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Vol.399 南相馬市、『攻めの医師募集』プロジェクトの提案~医療再建を目指し、今年2月1日開始(その2/2)

医療ガバナンス学会 (2012年2月11日 16:00)


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この文章は、m3の医療維新に掲載されたものです。医師の採用手続きの簡素化に伴い若干の変更を加えました。

亀田総合病院副院長
小松秀樹
2012年2月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


(その1/2より続き)

●攻めの医師募集案
2011年9月、私は、亀田総合病院の亀田信介院長と共に、南相馬市を訪問しました。桜井延勝南相馬市長に、南相馬市への医療支援を依頼されました。南相 馬市立総合病院の金澤幸夫院長は、特に、二次救急を充実させたいと述べられました。10月、私は南相馬市立総合病院が、医師30人を一度に募集する『攻め の医師募集案』を提案しました。人数を入れたのは、入院患者100人当たりの常勤医師数を6.7人から、20人にしたいと思っていることを、応募者にも分 かってもらうようにするためです。趣意書案では、具体的ミッションを明確にしました。

●ミッション
1.被災者の健康管理
仮設住宅の住民4500人が、健康を保ち、気持ちよく生活できるよう対応します。地域住民の被曝について、健診と健康相談を行います。
2.高齢化社会のまちづくり
高齢化社会のまちづくりに医療・介護の視点が欠かせません。医師の立場でまちづくりに関わりましょう。
3.南相馬市の医療再建
南相馬市の医療・福祉、具体的には、二次救急、入院診療、介護を再建します。
4.雇用確保
被災地の最大の課題は雇用です。医師が普通に働けば医業収益は年間1億円。1人の医師の活動で、病院に5~6名の直接雇用が生じます。第二次的波及効果もあり、医師として活動するだけで被災地に多くの雇用をもたらします。

金澤院長は、まず、福島県-福島県立医大に支援を求めて、十分な支援が得られないときに、この計画を実施したいと表明されました。
『攻めの医師募集案』が目指す価値は、大学で重視されてきた価値とは異なります。社会が最も必要としている医療サービスが何かを認識して、それを上手に提 供することが重要なのです。このための組織作りも、医師の責務になります。南相馬市では、臓器ごとの専門家も必要ですが、現時点で、必要度が高いのは、救 急医、総合診療医、家庭医だろうと思います。従来の大学医学部では、報われることが少なかった診療科です。
今後30年間の日本最大の問題は高齢化です。高齢者人口が急速に増加し続ける一方で、若い働き手が減少し続けます。従来の医学部の持っている専門医重視の コンセプトと組織体制では、必要な医療を提供できなくなります。医師のキャリアパス、医局制度なども、社会の要請に従って、変えていかなければなりませ ん。南相馬市は日本の高齢化に伴う医療・介護問題の最先進地域になります。南相馬市の医療から、日本の医療の新しい形が提示されるかもしれません。

私の友人には、個人として影響力のある尊敬すべき医師がたくさんいます。こうした有名な医師に、プロジェクトの協力医師として、若い医師のキャリア形成の相談役になってもらうことを了承してもらいました。
亀田隆明氏は、亀田総合病院を経営する医療法人鉄蕉会の理事長であり、日本を代表する病院経営者です。河北総合病院の経営者である河北博文氏は、深い教養 と高い理想で日本の病院経営者に大きな影響力を持っています。久住英二氏は、立川で日本最初の駅中クリニックを成功させ、医療へのアクセスに革命をもたら しました。東大の国際保健の渋谷健司氏はランセット(世界最高峰の臨床医学雑誌)の日本特集を編集しました。谷口修一氏は、血液の移植医療の第一人者で す。原発労働者の大量被ばく事故に備えて、末梢血幹細胞を採取保存するプロジェクト(谷口プロジェクト)を提唱・推進しています。土屋了介氏は、3年前ま で国立がんセンター病院の院長として、日本のがん医療を主導し、がんセンターの改革を推進しました。寺野彰氏は、学校法人獨協学園理事長、卓越した消化器 内科医、弁護士と多彩な顔を持ちます。獨協学園傘下の獨協医科大学は、福島県二本松市に分室を設けて、内部被ばく検査など、被災地支援活動を行っていま す。常盤峻士氏は、いわき市を中心に医療機関や介護施設を経営しています。震災では強力な指導力で、透析患者の大移送作戦、老健疎開作戦を成功させまし た。中村祐輔氏は、日本を代表するゲノム研究者で、内閣官房医療イノベーション室長を務めました。野田哲生氏は日本のがん研究の第一人者です。松本慎一氏 は膵島移植の世界的権威です。武藤真祐氏は、震災後、東京から石巻に入り、在宅医療施設を、仮設住宅に隣接したところに新設しました。目黒泰一郎氏は、臨 床に主眼を置いた医学部を東北に新設しようとしています。
医師の研修に関しては、ノウハウを持つ亀田総合病院が協力できます。他にも喜んで協力してくれる病院はあるはずです。
時代の要請に沿った提案なので、3人集めるより30人、30人より300人集める方が簡単かもしれません。
この計画を聞いて、関東の大学の助教授、東京の名門病院の部長が、それぞれ現在のポジションを離れて、相双地区で活動してくれることになりました。原澤医 師の個人的働きかけで、1月17日より、大阪の澤病院から精神科の医師と看護師が、南相馬市立総合病院に出向してもらえることになりました。

12月17日、桜井市長は、この計画の実行を決断されました。
私には懸念があります。計画をスムースに進めるために、敢えて苦言を申し上げておきます。そもそも、提案から2カ月以上、私から見ると無為に時間が経過し ました。亀田総合病院からの出向に関わる南相馬市の事務処理の遅さが、亀田側で話題になりました。事務処理が進められているのかどうかも伝わってきませ ん。南相馬市役所の動きは、震災後とはいえ、普通の社会人から見ると誠実性が疑われるレベルです。本来、南相馬市にとって必要な人材なら、礼を尽くして、 市が赴任を望んでいることを、本人に伝わるようにしなければなりません。市役所の職員は、地域社会が崩壊の危機にあること、日本の医師が、自治体病院全般 に対し、必ずしもよい印象を持っていないことを自覚すべきです。『攻めの医師募集』でどの程度医師を集められるのか分かりませんが、医師のインセンティブ を扱うのに、従来のお役所仕事そのままで対応すれば、到底うまくいくとは思えません。
私は、桜井市長に、南相馬市立総合病院で採用できる医師数の上限を決め、詳細については、すべて、金澤院長に一任することを求めました。市長はこれに同意 されました。市長は、南相馬市役所が復興の障害にならないよう、人事権でも処分権でも使えるものは何でも使って、指導力を発揮しなければなりません。市役 所の職員が、市長の方針を合理的理由なしに無視することは、制度上許されることではありません。

プロジェクトが2月初めにスタートしました(  http://www.kameda.com/fukkou/reconstruction/index.html )。 具体的には、南相馬市立総合病 院 ( http://www.city.minamisoma.lg.jp/sogohp/sogohp.jsp )と小野田病院(  http://bb.soma.or.jp/~onoda-hp/ )が医師を募集いたします。応募される方は、病院と直接交渉してください。南相馬市医 療再建会議、協力医師、亀田総合病院は応援団であり、採用事務には一切かかわりません。採用された医師は、希望すれば外部の医師とキャリア形成について相 談できます。ただし、キャリア形成は基本的に本人の責任で行われるものです。従来の医局のように職を保証するものではありません。

●臨床研修病院
『攻めの医師募集案』は、最終解決策ではなく、次のステップへの準備です。この地域で継続して質の高い医療を提供するためには、魅力的な臨床研修病院を作 らなければなりません。日本で評価されている有名病院の多くは、医師の教育制度を充実させ、自前で医師を育成しています。地方の中規模の病院でも、元気が よいのは、自前で医師を育てている病院だけです。
福島県立医大もこの際、理念を見直し、医局の在り方を再検討して、上手に協力すれば良いと思います。キーポイントは、医局の排他性をいかにコントロールす るかです。参入障壁にならないようにするにはどうすればよいのか、本気で考える必要があります。時代に逆らって旧体制を温存しようとすると、ますます医師 は離れます。

臨床研修病院を作る上での問題は、南相馬市の人口では、高い水準の臨床研修病院を維持することが難しいことです。本格的な病院を支えるためには、相当な人 口と資金が必要です。この地域の自治体が協力して病院を集約する必要があります。とりあえず、既存の病院の建物はそのままでも、機能的に統合させる必要が あります。臨床研修病院のサイズは、南相馬市、相馬市単独では支えきれません。共同で病院を持つとしても、臨床研修病院としては最小クラスにしかなりませ ん。魅力的な臨床研修病院が作れなければ、この地域の医療サービスは現在よりさらに縮小します。

原発事故直後に、近隣自治体の個々の住民にどの程度の被ばくがあったのか具体的なデータはありません。しかし、現在の南相馬市立総合病院北側の外部線量 は、毎時、0.5マイクロシーベルトと比較的低値です。食品検査の徹底で内部被ばくを防止できれば、今後、健康に問題が生じるような新たな被ばくは生じな いと思います。食品検査の徹底は、市役所がその気になれば、難しいことではありません。
南相馬市の大半は、立ち入りを禁止されているわけではありません。ここに残って地域社会を守ろうとしている人たちがいます。地域外に避難したものの、生活 のために、戻らざるをえない人たちがいます。この人たちが生活していくためには、医療サービスの継続的提供は必要不可欠なのです。

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