医療ガバナンス学会 (2011年8月26日 06:00)
1. 序論―改善点(私案)―より自律的に、もっと多様性を
(5)病死・自然死・診療関連死は「死因分析」を、他方、診療関連死を除く非自然死は「死因究明」を
「基本的提言」では、「死因究明」という用語が無防備に使われている。
死因「究明」は、死因を「分析」することよりも、死因を「認定」し「確定」することにその重点が置かれているように思う。病死・自然死・診療関連死では、 分析し、死亡原因の診断を充実させ、遺族に納得してもらうことが重要である。ところが、診療関連死を除く非自然死では、たとえば自殺か他殺かなどの社会的 事象の認定・確定こそが重要であろう。その認定・確定された事実が、社会における責任追及などの法律関係の基礎となるからである。
したがって、非自然死のみならず、診療関連死の事故調査までも死因「究明」を目指してしまうならば、医療の「外」に在る刑事責任・行政責任・民事責任と いった社会的・法的責任を、医療の「内」に招き入れてしまう。だからこそ、無防備に「死因究明」という用語を使うべきではない。
(6)自律的で多様な内部調査委員会
社会的・法的な責任を問うためには、事故の真相を究明して、それを認定し確定することが必要不可欠である。死因「究明」を目的とするならば、どうしても法 律家や被害者や一般人を参加させたり、中立性・第三者性に配慮したりせざるをえない。「基本的提言」はこの点の考察が十分でないように思う。
さて、死因「分析」を目指し、医療の「内」としての院内(内部)調査委員会を組織しようとするならば、その委員は通常のチーム医療と同じく、当該医療機関内部の者によってまかなうのが当然である。外部委員は、原則として要らない。
よく「診療所」はどうするのかという疑問が生じるらしいが、当該医療機関の医師・看護師・事務職員の全部または一部が合議すれば、それで十分であろう。通 常の診療で皆が連携してやっているのと、同じ要領である。もちろん、内部委員会であるから、管理者たる院長が委員となるのは何ら差しつかえない。中小病院 や大病院になれば、当該医療機関に応じたバリエーションが加わるであろう。それぞれの医療機関の個性に応じた院内事故調査委員会を、自律的に工夫して組織 すればよい。
結果として、ひと口に院内事故調査委員会といっても、甚だ多様な形態のものとなるであろう。さらには、その組織のルール(マニュアル、規範など)も多様なものとなろうが、むしろそれこそが望ましい。
(7)第三者的機関は自ら調査せずに、院内事故調査をチェックするだけでよい
もともと院内事故調査委員会は患者家族対応の支援(手助け)のために存在する。そうすると、第三者的機関も、院内事故調査委員会を支援(手助け)するためのものと位置付けるのが自然であろう。決して院内事故調査委員会の肩代わりをするものではない。
第三者的機関は、当該医療機関の自律的な院内事故調査委員会の活動を、自ら調査に乗り出して肩代わりするのではなく、チェックするだけに留めて支援(手助 け)するのみである。当該医療機関の自立性を尊重し、自律的な改善を育む。適切な例ではないかもしれないが、教師が学生のために模範答案を作成してあげる のではなくて、学生の作成した答案を添削するようなイメージである。
(8)第三者的機関は地域事情に精通した郡市区医師会が組織すべきである
事の成り行きとして、院内事故調査委員会が多様ならば、第三者的機関も多様にならざるをえない。さらには、地域事情の特色も加わる方が妥当であろう。そう すると、第三者的機関は、日本医師会自体や日本医療安全調査機構や都道府県医師会よりも、もっと地域事情に精通し、いわば顔見知りですらある郡市区医師会 ごとに組織するのが適切である。こうしてこそ、名実共に、ピアレビューと言えよう。
なお、以上のことは日本医師会にこそよく当てはまるであろうが、他の各種医療団体はまたそれぞれのその特長を生かした医療事故調査制度を構想すればよい。
また、医師・医療機関によっては複数の団体に加入していることもある。重複することもあろうが、どの団体の下の医療事故調査制度を採用するかは、それこそ個々の医師や個々の医療機関が自律的に判断すれば足りることと思う。
(序論は終わり)
〈次回は総論〉