医療ガバナンス学会 (2011年7月26日 06:00)
しかし、この事件にはもう一つの大きな問題が内在する。それは捜査対象である病院に、しかも捜査が行われている最中に、捜査当局のOB二人が就職している という、異様な事態である。このような構造があれば、病院側はOBを通じて捜査情報を入手する可能性が開ける。この構造自体が本件のような守秘義務違反を 生む基盤であり、これから派生した守秘義務違反をいくら糾弾しても、この構造に対して司直のメスが入れられない限り同種の事件の再発を防止することは不可 能であろう。しかし、どの新聞も22日夕刊までの時点でこの点に関して何らの論評も加えていない。
逮捕された白鳥警部は守秘義務違反容疑に対して強く否認していると云うが、捜査対象の病院に対してOBの就職を強く迫ってきた、と言う事実を否認することは出来まい。
なぜなら、私自身が院長を務めていた病院において、業務上過失致死事件があり、病院側が事実を隠蔽しているのではないかと疑われて2004年4月から12月まで実に8ヶ月間、白鳥警部のチームの捜査を受けた際、同様にOBの就職を持ちかけられた経験があるからである。
捜査本部の置かれた目黒署に呼び出しを受け、事情聴取されたが、そのさなかの8月頃と記憶しているが、事情聴取の合間に白鳥警部から「これから病院も患者 とのトラブルなどで大変なことも多いだろうし、警察が介入することも多くなるだろうから、対策として警察のOBを雇ったらどうか。そうしている病院もたく さんあって喜んでもらっている。今、適当な人がいるが、年俸600万円でどうか」というのである。
私は捜査官が、捜査中の病院の院長に対して、警察OBの就職を斡旋する事実に驚愕した。そんなことしていいんですか、と私が問うと「病院のため思って云っ てるんだ」とのことであった。私は「いま、そのようなことが病院に必要だとは毛頭思わないけれど、事務部長にも聞いてください。事務部長もウンとは云わな いと思いますよ」と答えたが果たして事務部長もウンとは云わず、この話は沙汰止みになった。
内心、この話を受けておけば、医療過誤事件に関しても、また平行して進行している民事損害賠償請求事案に関しても、有利な手心を加えてもらえるのではないか、との誘惑を感じたことも事実である。
しかし、捜査をする側と受ける側という、力関係の大きな傾斜のある中で、年俸600万円のポストがやりとりされる、というのは異様な事態であり、禁止する 法律はないのかも知れないが、捜査側も、病院側もこのようなことを自制するだけの節度を持たなければならないと私は考えた。医療問題に詳しいとして白鳥警 部が捜査に入った医療機関では、同じようなやりとりが行われたはずである。
多くの病院は、良識ある節度を維持していたと思うが、品川美容外科病院はこの誘惑に勝てなかったのであろう。
捜査中白鳥警部の節度を欠いた行動は、これのみではない。2004年9月8日、病棟の看護師から、夜な夜な白鳥警部から携帯電話で呼び出され、中目黒の歓 楽街で酒席の相手をさせられている、という訴えがあった。事実を確認して警察監察部等、しかるべき所に連絡して対応するのが、院長としての責務であると私 は考え、事実を確認するため、看護師に電話会社に連絡して通話記録を提出してくれるよう求めた。看護師の側は通話記録には個人情報が多く含まれていること を憂慮してのことであろう、この求めには応じず客観的な証拠を示すことが出来なかったため、それ以上の対応を断念せざるを得なかった。
このころ、白鳥警部は、「本庁で俺が病院の看護師を妊娠させた、と言う噂が広がっている。この病院の女性職員の中で警察関係者の妻である者がいれば、それが噂を流している張本人だろう」といって、職員を聴取していたようであるが、あきれるという以外に言葉がなかった。
これらの院長側の対応に白鳥警部は激怒し「あの院長だけは牢屋にぶち込んでやる」といきまいているので心配です、とのコメントが部下の医師達から寄せられ るようになった。はたして、11月8日、白鳥警部は私に「病院を救うには」との名目で院長職の辞任を強く迫り、私も部下の業務上過失致死容疑について、院 長としての立場上の責任を取って11月末日に院長職を辞した。事故の隠蔽の容疑に関しては、その事実はなく、病院側は事故直後に司法解剖を申請し、公正な 死因の究明を期したが、警察に対して再三、司法解剖の結果の開示を求めても拒否され、解剖所見のないままに院内の事故調査委員会は報告書を作らざるを得な かった。
報告書は委員会から院長に宛てた報告書であり、内部文書として扱われるべきものであり、公印を要する文書ではない。白鳥警部らはこの文書の内容に、解剖所見と異なる部分があり、それが偽造にあたるとして「有印公文書偽造同行使」の共犯として私を書類送検した。
当然、検察は「文書は公文書ではないし、内容も偽造とは言えない」として不起訴にした。白鳥警部は事前に事態がこのように帰結することを熟知していた。に もかかわらず敢えて送検することは、OBの就職に非協力的であり、白鳥警部の非行とも言える行為を告発する姿勢をみせた院長を、送検に伴う報道によって バッシングすることを目的としたものであり、その目的は十分に果たされたのである。
現今、検察の不祥事が大きく報道されているが、市民との関係から云えば、警察の方が遙かに広い裾野をもっている。司法警察のこのような不適切行為が明るみに出され、浄化されて信頼が回復されることを強く望むものである。