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Vol.335 『あめいろぐピックアップ』(第一回)研修医の夜勤制導入に必要な施策とは?

医療ガバナンス学会 (2011年12月8日 06:00)


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ベスイスラエルメディカルセンター内科研修医
反田 篤志(そりた あつし)
2011年12月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


紹介:「あめいろぐ http://ameilog.com/ 」は米国で働く日本人医療従事者による情報発信ブログポータルサイトです。米国で活躍する様々な専門科の医師やコメディカルが、現場から生き生きとした情 報を日々発信しています。このシリーズでは、その中から選りすぐりの記事を皆さまにお届けします。

「研修医の夜勤制導入に必要な施策とは?」

日米の研修医の働き方の大きな違いの一つは、夜勤(ナイトフロート)制にあります。日本で夜勤というと、日勤から継続する24時間当直を指すことが多いと 思いますが、米国では研修医が24時間当直をすることはどんどん少なくなってきています。今まであった週80時間の労働制限に加え、特に今年、 ACGME(米国で卒後研修カリキュラムを規定する組織)が定める要件が変更され、研修医一年目(インターン)は24時間当直をすることが一切出来なくな りました。

そのため、米国では研修医は夜勤制を取らざるをえません。夜勤制は、救急のシフト制をイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。そのシフトにあたる 研修医は、例えば二週間、夜8時から朝7時まで夜だけ働きます。日勤の研修医は、一旦夜勤の研修医に引継ぎをすれば、夜に呼び出されることはありません。 これは「24時間当直で睡眠不足の研修医はミスをする確率が高い」という研究結果(参考文献1) に基づいていますが、研修効果という側面から賛否両論(特に外科などの現場からは否定的な意見も多い)あります。

日米双方の研修医として働いた私の考えでは、医療安全・研修医教育・研修医労働環境の面において、夜勤制はメリットがデメリットを上回ります。夜間に担当 医でない医師が患者の対応にあたるというデメリットはあるものの、日勤の研修医が「いつ何時呼ばれるかもしれない」という不安なしに睡眠を取れる、寝不足 の解消により日中の教育効果が高まる、寝不足による判断ミスが減るなどのメリットがあります。夜勤の研修医にとっても、責任範囲の広い夜間の病棟管理はと ても良い経験になります。また、夜勤の研修医をおくことのメリットは、上級医にもあります。日中にたっぷり睡眠をとった研修医が病棟をカバーしてくれてい れば、細かいことでいちいち呼ばれません。

日本では米国のように労働時間を制限する、24時間当直を禁止する、などの施策は非現実的であり、また教育効果という観点からも導入すべきとは思いませ ん。しかし、実施可能な病院で夜勤制を検討するのは有効ではないでしょうか。夜勤制を導入するには、ある程度の数の研修医が必要になります。また、夜間業 務に専属の人員を置くので、日中業務を担当する人数が減ります。したがって毎年20人以上の研修医が集まる教育病院でないと、恐らく導入は難しいでしょ う。さらには、科によっても状況は違うはずです。一度に10人の研修医がローテートする200床の内科であれば、夜間に一人か二人の研修医を割くことは可 能かもしれません。しかし、研修医が3,4人しかいない50床の小児科では難しいでしょう。

こう考えると、現状で夜勤制はかなり限られた範囲でしか適応できなさそうです。本当に夜勤制を導入したいとしたら、もう少し発想の転換が必要かもしれませ ん。そこで、話を研修医制度の目的にまで戻してみましょう。初期研修制度は何のために作られたのでしょうか?「プライマリ・ケアを中心とした、幅広い知識 を身につける」ために創設された制度ではなかったでしょうか?少なくとも、「地域格差を是正するため」や「医師配置を適正化するため」の制度ではなかった と記憶しています。

当初の制度設計自体にも議論はありますが、この制度下で研修を受けた世代である僕自身は、この制度の導入により日本の医療界にとってメリットがデメリット を上回ったと思っています。この制度のメリットの根幹は何か、それは「病院で一人当直でもなんでも、何とか一晩患者さんを診て、翌日朝に専門医に引き継 ぐ」もしくは「一人診療所でもなんでも、とにかく一次的に患者さんを適切に処置して、高度の医療施設に引き継ぐ」ための、基礎能力の養成にあると思ってい ます。

「一人当直はするべきではない」「専門医のさらなる拡充を」といった意見もあるかと思いますが、日本の現状ではその部分の急激な変更は難しいでしょう。ま た、徳田安春先生(筑波大水戸地域医療教育センター・水戸協同病院総合診療科教授)が実施した調査では、二次救急の内科疾患を想定した症例の処置の正答率 に、初期臨床研修制度必修化前後で有意な差(必修化後でより高い正答率)が認められています (参考文献2)。

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/series/tokuda/ (記事を読むには、日経メディカルオンライン会員である必要があります)

当初の目的に立ち戻り、これが日本の医療にとって望ましい方向性だと仮定すれば、夜勤制の導入可否の議論にも少し幅が出てきます。ここで設定すべき問いは 恐らく、「二年間の初期研修で、上記の目的を達成するために最大の効果を得るには、どのような制度設計が必要だろうか」であり、その文脈の中で「夜勤制」 が一つのオプションに上がってくるのだろうと思います。

研修医の働き方はどうあるべきか、どれくらいの患者数をカバーするのが適切か、疲労と研修効果のトレードオフをどう捉えるべきか?その結果として、研修病 院に必要な規模はどれくらいか、どれくらいの研修医数がどれくらいの病床数、指導医数に対して適切か?このような本質的な議論は、特に医療界が牽引する必 要があると思います。ハーバードで行われた研究では、研修医あたりの患者数を制限(介入群で平均3.5人(!) vs. コントロール群で6.6人)した結果、患者に対するケアの質を落とさずに、研修医教育の時間が増え、満足度が上がったとされています(参考文献3)。もち ろんこれが日本にそのまま応用できるとは微塵にも思っていませんが、ベストの研修を模索しようとする教育病院の姿勢から学べることは多いのではないでしょ うか。

研修医の箸の上げ下げまで規定するような、詳細な制度設計が望ましいと思っているわけではありません。むしろ夜勤制の実施など実際の適応部分は、現場の判 断に委ねる方が望ましいと考えます。そのような現場の判断を可能にするような、原則に基づいた制度設計が検討されるべきでしょう。

参考文献:
1) Landrigan CP, et al. Effect of reducing interns’ work hours on serious medical errors in intensive care units. N Engl J Med. 2004 Oct 28;351(18):1838-48.
2) Tokuda Y, et al. The New Japanese Postgraduate Medical Education and Quality of Emergency Medical Care. J Emerg Med. 2011 Mar 11. [Epub ahead of print]
3) McMahon GT, et al. Evaluation of a redesign initiative in an internal-medicine residency. N Engl J Med. 2010 Apr 8;362(14):1304-11.

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