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Vol.385 もっと広がれ!障害者スポーツ

医療ガバナンス学会 (2012年1月30日 06:00)


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特定非営利活動法人スタンド 代表理事 伊藤数子(いとう かずこ)
障害者スポーツサイト「挑戦者たち」http://www.challengers.tv/
2012年1月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


●モバチュウを始める
今年はロンドンオリンピック・パラリンピックが開催されます。パラリンピックには21の競技があります。電動車椅子サッカーは2020年のパラリンピック 種目入りを目指している競技です。電動車椅子に乗った4人が1チームとなり、バスケットボールのコートで試合をします。手元のレバー一つで駆動し戦うこの 競技は、重度障害がある人もプレーでき、老若男女問わず、チームを構成できます。とてもユニバーサルなスポーツです。私は電動車椅子サッカーチームの「金 沢ベストブラザーズ」をずっと応援していました。2003年の秋には、ブロック大会を勝ち抜き、ついに全国大会へと駒を進めることになりました。この瞬間 の喜びは今も忘れません。そして何日か後に聞いたことも忘れられません。選手の一人が大阪で行われる大会に行かない、というのです。私は驚いて、理由を問 いました。そして彼の答えに私は返す言葉を失いました。お医者さまから外泊禁止の厳命を受けたとのこと。障害が原因です。障害者のスポーツにはこういう場 面があることを想像だにしませんでした。強くなりたい、勝ちたい、と進んで来た道です。本人がどんなにか悔しいか。しかし如何ともし難いのです。

なんとか、良い手立てはないものか。そんな時チームメイトから、妙手が浮かびます。ケータイのテレビ電話で試合を映せば、自宅でも観戦できる。それが発展 したのがモバチュウです。モバチュウはモバイル・ライブ・中継を略した愛称です。専用に開設したホームページに会場からインタネットを通じて生中継すると いうものです。

大会会場のロビーで大型のテレビにモバチュウを映し、デモを行ってみると、びっくるするくらい多くの選手やチーム関係者に人気を博しました。多くの方にそ の場から連絡していただき、残してきた地元の関係者に生中継を見ていただくことができました。遠征できないのは金沢ベストブラザーズの選手一人ではなかっ たのです。全国のチームに、同じような人がいたのです。たった一人の選手のためにしたことは、多くの人に喜んでもらえるものだったのです。
試合後、初のモバチュウを金沢の自宅で観戦した選手の写真を見せてもらいました。写真の彼はユニフォームを着ていました。一緒に戦っていたんだ、と思うと胸が熱くなりました。

翌2004年、モバチュウは日本電動車椅子サッカー協会の公式中継に「格上げ」されました。そして、いよいよ、こんな言葉を聞くことができました。更に翌 年の2005年夏ある一本の問い合わせをいただいたのです。全国大会に出場権を得られなかったチームの選手からです。「ブロックで負けたんで大会に行けな くなりました。今年も中継あるんですか?噂ではあるってきいたんですけれど・・・」。細々と始めたモバチュウを、見ていてくれる、期待してくれている人が いた。望外の喜びであることは言うまでもありません。毎年やる。このとき決めました。そして障害者スポーツを広める事業を行うためにNPO法人を設立しま した。現在では年間約10大会のモバチュウを実施しています。

●大きくなったら何になる? 子どもたちの「将来の夢」
毎年春になると、小学1年生を対象にした調査を目にします。「大きくなったら何になりたい?」という将来の夢を聞くアンケートです。男女とも必ず上位にラ ンキングされているのが「スポーツ選手」です。野球選手になりたい、スケート選手になりたい、と子どもたちは夢をいっぱい膨らませます。とびっきりの笑顔 で、大きな声で「大きくなったら・・・!」と答える姿が目に浮かびます。これは障害のない子どもたちの場合です。では、同じアンケートを障害のある子ども たちに実施したら、上位にスポーツ選手は挙がってくるでしょうか?答えは「決してない」です。障害者のスポーツの情報が少ないからです。障害者スポーツに どんなものがあるのか、どんなにかっこいいのか、の情報があまりにも少ないからです。メディアで報じられることは極めて少ないこと、障害者がスポーツをす る機会が地域に極めて少ないことがその要因です。子どもも親御さんも周辺の人たちも、その子がその残された機能で、どんなスポーツができるのか、知りませ ん。同じ障害がある人がアスリートとして世界の舞台で活躍していることを知りません。だから、障害のある子どもの「将来なりたいもの」にスポーツ選手はな いのです。

私が子どものころ、隣に住む高校生が剣道を習っていました。とてもかっこよく、憧れていました。テレビや新聞で野球、サッカー・・・たくさんのスポーツを 目にすることができました。河川敷でテニスもやっていました。子どもの私はいろんなスポーツがあって、選ぶことができました。やってみることができまし た。スポーツ選手を夢見ることもできました。それはスポーツの情報に囲まれているからです。

障害のある子たちにも、50競技にもなる障害者スポーツを知ってもらいたいと心から思います。こんなこともできる、こんなにエキサイティングだ、やってみ たい、将来選手になりたい、と心躍らせてもらいたい、と思います。もちろん全員がスポーツ選手になってくれといっているのではありません。障がいのない子 どもたちと同じように、いくつもの選択肢から自分の将来の夢を選べる環境の中にいてほしいのです。そのためにはもっともっと多くのスポーツを伝えていくつ もりです。私がモバチュウをはじめ、障害者スポーツの情報を伝え続けている源泉はここにあります。

そして今年、次のステップへと進みます。スポーツの魅力を知った人や子どもが今度はいつでもスポーツをすることができる環境を用意します。まずは、スタン ドスポーツクラグ(仮称)の設立です。小さなクラブから初めて行きます。いろんな地域に広がって、すべての人が好きなスポーツをいつでも続けていけるクラ ブへと育てていきます。
昨年スポーツ基本法が施行されました。スポーツ振興法が50年ぶりに大幅に改正されたものです。ここには障害者のスポーツを推進することが明文化されまし た。そして今年はパラリンピックイヤーです。障害者スポーツを取り巻く環境は半世紀ぶりに激変します。いえ、させなければなりません。大きな変革のときを 迎え、ちょっぴり緊張を感じます。そしてその中にいられることにそれより大きな喜びを感じています。

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