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Vol.208 国民に知らされない「増税の一方で給付制限」という不都合な現実

医療ガバナンス学会 (2011年7月6日 06:00)


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※このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2011年7月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

政府が議論を続けている「社会保障と税の一体改革」の最終案の調整が続いています。財源不足は待ったなしの状況であり、担当する与謝野馨経済財政相は「最低でも2015年に(税率引き上げ幅が)5%ないと、社会保障も財政ももたない」と発言しています。
経済状況が好転してから増税すべきだという意見もあり、「2015年度までに」消費税率を10%引き上げ、「2025年度までに」20%引き上げ、という増税の時期が焦点になっているようですが、それよりもこの議論の中でもっと注目して欲しい部分があります。
それは、消費税の増税が行われようとしているだけでなく、社会保障費の給付を2015年度までに1兆2000億円抑制する案が盛り込まれていることです。
大幅な増税を行った上に、給付抑制をしなければならないという不都合な現実が、ほとんど報道されていないのではないでしょうか。

●医療費にかかる消費税はすべて医療機関が負担している
まず、社会保障整備の財源にあてられるであろう消費税と、医療費の関係について整理しておきましょう。
あまり知られていませんが、医療費は消費税非課税です。
消費税は、通常の業種であれば消費者に転嫁され、企業が負担するものではありません。けれども日本の医療や介護の料金は保険点数で金額が定まっている上に、消費税非課税であるため、医療材料や薬、外注委託費などに発生する消費税分を利用者から回収することはできません。
結局、消費税金額はすべて医療機関が負担する構造になっているのです。

今回、消費税が増税されるとするならば1994年以来のこととなりますが、この15年以上の間に状況は大きく変わっています。
診療報酬の本体部分が数%ずつ増額されていた時代であれば、消費税金額は保険点数内で吸収することができたでしょう。けれども小泉政権の2002 年度以降の医療費マイナス改訂で、医療費はずっと下がっていました。民主党が政権を取った2010年度にも、改定幅がほぼマイナスゼロになっただけなので す。

少なくとも消費税分は医療費が増額されないと、消費税の増額分がそのまま医療機関の負担に反映されることになります。現場では、その分のサービスカット(または医療従事者の過重労働)につながらざるを得ません。
社会保障を維持するための消費税アップが、結局、保険診療内でぎりぎりまで頑張っていた多くの医療機関にとどめを刺してしまうかもしれません。そんな皮肉な事態にならないよう、対策が行われることを切に希望します。

●仰天するしかない医療費抑制目標
さらに私が問題だと思うのは、政府が6月17日に発表した「社会保障・税一体改革成案」
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/kentohonbu/kettei4/siryou1.pdf)
の医療介護分野においての工程表の中で明記されている医療費抑制政策です。
これは、現場からすると仰天するしかない内容です。

まず、「(患者の)平均在院日数を、現在の19~20日から、2025年には一般急性期においては9日程度、高度急性期においても15~16日程度に短縮する」と記されています。
そして、「外来患者数を2025年に現行ベースより5%程度減少」、さらには「要介護認定者数を2025年に現行ベースより3%程度減少」と記されています。
日本の老年人口は、団塊の世代の引退とともに急速な増加を続けることはほぼ間違いありません。2025年においては、老年人口(65歳以上の人口)が現在の25.9%から30%近くにまで達するとされています。
医療や介護を必要とする高年齢層が急激に増加するにもかかわらず、入院日数の削減、外来患者の削減、要介護認定の削減が同時に行われるということです。
その状況を、私はあまり想像したくありません。

現場レベルでは、入院日数を削減するため、まだ入院が必要な(または、入院しておいた方がベターと思われる)人たちに早期退院を促すことが、今まで以上に頻繁に行われるようになるでしょう。
外来患者を削減するため、診察予約を取るだけで数週間待ち、または診察を受けても短時間だけという不十分な診察が多発するでしょう。
そして、要介護認定者数を削減するために、申請に必要な書類を複雑化して取得させにくくしたり、更新時の資格取り消しなども半ば強引に行われることでしょう。
今回の改革改正案においては、急性期医療に医療資源が集中投入されるという案も盛り込まれています。しかし、大部分の方にとって不便を感じる部分が大幅に増えるのは間違いないと思われます。

●「増税かつ給付抑制」のインフォームドコンセントを
最後に、何よりも私が最大の問題だと思うのは、大幅な増税かつ給付抑制の両者を同時に行わなければならないという不都合な現実が、一般社会においてまったく知られず、理解されていないことです。
現在、15%以上という電力削減目標が社会全体のコンセンサスとなっているように、「入院日数50%以上削減、外来人数5%削減、要介護認定数3%削減」といった数値が、社会全体のコンセンサスとなっているとは到底思えません。
税と社会保障の一体改革についての報道は、増税時期についてのものがほとんどです。そうした報道から「増税が認められれば、社会保障制度がこれまで通り維 持される」と考えている人が大多数でしょう。しかし、実際に会議で検討されている内容は、増税だけでなく給付抑制もセットになっているのです。
国民全体にそうした論点が周知徹底された上で政策決定がなされることを、強く私は望みます。

参照:「社会保障・税一体改革成案」

siryou1.pdf

 

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