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臨時 vol 94 「骨髄バンクは今すぐ情報開示を!」

医療ガバナンス学会 (2009年4月24日 12:45)


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          骨髄液過剰採取報道への沈黙を許すな。
       小松恒彦(帝京大学ちば総合医療センター血液内科・准教授)

 去る4月20日、「骨髄移植で過剰採取ミス  国立がんセンター」というニュー
スがインターネットで配信されました
(http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042001000820.html、配信元は共同通
信。時事通信、朝日新聞でも報道がありました)。国立がんセンター中央病院で
今月、骨髄移植のドナーから誤って予定の2倍の骨髄液を採取してしまったとい
うものです。終了後に測定してミスに気づいたとのこと。同院の土屋了介院長に
よれば、担当医が器具の使用法を熟知していなかった可能性があるといいます。
このニュースを私は個人的に参加しているメーリングリストで知り、いくつかの
点で強いショックを受けました。
 実は、私の所属する病院では、この6月に施設として初めての骨髄移植を予定
しています。私自身は他の医療機関で骨髄移植を多数、経験してきました。しか
し、他の医師やコメディカルらスタッフの中には、個人としても初めて骨髄移植
を担当する者もいます。もちろん入念な準備が進められていますが、人命に関わ
ることですから慎重に慎重を期し、プロセスや人員配備について検討と確認を繰
り返す毎日です。その中で起きたのが今回の事件だったというわけです。
 まず気にかかるのが、土屋院長の指摘にもあった「器具の使用法」です。器具
とはすなわち骨髄移植フィルターのこと。これについては昨年12月、従来のバク
スター社製品が突然の供給停止という事態に陥り、現場が大混乱したことは皆様
もご記憶に新しいかと思います。解決策として緊急輸入され、異例の迅速承認を
経て現在、私たちの手元にある代替品は、バイオアクセス社の製品です。基本的
な仕組みは変わらないものの、やはりバクスター社製と異なる部分もあり、扱い
も従来品と比べて不慣れであることは否めません。そうした現場の実感からすれ
ば、今回報道されたような事故は、ある意味想像し、恐れていたことでもあった
のです。
 その点、ミスの発生とその経緯について、迅速に情報を開示した国立がんセン
ターのスタッフおよび院長には、心から敬意を表します。
 一方、事件を知った私が最初にアクセスしたのは、骨髄移植の推進母体たる
「骨髄移植推進財団」、通称「骨髄バンク」のホームページです
(http://www.jmdp.or.jp/)。事故の発生を受けて、その概要あるいは詳細、対
応、注意点といったものが掲載されているかと期待したのです。ところがトップ
ページはおろか、どこにもそれらしき内容は現在も見当たりません。骨髄バンク
の「基本方針」の中には、「患者さんへの適切な情報提供」も含まれているにも
かかわらず、この一件に関しては、だんまりを決め込んでいるようなのです。
 骨髄バンクは、この件を「患者さんへ提供すべき情報ではない」と判断したと
いうことでしょうか。そうだとすれば、それは大きな間違いでしょう。国立ガン
センターといえば、国内のがん治療をリードする存在です。骨髄移植に関しても、
平均レベルの市中病院より体制が整っているという期待も当然です。そこでさえ、
器具が新しくなったこの時期に、今回のようなミスが発生したのです。初めて骨
髄移植を行う我々のような医療機関や、あるいは規模の小さな地方の医療機関で、
これから新しい器具で移植を行っていこうかというときに、この情報は患者さん
のみならず、我々医療者、そしてドナーの方々にとって、選択肢を左右しかねな
いものです。
 実際、我々の病院でも、この6月に予定している骨髄移植を、急遽、末梢血幹
細胞移植に切り替えようかという話まで出てきています。それくらい、クリティ
カルで深刻な問題なのです。
 骨髄バンクのこうした隠蔽体質ともいえる状況は、今に始まったことではあり
ません。
 数年前、骨髄バンクでは、白血病患者さんの救済の選択肢を増やす意味で、骨
髄移植のみならず末梢血幹細胞移植(造血幹細胞移植の一種)も扱っていこうと
いう動きがありました。骨髄移植よりも末梢血幹細胞の方が移植後の造血の回復
が早く、感染症の減少、輸血量の減少、入院期間の短縮が期待できるとされるか
らです。しかしちょうどその頃(2003年)、日本国内での末梢血幹細胞移植のド
ナーの方が、提供の約1年後に急性白血病を発症し亡くなったことが公表されま
した。末梢血幹細胞の採取時には白血球を増やすG-CSFという薬剤を投与します
が、そのこととの因果関係が当時、囁かれました(因果関係については現段階で
明らかではないとされています)。そして骨髄バンクはそうした事情を患者や医
療者へ向けて一切説明しないまま、”末梢血幹細胞バンク”の話は立ち消えとなっ
てしまったのです。患者さんへのメリットも期待される末梢血幹細胞移植ですが、
結局そのまま、バンク等の設立もなく今日まで来てしまっています。
 当時の教訓は、残念ながら活かされなかったようです。その頃から骨髄バンク
は何も変わっていないことが、今回の一件で明るみになったといえるでしょう。
 冒頭でもお伝えしたように、私は今回、第一報を個人的に参加しているメーリ
ングリストで偶然知りました。それも、共同通信、時事通信、朝日新聞といった
マスコミを通じてです。骨髄移植とその情報提供の中心となるべき骨髄バンクに
は、動く気配すら見えません。しかし医療現場、患者、ドナーは、今も不安を払
拭できないでいます。医療安全のために、しかるべきところからの迅速な情報開
示を求めます。

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