医療ガバナンス学会 (2012年3月31日 06:00)
2. 骨抜きとなった理念
「死因究明推進法案」の元となった議連提言作成者の一人としては、とても不本意な合意である。そもそも診療関連死問題を含め、現在の死因究明制度の混乱を 招いている制度の縦割りを排し、内閣府にて白紙から制度設計を行うことを目指したものが議連の提言であった。したがってそもそも両案は相反する内容を持つものであり、並んで議論されること自体があり得ない。今回の合意によって、警察庁主導の法医解剖制度および現在厚労省で検討が再開された医療事故調制度が 別建てとされたため、「白紙検討」は全く骨抜きとされた。法医学会の要望を受けた「専門的機関の整備」の記載追加も、必要性は理解するが、権益の既成事実化を図るものともなりうる。私個人としてはMRICへの投稿による注意喚起に加え議連事務局を通じて意見書の提出などを行っていた。しかし全く考慮されず、警察庁・民主党に引きずられる形で短期間かつ非公開の実務者協議のみで合意形成されたことは、誠に残念としか言いようがない。
3. 法案の問題点
今回の合意によって成立の見通しが立った「死因調査法案」も、上記MRIC投稿で指摘した通りの課題をはらむ。創設される法医解剖制度により、事件性の有 無が明らかでない死体について警察署長の判断により遺族の承諾なく解剖ができるようになる。その結果については「死因そのほか参考となるべき事項の説明」 を遺族に行うのみであり、その説明に遺族が不審を感じても検証のしようがない。法の目的として「遺族等の不安の緩和又は解消」を目的として掲げる割には、 単に判明した死因だけを伝えられても遺族の不安解消には決してならない。また見方を変えれば、新たな組織を創設する割に情報公開の意志が薄く、場合によっては新たな天下りの受け皿作りになりかねないセンスの悪い法案とも言えるだろう。これに対しては、遺族の求めに応じて解剖所見や遺体画像診断(Ai)の画 像等、調査によって得られた医学的な知見まで遺族に開示するように法文に明記することが必要である。そうすれば、調査結果を第三者が検証を行うことができ るようになるし、組織の腐敗を防ぐ手段にもなるだろう。
また「死因究明推進法案」では上記の通り医療の提供に関連する死体に関する死因究明の在り方は別途検討とされたため、現在再開された厚労省の議論に委ねられる。この検討会については、井上清成弁護士等が意見を述べておられる(MRIC Vol.438「医療の法律処方箋―医療事故調、議論再開~医療者が安心して医療ができる体制を」)。今後の動向に注意を要するであろう。
4. 今後について
3党実務者の協議は合意に至ったが、法案提出前に今後案文化して各党の党内手続きをクリアする作業が必要になる(そこがクリアされればほぼ法案の成立は確定する)。自民党の部会などで上記合意の意図をただし、また問題点について修正を求めてゆきたい。