最新記事一覧

Vol.422 慢性「地域医療過疎」症候群に対する「研修医」投与という医療過誤―初期臨床研修制度に関する「日本医師会案」を検討する

医療ガバナンス学会 (2012年3月3日 06:00)


■ 関連タグ

医師のキャリアパスを考える医学生の会
防衛医科大学校4年 戌亥 章平
2012年3月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


現在、2015年の医師の初期臨床研修制度改訂に向けて、厚労省ではワーキンググループの中で議論が始まっています。今回の厚労省でのワーキンググループ を受けて、医療界でも様々な立場の個人・団体が臨床研修制度に関して意見や提案をしています。医療界の大きなステークホルダーの一つである日本医師会も、 臨床研修制度に関する独自の案を発表しています。この「日本医師会案」を養成される医学生の立場から検討します。

まず、これまでの医師の卒後臨床研修制度の歴史を振り返ると、1948年に卒後1年間のインターン制度が開始され、1968年に努力規定による臨床研修制度が創設されました。この制度は2004年に大きく変わり、2年間の臨床研修を必修とする現行の制度が導入されました。

これにより研修医の身分が保証され、かつてのように研修医が無給で働かされることもなくなりました。しかし、それまで潜在的であった研修医の「医局離れ」 が顕在化するとともに、地域の医師不足が問題となりました。現行のマッチングを通した臨床研修システムの導入によって、全体として研修医の教育環境は改善 したものの、一方で医師の偏在を生んでしまったのです。

そのために地域医療の代弁者たる日本医師会は、「日本医師会案」として以下の提案をしています。
1) 大学ごとに臨床研修センターを設置して「研修医」の大学への結びつきを強める。
2) それらのセンターを束ねる「医師研修機構」の都道府県ごとの設置、都道府県ごとの定員設定によって地域に人を戻す。

これによって、具体的な研修病院選定の手続きは以下のように変わります。
1)卒後臨床研修希望者(6年生)は、出身大学の臨床研修センターに登録し、研修先の希望を提出する。
2)各大学の臨床研修センターは、研修希望者と面談し、研修希望先を確認する。必要があれば臨床研修センターがアドバイスを行い、研修先を選定する。

しかし、初期研修病院を決めるのに出身大学を介することのメリットは医学生にはありません。現行のマッチング制度の方がよっぽど自由で公平かつ効率的な制度と言えます。

この問題をややこしくしている原因は、本来であれば別の次元で議論すべきである「研修医の教育」と「地域医療の再生」の話が一緒に議論されていることで す。つまり、「地域医療を再生するためにはどうすれば良いのか」という議論が、『「研修医に良い教育をする」ことと「地域医療を再生する」ことの間にいか にして妥協点を見つけるか』という議論にすり替わっているのです。

しかし、この議論は、従来の大学医局制度の弊害を反省して「良い医師を育てる」という現行の初期研修制度の目的に逆行するものです。また地域医療解決のた めの有効な方策ともなりません。地域に医師が足りないからといって研修医だけを送り込んでも医師不足を解消する戦力とはならないからです。それどころか、 教育の不足から、医師の質の低下、ひいては将来の医療の質の低下に繋がりかねません。短期的な視点で見かけの医師数を増やすよりも、長期的な視点で「良い 医師を育てる」ことの方がメリットが大きいはすです。

本当の問題は、研修病院間に教育水準の差が大きすぎることであり、そのために、医学生が教育水準の高い病院を全国の中から敢えて見つけ出さなければいけな いことです。地域の病院であっても魅力ある病院であれば医師は集まります。ますは魅力ある研修プログラムを作ることが先決です。

もし医師の人員配置によってこの問題を解決しようとするならば、研修医の適正配置よりも先に、スタッフクラスの医師の適性配置の議論や研修病院の教育の質を担保する方策の議論があって然るべきではないでしょうか。

したがって、もし研修医の適正配置の議論をするなら、
1) 研修内容の全国統一の最低基準と地域における研修病院を整備する
2) 研修医の労働環境について厳格な労働基準を設定する
ことが必要です。その際、米国のACGMEによる研修プログラムの認定システムと研修医の週80時間労働ルールが参考になるでしょう。

医師不足・偏在の問題は、研修制度の問題に矮小化することなく、医療制度の全体設計の中で大きく捉えるべきです。そのためには、国家の中で今後医療をどう位置付けていくのかという根本的な議論をこ行っていくべきでしょう。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ