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Vol.260 発達障害と進学

医療ガバナンス学会 (2011年9月6日 06:00)


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星槎大学附属発達支援臨床センター主任相談員
星槎大学非常勤講師
岩澤一美
2011年9月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


クラスの中に必ず、ちょっと変わった個性の持ち主が1~2人います。すべてというわけではないものの、その中に「発達障害」をもつ子どもが含まれている可 能性はかなり高いと思われます。以前は、そうした子どもたちは、家庭環境の悪さや親の躾のいたらなさが原因でそうなったと考えられていました。しかし実際 には、脳や中枢神経系の機能障害がもたらす先天的なものであり、家庭環境や親の躾といった後天的な原因でもたらされるものではありません。

「発達障害」は、「障害」という言葉のイメージから知的遅れがあると誤解されていることも多いようですが、主な発達障害として挙げられる学習障害(LD; Learning Disabilities)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD; Attention-Deficit /Hyperactivity Disorder)、高機能自閉症、アスペルガー症候群等は共通して、知的発達の遅れを伴いません。このことは学校の現場ではかなり知られるようになって きたものの、学校での支援の対象は、学力不振に悩む子ども中心になっています。

高い学力を持ちながら発達障害を持つ子どもは、支援の対象からは外れてしまっています。学習内容はしっかりと理解しているけれど忘れ物が多かったり、授業 中にまったく関係のない質問を突然して先生を怒らせたり、授業に集中することができずに常にキョロキョロしていたりして、本人はいたって真面目に取り組も うとしているのだけれどその特性ゆえに周囲の子どものみならず、ひどいときには担任の先生からも誤解され、「不真面目な子」のレッテルを張られて排除され たりすることが多いのです。

発達障害を持つ人の多くが、場の空気を読むことができず、人とコミュニケーションを取ることを苦手としています。小学校時代にクラスで孤立したり、場の空 気を乱すトラブルを頻繁に起こしたりして、本当は友だちが欲しい、仲良く遊びたいと心の中で強く思っているのに、それが叶うことはほとんどありません。
こうしたことを背景に、学力の高い発達障害の子どもは、中学校進学の際に小学校の人間関係を嫌って、地元の公立中学校ではなく私立中学校を希望するケース があります。学力は高いため合格・入学をするのですが、すべての問題が解決するわけではなく、むしろ問題はさらに大きなものとなっていきます。

元来子どもは年齢を重ねていく中で、周囲の人との関わりを通して他人を理解する方法や自分を表現する方法を自然と身につけて精神的に成長していきます。し かしながら発達障害を持つ子どもは人との関わりがうまくできず、自然な形でそうしたことを身につけることが難しい一面を持っています。そのため、周囲の人 との関わりを適切に持てないまま私立中学校に進学した子どもの場合、年齢相応の精神的成長を遂げていることは期待できませんので、小学校の時と同じような 状況に陥る可能性が極めて高くなります。孤独を好む性格の子どもであれば周囲との関わりがなくとも気にならないのかもしれませんが、周囲と関わりを持ちた いと強く思っている子どもは再び訪れた孤独に悩み、苦しみ、心に傷を負ってしまうことも少なくありません。

一方で、私立中学校(高等学校)が、彼らにとって居心地の良い場所となるケースもあります。多くの私立中学・高校は大学進学を目指したカリキュラムが編成 されており、ある意味大学に合格するための道筋がしっかりとつけられています。発達障害の子どもは、自分で見通しを立てて計画を立てるのは苦手なことが多 く、与えられたことを忠実にこなしていけばよい受験用のカリキュラムは適しているかもしれません。また、大学進学率を上げるため学校が予備校化していると も言われており、子どもたちの人間関係の希薄さという問題を引き起こすのですが、もともと人とコミュニケーションを取ることが苦手で人間関係をうまく構築 できない発達障害の子どもにとっては、わざわざ苦手なことに取り組まなくともよい居心地の良い環境であるわけです。しかしいくら居心地がよいと言っても、 実際には大きな問題を先送りにしているに過ぎません。大学に進学した時に、今までふたをされてきた問題が一気に噴き出ることになります。

大学は、今まで学校が作成した時間割に沿って授業を受けていればよかった生活から一転して自分で履修計画を立てなければならず、自己管理や自己責任を求め られます。学校での生活も、高校までは学級がひとつの単位であったのに対し、大学では、個人で自分の活動を選択して生活することが多くなり、対人関係にお いても大きな環境の変化となります。こうした環境の変化に耐えられずに退学してしまうケースも少なくなく、また大学を何とか続けられたとしても、最終的に 進路を決めることができずに就職活動がうまくいかないことも多くあります。

特別支援教育と言うと、どうしても少し遅れのある子どもに焦点が当たりがちです。高い学力を持った発達障害の子どものことを見落とし、問題を先送りするこ とで深刻なものとしてしまっているのです。2005年4月1日に施行された発達障害者支援法で、大学や短期大学に対しても発達障害のある学生への具体的配 慮が求められてから、各大学や短期大学においても発達障害のある学生に対する特別な支援を行う所が増えつつありますが、大学での支援だけでは限界があり、 もっと早い段階から系統立った支援を考える必要があるのではないでしょうか。

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