医療ガバナンス学会 (2012年3月2日 16:00)
日本では、インフルエンザ予防接種を受けている人が多く、外来受診率も高く、早くに診断治療受けるため軽症で済む人がとても多い。新型インフルエンザのと きでさえ、諸外国に比べて断トツに死亡率が低かった。イナビルの出現で、たった一日で解熱しそこから48時間の経過観察、つまり最短発症後3日で登校でき る子供たちが増えた。ウイルスはまだ体内に残っているかもしれないが、イナビルでウイルス増殖は抑えられており、解熱した時点で体内のウイルス量はごくわ ずかであると思われる。実際に外来をやっていてもとても軽症で済む子が多いと感じている。
ノロウイルスや流行性耳下腺炎の例を挙げるまでもなく、出席停止期間後にもウイルスが排出されていると思われる感染症はたくさんある。多少のウイルスが残っていてもほとんどの感染症は大きな問題とならない。
インフルエンザの診断治療の進歩にかかわらず、出席停止期間が延びるとすれば、何のためにそこに大きなお金をかけているのだろうか。管理するほうからすれば、長く休んでくれればそれだけ確実にウイルスが減るわけですから余計な心配をせずに済み楽かもしれない。
出席停止延長に伴うデメリットの一番は親の負担である。子供が5日休まないといけなくなると大抵のしわ寄せは母親に来る。働く母親の場合とても深刻な問題 である。子供は一人とは限らない。次々移っていくこともよくある。学校から熱発で呼び出されることから始まって、子供のために急遽5日休まなくてはいけな いというのはとても大変なことだ。
0歳児保育としている知り合いの保育園では0歳児クラスで3人がインフルエンザに罹患、一人は5日間休み他の2人は解熱後2日で登園したそうだが特に感染 は広がっていないという。厚労省が解熱後2日といい、文科省が登校は発症後5日、解熱後3日というルールを考えている。縦割り行政にならず科学的に判断し てほしい。
日本はお役所が一旦ルールを決めると愚直なまでに右へならえをする国民性がある。 微熱で最初から軽症な例でも子供に限らず大人も会社からインフルエンザ かどうか確認するように言われたと病院にやってくる。軽症で自然治癒するレベルと思われても、社会がそれを許してくれない。それも1回のみならず、もう一 度検査してほしいとやってくる場合も少なからずある。また迅速検査で陽性だった場合どんなに軽症でもまず間違いなく治療を希望する。限られた医療資源がか なり無駄に使われていると感じている。
文科省で出席停止期間が延びれば、企業もそれに準じるところが増えるだろう。医療費の側面以外に休業に伴う経済的な損失も大きくなる。加えて、イナビル吸 引後に亡くなった子供が「ひとり」出たために、2日間は目を離すなというお達しが一斉に配られた。母親の負担はますます大きくなる。
医療の領域にはそれが出来れば越したことはないけれど、他とのバランスを考えてということはたくさんある。物事を一方向からしか見ないで安易に規制をかけると自らの首を絞めることになる。一旦決まったルールは金科玉条のごとく扱われてしまう。
更に付け加えると新型インフルエンザの時も問題となったが、治癒証明や千葉で求められる登校許可証明書とやらも、忙しい医療の現場の負担になるので止めて 欲しい。不確実な分野で確実な証明書を求められても医師はそれを証明できない。国は最低限のルールだけ決めて(この場合は解熱後2日の自宅療養)、後は親 の判断に任せるというのがまっとうな対応である。不確実な領域のことまでやりすぎると、親の判断力が養われず、すべての責任が国に帰ってくる。
重症型の感染症ならまだしも、今のインフルエンザに対してこんなに手厚い対策をしているゆとりが日本にあるとはとても思えない。そこにかける時間とお金を回してほしい医療分野はたくさんある。もう平時ではないのだ。
(以上の趣旨は文科省のパブリックコメントにも出させていただいた)