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Vol.241 掘って埋める、その前に

医療ガバナンス学会 (2011年8月17日 16:00)


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東京大学医学部6年 森田知宏
2011年8月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


8/13(土)、南相馬市役所にて行われた除染活動の打ち合わせ、幼稚園・保育園の線量測定に参加させて頂いた。南相馬市役所で行われた打ち合わせでは、 桜井勝延市長や南相馬市役所の教育委員会、除染担当の方に加え、東京大学アイソトープ総合センター所長の児玉龍彦教授、南相馬市の原町中央産婦人科医院の 高橋亨平院長、亀田総合病院産婦人科医師の鈴木真先生が参加した。御三方とも自力で除染活動をされている方々である。話し合いには数社のメディアが取材に 来ていた。

以下、話し合いでのやり取りを紹介する。児玉先生「世界の過去の研究結果によると、除染方法として最もスタンダードなのは、汚染土をEngineered cellと呼ばれる構造の中に埋めることである。汚染土壌はセシウムと強く結合しているので、取り出すことは難しい。埋めた土は300年経てば大丈夫と言 われている。」鈴木先生「先日、妊婦さんのお宅を除染したが、出た汚染土を埋めるような深い穴を掘るのは個人では不可能だ。重機が必要だ。」桜井市長「沿 岸部には防風林を再建しないといけない。その場所に汚染土を埋めるのはどうかと考えている。」

高橋先生「除染に加えて一般の方の理解度を上げることも必要だ。まだ空中のチリが汚染されていると思っている人がほとんど。」児玉先生「まずは不安を取り 除かなければいけない。線量を各戸で測って、高いなら除染する。除染の方法は教育委員会から広める。いまはいわば緊急除染が必要な状態。ホットスポットを 見つけて、除染するのが必要。それが終わったら後は環境線量で、これは個人では無理なので、除染のノウハウを持つ企業に委ねるのがいいのではないか。」鈴 木先生「南相馬にある企業を使って、地域の復興とつなげられないか。」

活発な議論となったが、除染方法は汚染土壌を埋めること、除染計画はホットスポット→環境線量という順番、この方針は固まったようだ。教育委員会の話では 「夏休み中に幼稚園、小・中学校を除染したい。」とのこと。これから急ピッチでホットスポットの洗い出しと除染を進めていくと思われる。
その他には無人ヘリを用いた上空からの線量測定や、食品用の大型放射性物質検出器の話が出たが、割愛させて頂く。

私はこれまで南相馬市立総合病院で金澤幸夫院長や事務の方のご指導の下、ホールボディカウンターを用いた健康診断結果のデータベースを作る手伝いをしてい た。及川友好副院長が行っている小学校の線量測定に参加させて頂いたこともある。除染については、表面をはぎとってどこかに捨てる程度にしか意識していな かったが、科学的に立証された計画がこれほど具体的に進んでいることに驚いた。南相馬市も前向きに取り組めることと思う。

一方で、高橋先生もおっしゃっていたが一般の方への周知がまだ不足しているとも感じた。各戸で除染が行われるためには、各自が正しく測定・除染を行う必要 がある。地表からの距離が数十cm違うだけで、その値が地表の線量なのか環境線量なのかが変わってくる。市民の中には自主的に線量計を持っている方が相当 数いらっしゃるが、これまでにビニールにくるまれた線量計を地面に置いて測る光景を何度か見た。これではビニールに汚染土が付着し、その後の計測に影響を 及ぼす恐れがある。このような簡単なミスを防ぐために、そしてなるべく同じ条件で線量を計測するために、マンガや写真を用いるなどし、一見して分かる数 ページ程度のマニュアルがあれば良いと思う。少なくとも、「南相馬市の除染」は同じ方法で線量を計測しなければ、効果判定もできなくなってしまう。

さらに、一般家庭でホットスポットを見つけるために、すべての家庭で網羅的に計測を行うのはほぼ不可能である。雨どいの下や雑草が特に生い茂っている場所 (水の集まる場所)など、高線量になりやすいと既に分かっている部分を十分に周知する必要がある。網羅的に計測する熱心な方がいたとして意外な場所にホッ トスポットを見つけた際には、それを回覧板・インターネットなど様々なツールで素早く共有できることも重要であろう。

私も含めて多くの人にとって放射線は得体のしれないものである。今回の線量測定でも、児玉先生は多くのカメラに囲まれ、幼稚園や保育園の教員方からの質問 に答えていた。確実に情報は不足している。しかし、「実際に何をすればいいのか」さえ正しく分かっていればホットスポットの線量を下げることはできるはず である。そうすればリスクが下がることは間違いない。今後行われる除染作業にも、ぜひ参加できればと思う。

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