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Vol.447 ガラスバッジ検査 ~相馬市の対応から~

医療ガバナンス学会 (2012年3月30日 06:00)


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東京大学医科学研究所
坪倉 正治
2012年3月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


相馬市では、昨年の10 月から12月にかけて乳幼児から中学生、妊婦の計4010人にガラスバッジによる外部被ばく検査が行われ、その結果がHPに公表されました。

http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/glass/index.html

年間線量で2mSV以上が33人(0.8%)、1mSV以上が522人(13%)という結果でした。(例えば3ヶ月装着した方であれば、4倍し12ヶ月分 の値を年間線量として計算しています。)続けて、各保育園、幼稚園、小中学校別の結果が掲載されています。より線量の高い地域であればあるほど、ガラス バッジの示す値の平均値は高くなることが示されました。より線量の高い地域であればあるほど、ガラスバッジの示す値は高い。これは当然の結果です。

しかしながらそれと同時に、同じ地域に住んでいる方々の中で、値が広範囲に分散しているということが判明しました。言い換えれば、比較的線量の高い地域に 住んでいる方の中に、かなり値が低い方がいること、逆に線量の低い地域に住んでいるにも関わらず、値が高めである方がいるということです。同一家族内でも 値が異なる場合が散見されます。ざっくりと申し上げると、小学生よりも中学生の線量が高めに出る傾向にあります。外で活動する時間が長いからなのかもしれません。いずれにせよ、出る値がまちまちです。

【個別対応の徹底を】
それに対して、相馬市では2/24,25に、ガラスバッジで年間の線量1.6mSv以上の子供をもつ両親を対象に、ガラスバッジの個別結果説明会が行わ れ、2/26,28に全体説明会が行われました。反応は様々でした。数字を見て、転居を決意したとおっしゃる方、逆に思っていたより少なくて安心したと おっしゃる方がいらっしゃいました。しかしながら、多くの方は冷静に結果を受け止め、今後どのように生活して行くべきか、今の生活の改善点についての質問 が多かったように思います。

個別の説明会には、星槎グループの先生方を始め、東京大学国際保健学の渋谷先生、帝京大学の小松先生、亀田総合病院の鈴木先生、福島県立医大の井上先生、 南相馬市立総合病院の原澤先生、都立墨東病院の濱木先生、東京大学医科学研究所の上先生、松村先生、滝田先生らが参加されました。

全体の説明会は私もお手伝いさせていただきましたが、自身で計測している空間線量と、それから推測されるガラスバッジの結果を比べ、なぜ予想される値より、結果が高いのか、または低いのかという質問が複数の方から聞かれたのが印象的でした。

次いで相馬市では、3月初旬から、値の高かった子供達が住む家に、市の職員による個別の全戸訪問が開始されました。家の線量(特に長時間生活すると思われ る、居間や寝室の線量)を各部屋数ポイントずつ測定し、線量図を作成、家の周りで線量の高かった場所の写真を細かく撮影します。そしてどのような除染が可 能かの検討を始めました。検討会には、東京大学の早野先生、上先生、私も参加させていただきました。訪問された家の数は数十件でしたが、それでも膨大な資 料の量に驚きました。他の業務のある中、何度も線量測定に足を運び、資料を作成された市役所のスタッフの皆様に敬意を表します。

その結果、多くの家での1Fと2Fの線量が明らかに違うことが再確認されました。家の中でも部屋によって線量が明らかに異なります。部屋、そして部屋内の 場所を選ぶだけで、線量が大きく下げられることがわかりました。子供の生活の約3分の1は睡眠、3分の1は学校です。当たり前のことなのですが、我々がも う一度、子供達の生活する場所の線量評価を徹底的に行い、長時間生活する場所から、少しでも線量を下げて行く継続的な努力が必要であること、しかもそれを 行うことで、より線量を下げる方法が十分とり得ることを再認識しました。

なぜこんなにも値がばらつくのか、答えは一つではありません。個別面談では、線量計を学校にはつけて行くが、家に帰ったら定位置に置いている、という子供が多かったように思います。ずっと家の窓側に吊るしていたという方もいらっしゃり、計測方法が問題になっている場合も多々見受けられました。これらの改善 は今後の課題です。個別で話を聞くのと平行して相馬市では、両親を対象に、子供の生活に関するアンケートを行いました。現在、どのような行為が被ばく量の 増加に結びつくのかについて、解析を行っています。

【今後に向けて】
放射線に関する説明会を行っているときも、内部被ばく検査の結果説明をしているときも、同様のことを感じてきました。個別に一人一人話を聞いていかなければ何もわかりません。体内のセシウム量の下がりが悪い方からじっくり話を聞くことで、今後食べ物の選択をしっかり行うことが、内部被ばくを予防するのに非 常に重要であることがわかりました。

外部被ばくも同じです。一般的なことを言えば、放射線防護の3原則、距離をとり、時間を短くし、遮蔽をおけばよい、ということになります。それでは具体的 な方策は産まれません。ガラスバッジの値が高い一人一人から話を聞き、念入りに状況を把握することで、どのような生活や行為が被ばく量を増やすのかを知る 必要があります。これを続けることが、今後の被ばく軽減や除染のノウハウをためて行くのに非常に重要です。継続的に検査し、値の高かった方から十分話を聞 き、改善点を共に探して実行して行く。これが全てだと思っています。新しく出来たマンションの線量が高いことが、ガラスバッジの結果でわかった。そんな話 もありました。

内部被ばくも外部被ばくも初期の被ばくを評価する時期は既に過ぎています。初期の空間線量全てが細かくわかっている訳ではありません。内部被ばくに関しても、セシウムは徐々に排泄されている今、初期の摂取量の推測がしづらい状況にあります。これらの検査は、今の生活を続ける上でどの程度の被ばくをしてしまうのかを焦点とし、継続的な検査が絶対に必要です。そして、個別に一人一人結果を見ながら相談する必要があります。私も可能な範囲で継続的に関わって行き たいと思います。より多く方々の情報共有が進み、より良い方策がとられることを願ってやみません。

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