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Vol.301 現場からの医療改革推進協議会第六回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2011年10月25日 16:00)


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2011年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


セッション5: 11月6日(日)9:00~11:00
場所:東京大学医科学研究所 大講堂
*このシンポジウムの聴講を希望される場合には、事前の申込みが必要です。
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ワクチン行政のお粗末
黒岩 祐治(神奈川県知事)

4月に神奈川県知事になったことから、厚労省の予防接種部会のメンバーを続けることができなくなってしまった。しかし、部会メンバーとして過ごした1年半 は私にとって大きな収穫だった。日本のワクチン行政のお粗末さ、政治の貧困、スピード感のない意思決定システム、患者不在の政策決定過程など、これまで ジャーナリストとして外から見ているだけでは分からなかった医療界の現実を生々しく感じることができたからであった。
2009年秋、予防接種法の抜本改革のためにと開かれた厚生労働省の検討会であったが、2年の歳月を経た今も未だに検討ばかり続けている。私のスピード感 からすれば、想像を絶する遅さであった。要するに、抜本的に変えるつもりは端からなかったのではないかと思わざるをえない。
私は会の冒頭から、そもそも予防接種とは何か?という根本の理念から議論すべきであり、それさえしっかり決まれば、後は一気に決めていけるはずだと主張し ていたのだが、誰も聴く耳を持たなかった。考えてみれば、全員が役所に指名されたメンバーなのだから私が期待することそのものが間違っていたかもしれな い。
私はいつも四面楚歌だった。唯一、傍聴席で見守って下さった被害者家族の会や、一般の方々だけが私の意見に共感し、応援してくれた。そのおかげで私がデタ ラメな主張をしているのでないことを確認することができた。私は民主党政権の政治主導に期待していたが、現場ではツユのかけらも感じることはできなかっ た。
私は今、神奈川県知事として、国でできなかったことを大胆に実行に移していきたいと考えている。神奈川県独自で医療のグランドデザインを描こうと検討会を 立ち上げた。これは都道府県単位では初めてのことである。それだけ医療の世界は中央集権、霞が関主導が徹底していたことの表れでもあろう。いつか「ワクチ ン先進県神奈川」と言われるよう、果敢に挑戦していきたい。

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不活化ポリオワクチン接種の実際
久住 英二(ナビタスクリニック立川院長)

当院では、2009年より不活化ポリオワクチン(IPV)の接種をおこなっています。これまで、1,700人以上の赤ちゃんに、およそ4,000回の接種 をおこないましたが、重篤な有害事象は発生していません。当院では、他のワクチンと同様に、電話による予約制で接種しています。メディアでポリオの話が取 り上げられると、問い合わせが増えますが、数ヶ月もすると落ち着きます。また、近隣にも取扱い医療機関が増えており、混雑は緩和されつつあります。
麻疹やヒブなどのワクチンは、実施主体が区市町村であり、地域の医師会を通じて、医療機関が委託され、接種の実務をしています。予防接種法の1類接種で は、予防接種法により補償が受けられます。ヒブやHPVワクチンなど任意接種ワクチンを行政措置として行う場合は、補償の主体は区市町村です。補償の原資 は、全国市長会などの予防接種事故賠償補償保険です。
IPVは個人輸入のワクチンであるため、国や市町村による補償は受けられません。ですが、ワクチンの安全性は高く、10万分の1程度と推測される重篤な有害事象に遭遇した場合には、輸入代行業者による補償制度があるため、医師が負うリスクは小さいと考えています。
一町医者として、今後も、より安全と自分が信じるワクチンを提供し、それが市民の理解へと繋がり、世論が喚起され、IPVへの公費助成が実現されることを望んでいます。

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ポリオワクチン問題から見えるもの…誰が医療を守るの?
真々田弘(テレビ・ディレクター)

私たちの命を守るため医療が、実のところ「国が定めた」医療になってしまっている。
世界標準のポリオ不活化ワクチンを求める母親、保護者、医療者の声が政策に反映されることはなく、ただ「国の方針」だけで今も生ワクチン接種が続いてゆ く。医療は誰のために、何のためにと、私たちはもう一度問い直さないといけない。そして、私たちのための医療を私たちが作らなければならないのだと、今の 日本では決意しなければならない。
医療崩壊の現場を、そしてかすかな医療再生の現場を取材してきた私が間違いなく言えるのは、国が国の都合で崩壊に導いている医療、とりわけ地域医療を守れ るのは住民・医師・地方行政(地方政府)の連携でしかない。「国の政策が悪い」と批判するのは簡単なのだが、たった今、目の前にある崩壊を押しとどめるに はそれぞれの地域で、自らが主体となって医療を守るという覚悟が必要だ。国は「医療サービス」という言葉を使う。それは命を守ろうと厳しい労働条件の中で 必死に働く現場の医療者と、命を守って欲しいと願う「命という共通の願い」を持つ人々を、サービスの供給者と消費者という「金銭的な対立関係」に持ち込ん でしまった。地域の医療の中では当たり前の「○○さん」という言葉を奪われ「患者様」なる言葉が強いられるようになった。医療は、与えられるものではな い。命を守りたい人々が協同、協調するなかで育まれるものだ。医療現場の実態を知って「お医者さんを守ろう!」「無駄な受診を控えよう」という母親たちに よって守られた兵庫県立柏原病院小児科はその象徴ともいえよう。ただ、かの地ではまだ行政という主体が欠けているのも事実なのだ。医師も住民も頑張ってい る。ただ国の方針、県の方針。そこに縛られた行政がそれを阻む構造だ。地域医療の再生、それは住民自治の、地方自治の再生だと私は信じる。それを抜きにし て、地域医療の上からの再生プランなど、ありえないのだと。

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内田 健夫(医療法人社団内田医院理事長)

6月から黒岩知事の下で神奈川県の参与に就き、医療に関するアドバイザー役を仰せつかっている。これまでの経験を生かし、医療現場と行政をつなぐ役割を期 待されていると思う。黒岩知事誕生から半年、いくつかの重要な課題があった。今回のポリオ不活化ワクチンの件も、行政としての立場、医療現場の声、また県 民の思いなど、利害も含めて関わっている。
安全な不活化ワクチンが先進諸国では導入されているにもかかわらず、国策として国産不活化ワクチン開発まで導入を先送りにしてきた厚生労働省が最大の問題 である。また学会や医師会の姿勢にも、市民や良心的な医師の視点が欠落していたのではないか。医療現場からは、未承認薬の使用というハードルや、十分な接 種体制が困難、補助金を出せばますます混乱、あと1年待てば不活化ワクチンも導入が決まる、といった声が上がる。行政的には生ワクチンでも、100万人に 1人か2人の発症という確率論かもしれない。しかし万一生ワクチンでポリオが発症した場合、子どもや家族はそれを一生背負い続けることになる。また、日本 ではこの30年野生株からの感染はないというが、現に世界には流行地域も存在する。厚労省は不活化ワクチンの早期承認と緊急輸入を超法規的に進めるべきで ある。
現在、神奈川県では知事の意向を受けて、神奈川の医療グランドデザインの策定し、医療先進県神奈川の実現に向けて取り組みを進めている。様々な利害関係も 存在するが、あくまでも県民目線で、県でできること、やるべきことを優先順位や時期、その後の評価や管理も含めて取り組み、県民の負託に応えていきたい。

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