医療ガバナンス学会 (2012年3月1日 06:00)
『ロハス・メディカル』新聞社版2012年3月号に掲載されたものです
新潟大学大学院小児科教授
齋藤 昭彦
2012年3月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ワクチンだって同じです。万が一の感染症に備えるのが目的ですが、一つずつ個別に接種してくと、間隔を置かねばならない分、その期間に感染する可能性が生 じます。本来の目的に合いません。同時接種すれば、複数の疾病から同時に守ることができます。一度に何種類も接種することで医療機関へ通う回数が減れば、 親御さんの移動時間、待ち時間、休まなくてはいけない労働時間も減ります。受けやすくなる分、接種率は上がり、社会全体で子供を感染症から守るという目的 に、やはり沿うことになります。医療者側から見ても、同時に接種すれば受付や問診や会計といった予防接種にかける仕事の総量が少なくなります。
デメリットは、お子さんが同時に数回の痛みを味合うという精神的苦痛が挙げられますが、最終的な痛みの回数は同じです。
安全性を心配する声があるのは理解しています。同時接種のことが話題になったのはここ数年のことで極めて歴史が浅く、またワクチンは、頻度は極めて少ない ですが副反応がある一定の頻度で起きます。ただし承認されているワクチンは、防ぐことのできる疾病に罹患した時のリスクと比較して、メリットが大きく上回 ることは既に証明されています。
また、同時接種した時の副反応の頻度は、単独接種を繰り返した時と変わりません。なぜならば、ワクチンの効果は、体の中にある膨大な免疫担当細胞のうちご く一部が、免疫応答して得られるものです。一つのワクチンで全身が反応するわけではありません。従って、互いに干渉して影響しあうと考える科学的根拠はあ りません。
歴史も安全性を証明しています。80年代後半から90年代にかけて色々な新しいワクチンができて、多くの子供たちに同時接種されてきています。今までに同時接種を行ってから副反応の頻度が上がったとか、死亡例が増えたということは報告されていません。
同時接種は、海外では標準的な医療行為の一つです。2011年3月の死亡例報告以降、ある自治体では同時接種を制限しているということを耳にします。医師 が団結して改善を求める必要があります。逆に単独接種をし続けるという医師は、同時接種を行わないことによるデメリットを十分に理解し、そして保護者に伝 えなければいけないと思います。