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Vol.261 行列のできる病院が莫大な累積赤字を抱えてしまう理由

医療ガバナンス学会 (2011年9月7日 06:00)


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このコラムはグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。

http://jbpress.ismedia.jp/

武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕
2011年9月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


7月15日、日本大学医学部付属練馬光が丘病院(東京都練馬区)が2012年3月をもって撤退することを発表し、病院を引き継ぐ新たな医療機関の公募が始まりました。
同病院は、東京23区内で年間9万7000人の入院患者を受け入れ、年間1万9000人もの救急患者の診療を行っていた大学病院です。東京都内の地域医療 の要であった大学病院が実質的な破綻状態に陥っていました。積み重なった赤字額は、20年間で140億円に達するといいます。

この破綻撤退劇は、これまでの地方の公立病院の採算悪化に伴う閉鎖とは全く意味合いが違います。
なぜならば、日本大学練馬光が丘病院は、病床稼働率や平均在院日数や人件費率、経常収支比率などの経営健全度を示す指標で、全国トップクラスの優良病院であったからです。

例えば、病床稼働率について見てみましょう、過去に破綻が報じられてきた夕張市立総合病院や銚子市立総合病院の閉鎖前の病床稼働率は約40%でした。しか し、今回の日大練馬光が丘病院の病床稼働率は80%を超えています。他の人件費率などの経営指標上の問題もなく、外来も混雑して行列ができている状態だっ たのです。
医療以外の業界において、稼働率が80%を超える施設が純粋に本業だけで赤字を積み重ねて閉鎖に追い込まれる状況は考え難いでしょう。
でも、保険診療においては、このような事態が起こり得るくらい、価格が低く抑えられているのです。

●放置される「赤字必至」の公定価格設定
日本大学撤退発表前の7月13日、厚生労働省の中央社会保険医療協議会において「「医療機関の部門別収支に関する調査  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001hsqc-att/2r9852000001hsuj.pdf  」が提出されました。
これは、現在の保険点数(公定価格)が適正かどうか調べるため、どれくらいの費用が実際にかかっているかを計算したものです。報告書に記載されていた数値 は目を疑うものでした。187の病院のレセプトから算出した診療科別収支で、内科系では保険点数で100円稼ぐのに109円を要する「-9%」の逆ざや状 態。そして、産婦人科も100円稼ぐのに118円の費用が発生するという「-18%」の逆ざや状態です。

この結果は、平均的な費用をかけて(人員を平均的な人数配置し、平均的な設備を揃えて)医療を行う限り、内科系と産婦人科はやればやるだけ赤字が積み重なる価格設定であることを意味します。
本来であれば、この数値を真摯に受け止めて、保険点数の改訂が検討されるべきでしょう。しかし、健康保険支払い側は会議上で「これは計算手法の開発途上で出てきた話。中身について議論するのは避けた方がいいだろう」と事実上、無視する姿勢を示したのでした。

国策レベルで「内科/産婦人科といった医療の主要部門が保険点数だけでは赤字」という状況が放置される以上、地域医療を支える医療機関の閉鎖や撤退は、今後も続けて起きるのは時間の問題と言えるでしょう。

●日本大学の撤退は許されざることか?
今回、日大練馬光が丘病院は撤退の理由を、開設以来連続して支出超過(赤字状態)が続いていることと、民法第604条規定(賃貸借の存続期間は20年を超えることができない)により、病院の賃借期間は20年に短縮可能だからと説明しました。
一方、練馬区側は病院開設時に30年の賃借契約を結んでいる以上、契約満了前に運営から撤退するのは了承できない、もし撤退するのであれば、責任を持って 引き継ぐ医療機関を探すべきである、とホームページ上で主張(  http://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/hoken/oshirase/0.html )しています。

どちらにも各々の立場で主張があるのでしょう。しかし、問題の本質は、相次ぐ医療費削減政策により、保険診療だけでは病院運営が赤字にならざるを得ないという、低すぎる健康保健点数にあります。新たな運営主体を探したところで、それは解決を先送りしたに過ぎません。
もちろん地域医療に取り組むには医療者としての道義として、採算が取れないからといってすぐに撤退することは許されないでしょう。それでも、赤字垂れ流しの状態で、「道義的責任」や「使命感」だけで続けられるのはせいぜい数年でしょう。

練馬光が丘病院に対して「20年間も赤字が続く厳しい状況の中、よくやってくれた」というねぎらいの言葉ではなく、「契約不履行」という非難の声明が投げかけられるのは、医療従事者としては沈痛の極みです。

●「赤字でもやれ」では前に進まない
私が最後に一番訴えたいのは、医療費が増額されない中で、「赤字でも必要なのだから、撤退せずやり続けるべきである」と病院に強要するだけでは、議論が先 に進まないということです。医療費の負担増をどのように分かち合うのか、そして、まかないきれない部分については、医療機関の閉鎖や医療機能の縮小などを タブー扱いしないで、より現実的な意見交換が行われるべきです。
日大練馬光が丘病院を引き継ぐ医療機関の公募結果は、現時点では明らかになっていません。心臓循環器救急医療などが条件から消えていることから、現在の医療水準と医療機能が大幅に低下する可能性が高いと思われます。
行政は「安定した地域医療を継続して提供する」という理想を掲げる一報で、現実には医療給付の制限を行っています。このままでは、また同じ事態が繰り返されるに違いありません。

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