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Vol.450 天皇陛下の予後で筋違いインタビュー

医療ガバナンス学会 (2012年4月1日 16:00)


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日本記者クラブ会員
石岡 荘十
2012年4月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


産経新聞は3月29日(木)朝刊の一面トップで、天皇陛下心臓手術の執刀医である順天堂大学天野篤教授への独占インタビュー記事を掲載している。
この中で、「退院後の胸水のご治療は想定内か」という質問に対して天野教授は「はい。問題がある場所にたまらないよう、わざと胸に逃がすようにあらかじめ手術で処置してある」と答えている。
この発言は、一連の報道の中では「新事実」であり、注目に値する。しかし、ここで記者は胸に溜まるであろう水を体外に排出する措置についての問いかけをしていない。
術後しばらく胸水が溜まる症状は、多くの心臓手術患者にみられる。このため、心臓外科医(執刀医)は、この水を排出するための管(ドレーン)をあらかじめ胸の中に差込んでおき、肋骨の下から出口を体の外へ出しておくのがスタンダードな術式(手術方法)である。

13年前、筆者が心臓手術(大動脈弁置換手術)を受けたときには、ドレーン2本を入れ、3日後にやっと胸水が止まって抜いた経験がある。
「天野先生は自信があるのか、胸にはドレーンは入れていないようだが、ドレーンを入れていれば術後の胸水はなかった可能性は十分あります。結果としてこれは失点というべきでしょう」という批判的な見方をする心臓外科医もいる。
もし、ドレーンを入れていなかったのなら、手術のdecision makerである執刀医に、ここでその理由を質すべきだった。
ところが記者はこの問題には一切触れていない。心臓手術の標準的な手順についての知識がない、従って、何の疑問も持たなかったのだろう。朝刊一面トップと なれば、記者が書いた記事について、デスクをはじめ編集局長に至るまで多くの関係者が眼を通したに違いないが、全員が心臓手術については同じレベルの知識 しか持っていなかったのだろう。

さらに、天野教授は「(胸水は)時間と気候が解決すると思う」と見通しを語ったと報じ、これを根拠に産経新聞は「天皇陛下5月のご訪英 可能」と断定して大見出しに採っている。
しかし、手術後の患者の予後、ケアに責任を持つのは、この場合東大循環器内科のはずである。執刀医である天野教授が、願望として「訪英できるほど回復され るように」と期待するのは無理もないが、術後の現状や今後の見通しについてなら、東大の永井良三循環器内科長に聞くべきだ。予後、手術後の患者管理体制に ついて、どこが責任を持つのか、最新の情報を持っているのは誰か、記者はわかっていなかったのではないか。見通しについてまで執刀医に質すのは、医学的に は筋違いというものである。
術後の健康回復の見通しは、同じ手術を受けた患者でも1人ひとり、異なる。この国のMVIPのご回復への経過について、多くの国民が関心を持っているのは 間違いない。それだけに、医学的にちゃんとした知識を持った記者がきちんと相手を間違えず問い正さなければ、読者の期待には応えられまい。
医療の世界ではEBM(Evidence-based Medicine)、つまり「医学的に根拠のある科学的な治療」が強く求められている。新聞記事もまたしっかりした根拠のあるものであってほしい。

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