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Vol.229 日本医師会「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言」の改善点(私案)〔第1回〕

医療ガバナンス学会 (2011年8月5日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成
2011年8月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●はじめに
1.日本医師会の「医療事故調査に関する検討委員会」が平成23年6月に、「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言について」という答申を出した。
7月13日には、日本医師会の高杉敬久常任理事がそれを公表し、「医療関連死は警察に届けても解決できない。我々医療界が、きちんと答えを出して対応して いく必要がある。」と述べたらしい。最大かつ重要な1つの医療団体が、自律的な対応を積極的に打ち出したことは高く評価されるべきことだと思う。他の各種 医療団体も、これに続いて独自の自律的取り組みの提言を打ち出すことが期待される。
併せて、高杉常任理事は、「提言の内容を世に問い、さらに改善点を検討しながら提案していきたい。」とも述べたらしい。そこで、私案にすぎないが、「基本的提言」の改善点を摘示しようと思う。それは標語風にいえば、「より自律的に、もっと多様性を」というものである。

2.そもそも「基本的提言」は、刑法改正、医師法改正(但し、第21条は除く。)、民法改正には全く言及していない。このままでは、業務上過失致死罪(刑 法第211条第1項前段)に基づく刑事介入、医師法に基づく行政処分の人数の激増、医療過誤損害賠償(民法第415条・診療契約債務不履行、民法第709 条・医療過誤不法行為)の紛争頻発の各リスクから逃れられない。「基本的提言」には中長期的課題としてすら挙げられていない理由は、現行の刑法・医師法・ 民法を所与のものとの大前提を置いたからであろう。
そのため、かつての「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」や「第三次試案」と全く同じ基本構想に基づいてしまっている。「大綱案」や「第三次試 案」と同じ基本構想で運営されている「産科医療補償制度」とも変わらない。それらはいずれも、職権主義的・他律的・外部者主導の考え方と、網羅的な事故情 報収集システムの法技術に基づく。この度の「基本的提言」もその骨格は同じである。
ただ、民主党案や日本救急医学会の提言にも配慮し、多少マイルドに体裁を施したので、さほど悪くはない。とは言え、足して2で割ったにすぎない、との批判は免れないであろう。

3.そこで、専ら技術的な観点から私案としての改善点を提示して行きたい。その根底にある理念や、真の患者の権利との関係、医療と法律のあつれき、司法界 に内在する問題点などといった根源的な論点は、まだ十分な議論が必要だと思われるので、本稿では余り触れないこととする。

●目次
1.序論―改善点(私案)-より自律的に、もっと多様性を

2.総論―自律・多様な組織と権限にすべき
(1)日本医師会は重要だが1つの団体にすぎない
-他の各種の医療団体ごとにも医療事故調査制度を設けるべき
(2)医師会の中核は郡市区医師会
-日本医師会統一でなく、それぞれの郡市区医師会ごとに事故調を設けるべき
(3)第三者的機関の権限はチェックのみ
-第三者的機関は自ら事故調査をするのでなく、院内事故調の事故調査をチェックするだけ
(4)院内事故調査委員会は医療の内
-外部調査委員会でなく内部調査委員会なので、外部委員は不要
(5)院内事故調の基本モデルは診療所とすべき
-診療所の院内事故調こそが基本モデルで、大病院の院内事故調はそのバリエーションにすぎない
(6)院内事故調は死因究明でなく死亡原因診断の充実を目指すべき
-死因を究明して確定・認定するのでなく、死因を検証・分析し、死因の診断を充実すべき
(7)死亡診断書に「診療関連死」と「Ai」「分析」の欄を創設
-「診療関連死」を除外するためには、死亡診断書の書式を改めることが必要不可欠(たとえば、死因の種類「1病死及び自然死」を「1病死及び自然死並びに診療関連死」に改めてはどうか?)
(8)ADRは対話型ADRで
-ADRとして必要なのは対話型ADRだけであり、仲裁型ADRは有害で、産科医療補償制度と同類になってしまう
(9)真の患者救済制度の創設のために
-日本医師会医師賠償責任保険の運用実績(保険料と保険金の数値)を訴訟・調停・示談ごとに公表・分析・検討すれば、真の完全な無過失補償制度が直ぐに構築可能
(10)警察による非自然死の死因究明制度との棲み分け
-警察は放って置くと診療関連死も捜査対象としてしまうので、その棲み分けのためには医師法第21条改正だけでは足りない
(11)行政処分の人数の激増のリスク
-このままだと行政処分の人数が激増しかねないので、そのリスク回避策が必要

3.各論―提言の各項ごとに注釈

4.終わりに―事故調は本当に必要なのか?
-本当に「事故」ならば医療安全管理委員会が適切だし、本当は「事故」でないのに「事故」だとクレームを言われたら苦情処理委員会が適切なのではないか。結局、その存在意義は正しくは検証委員会か分析委員会なのではないか。

[第2回]に続く。

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