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Vol.320 医療の立場からみたオリンパス問題

医療ガバナンス学会 (2011年11月20日 06:00)


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岡山大学病院 光学医療診療部
河原祥朗
2011年11月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


前回、『オリンパス問題について内視鏡医はもっと怒るべきと』いう投稿をしたのは、今回オリンパスが不正経理を発表する一週間前であった。ちょうど不正経理を発表した当日に、小生の投稿文がMRICで配信されたことで多くの反響をいただいた。
やはり、オリンパスは事前の予測通り不正経理を行なっており、ベンチャー企業を買収したことを内視鏡事業と関連づけて説明していたがそれは真っ赤な大嘘であったことが判明した。

ほとんどのマスコミは今回の事件を経済的な側面からしか報道しておらず、今後の影響についても株価や買収といった部分しかとりあげられていない。
内視鏡は世界シェアが7割もあり優良部門であるという事ばかり強調され、この部門は自力再建なり他社買収なり、いずれにしても大丈夫であろうという論調で ある。確かにオリンパスの技術力は優れ、内視鏡分野では世界のトップランナーである。しかし私は今回の騒動により非常に不安な一面にも気付かされた。

それは国民の(世界中の)福祉、健康に大きく影響のある医療の一分野が、たった一社の民間企業にほとんど依存している危うさである。こう書くと大げさと思 われる方も多いかもしれない。しかし現在私の専門とする消化器病の分野に関していえば間違いなくオリンパス社に多くの部分を依存しているのである。

一般の方々は消化器内視鏡(いわゆる胃カメラ、大腸カメラ)といえば何を思い浮かべるであろうか?
検診でたまに指示される二次検診の一つといった認識であろうか?

確かに検診、ドックなどでは消化器内視鏡は広く普及し精密検査には必須である。さらには胃の症状、腸の症状がある患者さんの検査(スクリーニング)におい ては非常に重要な検査であり、ある程度以上の規模の病院であればおそらく施行してない病院はないと思われる。その結果をもとに医師は投薬を行い、場合に よっては手術なども行う。それだけでも重要な検査であるが、さらに重要なことは内視鏡は検査だけでなく処置を行う医療機器であるということである。

例をあげるとキリがないが、例えば吐血、下血など消化管に出血がおこっている患者さんがいるとする。その場合我々は昼夜問わず緊急に内視鏡を用いてその原 因を探る。そして例えば潰瘍から出血を認めればその場で内視鏡に処置具を通して止血処置を行うのである。この治療法が開発されるまでは、多くの患者さんは 消化管出血で命を落としたり、緊急で開腹手術をうけていたのである。消化管出血一つをとっても、内視鏡のおかげで全世界の患者さんが救命されているのが現 状である。近年は咽頭癌、食道癌、胃癌、大腸癌の切除、胆管癌、膵癌による黄疸の治療、そのほかもろもろの良性疾患の診断、治療に広く用いられ、内視鏡な しに消化器分野の医療は成り立たない状況になっている。

前回の投稿でも述べたが、オリンパスの凄いところは内視鏡そのものだけでなく、各種周辺器具、カルテ用画像ファイリングシステム、保守メインテナンス、消 毒洗浄装置など全ての内視鏡関連機器を網羅していることである。もし仮に一時的にでもこれらの供給がストップすることになれば世界中の消化器診療がストッ プしてしまうのである。オリンパスは全世界の医療に関してそれほどの影響力を持ち、責任ある企業なのである。

このような現状でありながら今回の不正経理問題である。高山社長は記者会見でオリンパスの内視鏡事業は黒字であり、ブランドイメージは毀損されていないので立て直し可能と述べていた。しかし本当にそうであろうか?
医療機関が機器を購入する費用の元を辿れば全て患者さんの負担、健康保険、税金であり、光学機器メーカーといえども、医療機器を製造販売するからには通常 のメーカー以上の倫理観、コンプライアンス遵守が求められる。しかもこれほどの寡占状態であればなおさらである。それなのに一度ブラック企業のイメージが ついた会社のものを医療機関が今後も患者さんのために購入し続けるとは思えない。いままではシェアが少なく非力であった同業他社のものにシフトしていく医 療機関も増えていくであろう。

また仮に他の企業が内視鏡部門を買収したらどうなるであろうか? 今までオリンパスの内視鏡部門の技術者、現場担当者は世界一という看板を背負い、よくも悪くもそのプライドをもって機器の開発、販売を行なってきたはずで ある。その看板を信頼していたはずの経営者に汚され、さらに外資系ファンドなどに買収されたら今までどおり会社に残り働いてくれる技術者、社員がどれくら いいるのだろう。そうなると世界シェア70%の優良部門が一気に消滅する可能性すらあるのではないかと憂慮する。

以上のように、医療の現場からみると今回のオリンパス問題はたんなる一企業の経済面の問題でなく、世界の医療に影響を及ぼしかねない大問題と考える。この ような事態を引き起こしたオリンパスの過去から現在に至る経営陣の責任は徹底的に糾弾されるべきであり、今後は医療に悪影響を与えない形で信頼のできる経 営者によって立てなおされること期待している。また民間企業一社にこれほどまで医療の首根っこを押さえられた状態がすこしでもまともな状態になっていくよ う願っている。

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