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Vol.341 地域医療なくなる不安~南相馬市の現状

医療ガバナンス学会 (2011年12月16日 06:00)


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福島県南相馬市原町区在住
わかば塾・番場塾・番場ゼミナール塾長  番場さち子
2011年12月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


家族でかかりつけにしていたホームドクターの奥山医院が、今年一杯で休業すると言う。実しやかに噂にはなっていたが、実際に院長の口から告げられると、また別の感慨があった。

院長に理由を尋ねると、働いてくれる看護師がいないのだと言うことだった。お嬢様で内科医である裕子先生と二人で、受付、事務、看護師、薬剤師、医師の仕事を兼務して再開していたが、限界だということだった。

お年を召した患者はいる。だが、若い者はいない。働く場所はある。だが、働く人はいない。緊急時避難準備区域が解除されても、働き手が帰って来ないのである。
南相馬市では、半分の人口が戻ったと発表した。「それ、本当?」市民は、意外にも冷ややかにその発表を受けとめて聞いている。実際、我が家の前の道路を挟 んだ住宅地には、7軒の新築されたばかりの家が建ち並んでいるが、帰って来ているのは2軒だけである。犬を3匹飼っている家と、奥様が学校勤務をしていて、避難所から職場に通うのが困難なため、仕方なく戻って来た若いご夫婦二組だけである。
3.11の朝に干したであろう、二階の踊り場に洗濯物が干されたままの斜め後ろの出来上がったばかりだった家も、9ヶ月経った今でも、リアルに当時の状態が残されたままである。

我が家から200mほどの、一番近い南相馬市立総合病院は、震災前からいつも混み合っていた。早朝に診察券を出しに行く…とか、半日も待合室ロビーで順番 を待つ…とか、いつもバタバタと走り回っている私には、薬をもらいに行くには時間がかかり過ぎて、論外の病院ではあるが、かかりつけ医が休業するのでは、 背に腹は代えられない。今までの病歴や薬品名を書いてもらい、紹介状を出していただこうと、市立病院を指名した。

ところが、ドクターの答えはNO!である。「市立病院は医師が不足している。これ以上患者が増えては、充分な診療をしてあげることはできないので、新規の患者は紹介してくれるな…」とのことらしい。

さて、私は困った。南相馬は、鉄道も通っていないのである。北は、新地駅が津波で被害を受けたため、仙台へ行くことができない。南は、原子力発電所がある ため、東京、いわきへの電車もない。民間のバスが、一日一往復だけ、南相馬~東京駅へ高速バスを走らせていたが、12/1~3/1まで峠が凍ることを懸念 して運休になってしまった。福島交通のバスは、一日6往復、南相馬~福島駅までを運行していたが、半分の3往復に減らされてしまった。文字通りのこんな陸の孤島で、いよいよ具合が悪くなった時、急を要する病にかかった時、南相馬の住民はどうすれば良いのか?

何年も長い間、自分の体を預けてきた病院がなくなる…南相馬の市民は、放射能や風評被害以外にも、こんな不安も抱えて生活しなければならないのである。

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