にとって最も重要な学会です。私がベイラーにリクルートされたのも、2005年のこの学会での発表 がきっかけでした。今回も、私は発表をきっかけに、すでにいくつかの共同研究の話が来ていますし、さらに、米国の某大学から引き抜きの話も来ました。
日本では、論文発表が重視されますが、世界を動かすのはやはり学会でのプレゼンです。なぜなら、プレゼンは感動を呼び、人は感動によって動く動物だからで す。バイオ人工膵島移植による糖尿病根治時代の到来は、私に感動を与え、私は新しい研究がしたくて仕方が無くなっています。

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