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Vol.230 HTLV-1と母乳育児に関するJALCの見解

医療ガバナンス学会 (2011年8月8日 06:00)


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日本ラクテーション・コンサルタント協会代表理事
亀田総合病院新生児科
奥 起久子
2011年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


7月6日に厚労省、7月22日に小児科学会から、HTLV-1についての見解が出ました。

・厚労省第1回HTLV-1対策推進協議会資料

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hye8.html

・ヒトT細胞白血病ウイルスの経母乳感染に関す日本小児科学会の見解

http://www.jpeds.or.jp/saisin-j.html

日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)学術委員会は7月4日付けでサイト( http://jalc-net.jp/ )
にこの件についての見解をアップしました。母乳と人工乳は同じと看做していいものであり、ウイルスの感染だけを考慮すればいいのであれば、人工乳を選択す る事が推奨されるでしょう。しかし人工乳と母乳は同じではないので、母乳を選択しないがためのデメリットと言うものも秤にかける必要があります。開発途上 国でなくとも、母乳を選択しないがためのデメリットは無視できないと私たちは考えており、広い視野に立ってお母さんが選択できるよう、適切な情報が提供さ れることを希望します。

http://jalc-net.jp/HTLV-1.html

http://jalc-net.jp/rHTLV-1.pdf

「ヒトT細胞白血病ウイル9(HTLV-1)と母乳育児に関する JALCの見解」
HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)はATL(成人T細胞白血病)やHAM(HTLV-1関連脊髄症)など重篤な疾患の原因であり、これらの疾患の有効な治療法は残念ながら未だ確立されていない。

こうしたことから、このウイルスによる感染を可能な限り減らし、将来の発症者を減少させるため、新たな感染を予防する対策を速やかに実施する必要があると された。また、HTLV-1の感染経路の6割以上は、母乳を介した母子感染であることから、全ての妊娠している女性を対象に抗体検査が実施されることと なった。この抗体検査における注意点として、スクリーニング検査で陽性の場合必ず確認試験を実施する必要がある。

確認試験で判定保留の場合はPCR法を行なうことを提案するなど慎重に判断しなくてはならない。今までの研究によって人工乳哺育によって感染のリスクが一 定程度低減できることが報告されているが、人工乳のみならず凍結母乳や生後3ヵ月までの短期間の母乳育児も人工乳と同程度の感染のリスク低減が報告されて いる(3ヵ月以下1.9%、凍結母乳3.1%、人工乳3.3% (参考資料2))。

表:栄養法別母子感染率(参考資料2から引用)
—————————————————————————

母乳哺育   母乳哺育   冷凍母乳  人工哺育
(3ヶ月以下) (4ヶ月以上)
—————————————————————————
1.9%     17.7%    3.1%    3.5%
(3/165)  (93/525)  (2/64) (51/1553)
—————————————————————————

近年長期間の母乳育児には感染防御などの免疫効果だけでなく、認知能力の向上や、成人後の高血圧、 肥満、糖尿病に対する予防効果などのメリットがあることが知られてきているが、短期間であっても母乳には腸管免疫への作用や異種蛋白としての影響がないこ となど、多くのメリットがある。

さらに、日本ではもともと混合栄養が非常に多いので、HTLV-1の予防のために母乳の割合を減らせばリスクを軽減できると考える医療者や母親がいるかも しれない。しかし、HTLV-1と同じレトロウイルスである HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の場合、感染率は母乳のみの場合と比べて混合栄養の場合が数倍高いことが 判明している(参考資料7~9)。

HIVと同じ様にHTLV-1においても、混合栄養が母乳だけで育てる場合より感染率を高める可能性を示唆する研究がある。症例数は多くないが、人工乳 3.5%、短期母乳(6ヵ月以下)3.5%、長期母乳(7ヵ月以上) 15.8%、母乳のみ(短期)0.0%、混合栄養(短期)10.0%、母乳のみ(長期)15.1%、混合栄養(長期) 18.5% となっている(参考資料6,後半は嶽崎の了解をえて二次解析した数値)。従って、情報提供の際には、混合栄養が母乳のみや人工乳のみの場合より感染のリス クを高めるかもしれないことに留意するべきであろう。

母乳の利点を子どもに与えつつHTLV-1感染を少なくする方法として、生後3ヵ月まで母乳だけで育てその後人工栄養にする方法、または凍結母乳を与える 方法という選択肢があることを情報提供するべきである。また、我々、母と子の健康を支援する立場にある者は、前述したように、最近解明されてきた母乳育児 の利点を視野に入れたより幅広い見地からの情報提供を行って、母親自身が自らの考えで栄養法を選択できる ように支援するべきである。

参考資料
1.山口一成:HTLV-1感染症.感染症の話,IDWR 2011年第7週, 国立感染症研究所

http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k2011/2011-07/2011k07.html

(2011年6月7日確認)
2.厚生労働省科学研究費補助金厚生労働省科学特別研究事業 HTLV-I の母子感染予防に関する研究班 平成21年度 総括・分担研究報告書(研究代表者:斎藤 滋)、平成22年3月

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/02.pdf

(2011年6月7日確認)
3.「HTLV-1母子感染予防対策 医師向け手引き」平成21年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業「HTLV-1の母子感染予防に関する研究」報告書(改訂版) (研究代表者:齋藤 滋)、平成23年3月

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/04.pdf

(2011年6月7日確認)
4.平成22年6月8日付け厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知
「ヒト白血病ウイルス-1型(HTLV-1)母子感染に関する情報の提供について」: ATLとHTLV-1に関するQ&A.

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/qa.html

(2011年6月7日確認)
5.HTLV-1母子感染予防対策保健指導マニュアル(改訂版):平成22年度厚生労働科学特別研究事業
「ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)母子感染予防のための 保健指導の標準化に関する研究 」(研究代表者:森内浩幸),厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課、平成23年3月

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken16/dl/05.pdf

(2011年6月7日確認)
6.嶽崎俊郎. 南九州のHTLV-I母子感染に関する血清疫学的研究-短期母乳摂取児のリスクについて‐.日児誌,1991, 95(6): 1376-1384
7.Coovadia HM et al. Mother-to-child transmission of HIV-1 infection during exclusive breastfeeding in the first 6 months of life :An intervention cohort study. Lancet, 2007, 369(9567): 1107-1116.
8.Iliff PJ et al. Early exclusive breastfeeding reduces the risk of postnatal HIV-1 transmission and increases HIV-free survival.AIDS, 2005, 19(7): 699-708.
9.Kuhn L et al. High uptake of exclusive breastfeeding and reduced early post-natal HIV transmission. Public Library of Science ONE.2007, 2(12): e1363.

NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(Japanese Association of Lactation Consultants: JALC):
国際認定 ラクテーション・コンサルタント(International Board Certified Lactation Consultant: IBCLC) および
その他の母乳育児 支援にかかわる専門6の非営利団体です。1999年1月に設立>され、母乳育児の保護・推進・支援のため、
母乳育児に 関する学習会開催や情報の提供、教科書執筆などを含む多面的な活動を行っています。
事務局 〒065-0023 札幌市東区北23条東1丁目7-5-202  Fax:011-733-3188
info@jalc-net.jp    http://jalc-net.jp/

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