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Vol.242 報道被害を受けた病院・医師の名誉回復の処方箋

医療ガバナンス学会 (2011年8月18日 06:00)


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月刊『集中』8月号所載「経営に活かす法律の知恵袋 第24回」の転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成
2011年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.『週刊ポスト』誌上での連載開始
7月8日発売の『週刊ポスト』(小学館)で、「原発から4.5㌔『双葉病院』の真実―『患者21人見殺し』の大誤報の裏で」という意欲的な短期集中連載が始まった。8月中まで続くらしい。
ノンフィクション作家の森功氏の手によるものであり、的確かつ綿密な取材に基づいている。
連載の第1回は、「暗闇の救命活動は『放置』『逃亡』と報じられた」であった。
〈事故を起こした福島第一原発からわずか4.5㌔。国の指示による避難劇のなかで、双葉病院の医師らは「患者を見捨てて逃げた」と報じられ、激しい非難を 浴びた。だが、それは真実ではない。被曝の恐怖のなか、必死に患者の命を救おうとした医療者たちがいたのである。なぜ大誤報がバラ撒かれたのか。ノンフィ クション作家・森功氏がその真相を追う。〉(同記事前文より)
という内容である。今後の展開に期待したい。

2.誤報の発端は福島県の記者発表
新聞各紙は、3月11日の大震災から1週間後の3月18日の朝刊に、双葉病院を非難する記事をショッキングな見出しで掲載した。
「福島・双葉病院/患者だけ残される」「患者搬送に付き添わず」「高齢者/病院放置か」などといった類である。
それらの記事の発端はいずれも福島県災害対策本部の救護班による前日の17日午後4時8分の記者発表であった。
記者らに対して、「(双葉病院の)施設には、結果的に自力で歩くことができない、重篤な患者だけが残された。
ただちに病院・施設に自衛隊が救出に向かった。双葉病院には、病院関係者は一人も残っていなかったため、患者の状態等は一切分からないままの救出となった。
さらに、寝たきり老人等の重篤な患者であるため、困難な状況での救出となった」と福島県は双葉病院を名指しで非難したのである。
県の担当者は、「付き添うべきだった」とのコメントまで付け加えたらしい。

3.福島県には双葉病院の情報がなかった
新聞各社は、県災害対策本部お墨付きの発表情報に盲目的に飛び付いてしまった。
患者を守るという医療倫理に真っ向から反する病院の「衝撃的な事件」情報だと思ってしまったからであろう。
その発表元の対策本部に原発事故の異常事態のためにシステムエラーが生じており、情報の混乱が起きていたことを見逃してしまった。
このようなときこそ慎重な裏付け取材が最も必要とされるにもかかわらず、平常時と同様の感覚で判断し、十分な裏取りを行わずにバッシング報道に走ってしまう。
その意味では、新聞各社にも異常事態のためにシステムエラーが生じていたとも評し得る。
福島県災害対策本部による記者発表に話を戻す。
同本部救護班には双葉病院の情報が入っていなかった。救護班に決して悪意があったとは思えない。しかし、決定的なエラーはほかにある。
災害対策本部が自分自身の足元で過誤があったために双葉病院に関する真の情報が届いていないということに気付いていなかった、ということである。
自らのシステムエラーに気付かずに、他者(双葉病院)の仕儀をヒューマンエラーもしくはシステムエラーと決め付けてしまった。

4.分割での救助と出迎えとの擦れ違い
対策本部と新聞各社は、震災発生から1日後の自力歩行可能な患者ら209人の救助、および4日後の寝たきり患者ら90人の救助のことしか知らないままに、発表し報道したのである。
その間にも病院関係者の下での救助があったことは関知していなかった。
実は、震災発生から3日後の14日午前中に寝た切りの患者ら98人と、同じく寝たきり患者ら34人の合計132人が病院関係者の手を経て救助されている。
つまり、震災の1日後、3日後、4日後と、遅れ遅れで分割されて救助されていた。
この間、大熊町役場や双葉警察署、消防署、パトロールカー、自衛隊各班と何度も訪れたり打ち合わせたりしていながら、丸4日間もかかる分割での救助となってしまったのである。
携帯電話・メールも含めて何らの通信手段がない中で、その間、鈴木市郎院長らスタッフは患者を守っていた。
しかも、4日後の15日の救助の際には、双葉警察署副署長ら警察署員と共に、自衛隊の群馬第12旅団を迎えに、20km圏ぎりぎりの割山(わりやま)という地点に出向いて待機していた。
ところが、土地勘がなく間違って別の道を来てしまった12旅団とちょうど入れ違ってしまった。
そのため双葉病院に単独で到着して患者ら90人を救助した12旅団が、寝たきり患者だけの病院の様子を対策本部に報告したというのが真相だ。
対策本部と新聞各社は、それぞれのシステムエラーにより、そのような現場の混乱した状況を推察することができなかったらしい。
これらのシステムエラーの実態は、双葉病院の名誉回復の過程で徐々に明らかにされるであろう。

5.病院・医師の名誉回復の処方箋
筆者自身、「双葉病院『置き去り』バッシング報道事件」と名付けて、5月7日に東京都内の講演会で、事の実態の詳細は分からないながらも、これら医療報道にクレームを付けていた。
その後、地元・福島県選出の国会議員や医系議員の助力により、鈴木院長をはじめとする双葉病院関係者と知り合うことができた。
6月30日には双葉病院の顧問弁護士に就任し、まずは双葉病院の名誉回復の活動に着手している。本稿もその一環といってよい。
名誉回復のため、一般には名誉毀損損害賠償請求訴訟などの訴訟手続が使われる。
しかし、往々にしてそれらは相手の責任追及の攻防戦だけになりがちで、本来の目的からそれてしまいかねない。
本来の目的は、病院や医師の真の名誉回復である。相手への責任追及ではない。
そこで、追って、そのときまでに検証記事の掲載に応じない新聞社だけを相手取って、検証記事の掲載のみを求め、もって病院・医師の名誉回復を求める「調停」を申し立てる予定である。
それまでの間、本稿の読者をはじめとする医療関係者の方々には双葉病院への支援をお願いしたいと希望している。
現在、日本精神科病院協会などが支援に動きだしていると聞く。
すでに日本医師会は原中勝征会長名で3月25日、双葉病院を軽々にもテレビで批判した民主党災害対策副本部長・渡辺周氏への抗議を行っている。
各医療団体やNPOその他医療関係者にも声明の発表や講演会・シンポジウムの開催などの支援をお願いしたい。
「医師失格」「病院失格」の烙印を押された医師・病院の名誉を完全に回復すべきだと考えている。

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