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Vol.388 鍼灸の現状と問題

医療ガバナンス学会 (2012年2月1日 06:00)


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北海道鍼灸マッサージ柔整協同組合 理事 健保推進委員長
NPO法人全国鍼灸マッサージ師協会 渉外広報局 健保推進担当理事
渡邊 一哉
2012年2月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


鍼灸やマッサージというのは現代医療の補完的な役割を果たしているといえる。慢性疾患の高齢者や急性期の筋肉炎症疾患などや、その後遺症、神経痛 五十肩  腰痛症など、薬物の服用などの副作用などや過度の薬物よりは鍼灸などの東洋療法に頼ったほうが、副作用に後々悩まされるなどの事がなくてとても簡便な医 療と言える。
しかし、昨今では問題がかなり多く見られるのも事実だ。何度かにわたって少しづつ医療関係者にこの問題を考えていただきたく、投稿するに至った。

まず、現在の鍼灸の置かれてる状況について知っていただきたい。鍼灸マッサージ治療を保険医療機関内で行いたいと考える医療機関が多いがこれは現在では認められてはいない。公にはである。実際に少なからず存在はするが。厚労省に対し聞くと曖昧な感じの答えしかかえってこない。

平成4年に岡山県で実際に質問した事例がある。日本鍼灸師会 熊崎氏の手記である。(日本鍼灸師会健保対策委員会 熊崎勝馬 医道の日本 H11年10月号p198~)
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○保険医療機関での鍼灸治療
現在,保険医療機関で鍼灸治療が実際に取り扱われていることは,幾多の鍼灸に関する報告書,並びに患者からの報告で知ることができる。このことに対し,具体的に真正面から行政に質問をしたのは平成四年十二月,岡山県内の保険医療機関の医師からであった。

その質問の内容と回答の要旨は,「保険医が有料で鍼治療できるか。保険医が鍼治療を無料で行うのであれば違法ではないか。保険医療機関で鍼灸の保険適用 はできないか。同一敷地内に鍼灸の施術所を設置することができるか?」などの問いに対して,「保険医療機関で鍼治療を行うことは有料でも,無料であっても 認められない。保険診療と鍼治療が併存すれば違法,関連なければ違法ではない。保険医療機関では鍼灸の保険適用できない。同一敷地内でも明確に分離・独立 してあれば止むを得ない。」
などであり,これらの回答は岡山県保険課の担当者が厚生省の確認を得た上でなされたものである。

この内容については,平成九年十二月,日鍼会は再度厚生省に文書で確認し,同年十二月五日付けで厚生省保険局医療課よりこの内容の取扱いは現在も変わりが ないものである,との文書を受領している。また平成十一年三月二五日に開催した業界四団体と厚生省担当者との勉強会の席上で再度日鍼会側から口頭で確認 し,この内容は今でも変わりがないことを担当者から回答を得ている。

しかるに,平成十一年七月二四日発行の『日本医事新報』三九二六号の「経営管理Q&A」で「診療所における鍼灸マッサージの開業」についての質問に対し,税理士,医業経営コンサルタントの常山正雄氏が次の如く回答している。

<日本医事新報の記事抜粋>
[問] 医院とともに,鍼灸マッサージを行いたいと考えているが,手続きなどはどのようにすればよいか。
[答] 診療所において,鍼灸マッサージを生かした手続きとしては、1)診療所に医療従事者として鍼灸マッサージ師を勤務させる。2)診療所とは別に独立した鍼灸マッサージ師の施術所を設置する。という方法がある。
1)医療従事者として鍼灸師を勤務させる場合
一般的に,診療所に鍼灸マッサージ師を勤務させる場合にはリハビリテーション科を新設する。この場合には,リハビリテーション科の新設となるため,診療所開設届出事項一部変更後10日以内に保健所に届け出なければならない。(中略)そ して,診療所に医療従事者が就職や退職をした場合には,医療従事者変更届けを変更後10日以内に保健所に届け出なければならない。(中略)診療所がリハビ リテーション科を標榜して診療するため,保険医療機関であれば,当然のことながら保険適用となる。保険の請求は従前の通り診療 所からの請求となる。また,自費診療,保険診療については,診療所にリハビリテーション科の医療従事者としての勤務となるため,どちらについても可能である。
2)独立した施術所の設置(略)
(税理士・医業経営コンサルタント 常山正雄)

この『日本医事新報』三九二六号に掲載された回答は,今まで厚生省の担当者が再三述べてきた内容と異なること,及び,この『日本医事新報』は全国の保険医 療機関や保健所,並びに行政関係者等にも広く愛読されていることから,このままではこの記事の回答が独り歩きし,保険医療機関にリハビリテーション科を設置すれば理学療法の一環として鍼灸が出来,その場合は当然の事ながら鍼灸の保険請求,あるいは自費診療としてでも取扱いができるものと理解され,大病院ならずとも地域での医院等でも鍼灸が公然とリハビリテーション科の名のもとで一般的に取り扱われる可能性が大いにあり,健保対策委員会ではその影響が甚大に なることを痛感し,とりあえず事実関係の確認をするため,厚生省に『日本医事新報』の回答の通り,保険医療機関での鍼灸の取扱いか可能であるのか問い合わせをし,以下の如くの回答を得た。

○厚生省保険局医療課の回答
(1)七月二四日付『日本医事新報』の掲載記事の中で,問い合わせのあった部分については記事の内容に誤りがあります。
(2) 厚生省から『日本医事新報社』に対して,記事の誤りを伝えるとともに,訂正の記事を近々同誌に掲載するよう話しております。

○厚生省の考え方
・上記の記事抜粋における下線(傍線)部分の回答は,誤りである。
・リハビリのうち理学療法に係る診療報酬上の取扱いについては,理学療法士自らが理学療法を行った場合を評価するのが原則である。

ただし,理学療法士と同様の基礎的知識等を有するあん摩マッサージ指圧師等が,運動療法機能訓練技師講習会を受講した上で,理学療法士の監視下で機能訓練を行った場合については,理学療法に係る所定の診療報酬点数を算定できることとしている。
これに対して,鍼灸師については,その有する基礎的知識等が理学療法士と基本的には異なることから,リハビリテーション科の標榜の有無に関わらず, 鍼灸の施術に対して理学療法に係る所定点数を算定することはできないものであり,保険適用はない。
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以上が日本鍼灸師会の熊崎氏の手記である。

この日本鍼灸師会がこうした医療機関の鍼灸治療にたいしての警戒心を持つのは現状の開業鍼灸師に対する経営の問題がある。保険医療機関で鍼灸治療が普通に 行われるようになれば開業鍼灸師のところに患者はこなくなり経営は逼迫し開業鍼灸師は絶滅するという考えが根幹にあると思われる。

今の開業鍼灸師のところで健康保険の療養費払いを使い健保適応をさせるための条件がいろいろある。ひとつには、同意書である。これは適応6疾患に関して、 医師の同意書があれば鍼灸治療を患者さんは保険診療ができるというものである。さほど、難しいことではないと思うかもしれない。しかし、患者さんは医師に 同症状を治療してもらってる場合など、鍼灸をと願いでにくい。医師は同意書を書くことによりその疾病治療は該当の患者さんに関してはできなくなるからであ る。

保険者によっては臨床各科どこでも同意書は問題ないとする向きもあるが、組合健保などでは最近は主治医でなければいけないと言ったり、整形外科医の同意書 でなければなどと法的な根拠もなく言われる事も多く、また同意書の発行医師に関しての法はなく、根拠も厚労省は明確にしていないことから、保険者判断が優 先されることになる。
その為に、保険者によっては支払い拒否が発生する。また、地域によっては同意書発行に応じない医師なども見られる。同意とは医師が鍼灸を熟知して初めて同意できるものであり、熟知してない医師は同意などできないと判断する医師もいる。

これに関しては厚労省は見解を出している。
○厚労省見解
あん摩・マッサージ、はり、きゅうに係る医師の同意
(1)あん摩・マッサージ、はり、きゅうに係る療養費の支給対象となる疾患の多くは、いわゆる外傷性の 疾患ではなく、発生原因が不明確で、治療に長期間を要するものが多いこと、治療と疲労回復等との境界が明確でないこと等の理由により、現在、医師の同意書 又は診断書の添付を療養費の支給要件の一つとしている。この取扱いについては、柔道整復と比較して不公平であるとして、医師の同意書等を必要とする現行の 要件の撤廃又は簡素化を図るべきとの意見があった。
(2)はり、きゅうに鎮痛効果及びあん摩・マッサージに筋麻痺の緩和効果等の対症効果があるとしても、施術の手段・方式や成績判定基準等 が明確でないため、客観的な治療効果の判定が困難であること、治療と疲労回復等との境界が明確でないこと等から現行どおり医師の同意等を療養費の支給要件 とすることが適当であると考えられる。今後の研究の進展等により、これらの施術の客観的な治療効果の判定等が可能となった段階で、改めて検討することが適 当である。
(3)また、患者が医師から同意等を受けにくい状況にあるとの指摘もあり、必要な場合に同意書や診断書の発行が円滑に行われるよう、具体的な措置を講ずる必要がある。
(4)また、そのメカニズムは明確ではないが、はり、きゅうには、現行の対象疾患以外にも鎮痛等の効果が認められる疾患については、医師の同意の下に、新たに療養費の支給対象とすることを検討することも必要である。

これは国保新聞平成7年10月1日に発行された医療保険審議会の見解である。療養費の支給基準(社会保険庁)を見るとわかるが、患者の求めに応じて同意書 を書くことは同意書を発行する事以外に責任をもつという意味ではない旨の文言もある。(3)に関してだが。現在はそれから17年あまりの年月が立ち、健康 というものの概念、国民の置かれてる状況、国の健保の財源などさまざまな状況が変わった。この同意書という書類がなくなるか、簡便になるか、発行がスムー ズになり国民の開業鍼灸師にたいしてのアクセスがフリーになる事が、日本鍼灸師会が保険医療機関内で鍼灸を行えるように賛成をするだろうと思われる点であ る。

医療費が平成22年で34兆円という規模の日本で、鍼灸の利用価値はとなると、すぐに即答できない問題である。個人的見解では、慢性疾患の少なくても保険 適応の6疾患の薬物利用は減り、より安価な鍼灸治療を使うことで鍼灸の療養費は伸びるかもしれないが、医療費の総体枠は下がるだろうと思う。これも厚労省 が試験的にどこかの市町村で同意書の部分解除などを行い、数字を追ってみないと何とも言えない。業団体の力では限界がある。さりとて厚労省にその認識が薄 く、どこの窓口も対応をしてくれないもどかしさがある。

次に支払い方法である。現状の開業鍼灸師は原則、償還払いであり、保険医療機関での鍼灸となると保険給付となることからこの問題は大きい。現在は保険者は 患者である国民の不利益や手間の解消のために鍼灸師に委任を患者がしてその支払いを鍼灸師が受ける、もしくは第3者が受け取る第3者委任という方式が広く 使われていたが、昨今その委任方式も組合保険をはじめとする保険者は償還払いに変更してきている。理由はコンプライアンス遵守のためとあるが、そもそも法 令遵守というこのコンプライアンスという語句に値する法令そのものがないが、あるとすると、次の医療審議会の出した文言である。

1)あん摩・マッサージ、はり、きゅうに係る療養費については、これまで受領委任払いは認められていないが、柔道整復との均衡から、受領委任払いを認めるべきであるとの意見があった。
2)しかし、柔道整復に受領委任払いが認められているのは、あくまでも特例的であること、また、あん摩マッサージ、はり、 きゅうに係る療養費の対象疾患の多くは、外傷性の疾患ではなく、発生原因が不明確で、治療と疲労回復等の境界が明確でないこと等から、施術を行う前に保険 者が支給要件の確認をできない受領委任払いを認めることは適当でない。

そもそも発生原因などが不明瞭であるなしということが、医療に関係するものだろうか。では、発生原因がすべて明確であるものが医療費の対象になっているの か?精神疾患など鬱病や、多くの疾病の発生原因などは明確になっているわけではない。なのに、鍼灸に関してのみ発生原因の不明瞭さをあげるのはなにか鍼灸 を医療の枠内にいれたくないという恣意的なものを感じる。医療に発生原因などが関係するものではなく、その支払い方法をここまで限局的にするのは鍼灸師の 個人の資質、医療者としての資質に大きな疑問があるからに違いない。

専門学校教育3年で卒業し、国家資格をとる資格は他にも柔道整復師はもちろんだが、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、臨床検査技師、看護師、など 他にもある。問題は卒後の研修や、卒後の業界団体の受け入れ態勢、学会の組織率など、鍼灸師の組織率など数%にしかならない。卒業後は野放しで、研修を一 定年数をせずに健保をそのまま使える体制にある。これとて、厚労省は動こうとしない。個人的には保険を使えるようにするためには、一定の期間、医師の認定 制度、専門医制度のように保険専門鍼灸師を創設し、ある程度の期間の研修を行い、その後は定期的に研修をさせる必要があると思う。以前、この制度を総理府 に打診して特区制度でやらないかと言ってみたが、厚労省側が医療に関わるものは特区制度にはなじまないとし、実現はしなかった。

しかし、毎年6000名が卒業する鍼灸師大過剰時代に無尽蔵に保険を請求していくことはやはり財源の問題もしかりだし、研修制度がなく鍼灸をするとなる と、悪貨が良貨を駆逐するのは当然の事である。患者さんである国民に多大な迷惑がかかる可能性だってあるのだ。業界団体としては様々な方策をとり研修会を 作ったり、学会や業団体の入会を促進するような方法をとってきた。しかしもう毎年6000名ともなれば限界である。国がある程度強制力をもって、なにかの 制度を作り上げないと、どうにもならない。その事をいち早く感じ、動いてきたが政治にはもはや期待できず、政権与党もなにを言っても聞くだけで約束はして はくれない。

医療関係者には早急にこの問題を知っていただき、業界団体としてはなんとか良い結論がだせないかと思案しているところであるが、なかなか良い知恵が浮かばず、もしなにか知恵があればお貸しいただきたい。

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