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Vol.455 東日本大震災直後の東京電力福島第一原発事故で

医療ガバナンス学会 (2012年4月5日 06:00)


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福島県南相馬市原町区在住
番場さち子(ばんばさちこ)
2012年4月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


東日本大震災直後の東京電力福島第一原発事故で、福島は一躍有名になりました。
私も避難生活を寒い体育館で経験しましたが、われわれ沿岸部に住む住民は、何より津波が怖かったのです。余震で揺れ続ける中、津波を恐れて、まずは避難生活を送りました。
続いて放射能やセシウムや、聞きなれないメルトダウンに怯えて、避難を強いられました。報道は現場には来ず、正しいことが伝わっていないことに不安や焦りを感じていたところ、FBを介して東大医科研の先生方と知り合うチャンスに恵まれました。

南相馬市の人口は、1万人まで激減したと発表されましたが、それは30キロ圏外の鹿島区の住民が残っただけだと思います。30キロ圏内の原町区の私の家の 近所は人の気配は皆無となり、まったく生活音も聞こえなくなりました。置いていかれた犬や猫が、目つきも悪くなり、人間を襲っていたのもこの頃です。
私は学習塾を経営し、毎日たくさんの子どもたちとがやがやと過ごしていましたが、震災後は、一人残らず避難してしまい誰もいなくなりました。
しばらくして、一人だけ高校三年生の男子生徒が、私の元へと戻ってきたのです。
彼の家は津波で流失し、すべてを失いました。この地に残されたものは、あの時の恐怖や絶望感だけであろうはずなのに、母校で卒業したいことと、小学生の頃 から私の元で育ち、先輩の姿を見てきたので、先輩に見習ってここから大学進学したいと申します。私の心は、彼のその言葉に突き動かされ、大学進学を控えた 彼一人のために、教室を再開しました。

子どもは年齢が低い子ほど戻ってきていません。私にも小さい子どもがいたらどうしていただろう?と考えることが多くなりました。そうだ!若いママたちや子 どもたち、高齢者のためになにかできないか!とひらめき、「ベテランママの会」を発足し、細かく線量計を計って線量計マップを作ってはどうか?外で遊べな い子どもを都心につれて行き、ミュージカルでも見せてあげるのはどうか?と、県への嘆願に出向いたりもしましたが、けんもほろろの扱いを受けました。市や 県では、庁舎前で計測しているので必要ないということや、劇を見て何になるのかといったことを言われ、苦渋の思いで帰宅したことを覚えています。

福島県というだけで、仕事の取引も断られました。南相馬市と言おうものなら、教室で使用していた数台のパソコンの修理を依頼しても、「30キロ圏内に社員 を入れるわけにはいきません!」と拒否されました。可哀想、お気の毒に、力になります、なにかできることがあれば、義捐金を差し上げます、と優しい言葉を 投げかけられても、言葉と行動が裏腹ではないかと、疑心暗鬼にもなりました。

何度か先生方にご相談するうちに、ほかの方はどう思っているのか?皆さん不安が強くて、帰りたくても帰れないのではないのか?といった思いが芽生えてきま した。住民の我々でさえ、本当に住んでも大丈夫なのか?と不安いっぱいだった4月の早い時期から、南相馬市立総合病院に出向してくださっていた坪倉正治医 師の存在を後から知ったことも発動力になりました。こうした志の高い医師が来てくださっていることを市民は知りません。先生方の活動をお知らせしたいとも 思いました。
おそるおそる住民向けの放射能のお話し会をしてはいただけないでしょうか?とお尋ねしたところ、いとも簡単にいいですよとおっしゃいました。ただでさえ忙 しい坪倉先生と、新年度を迎える前に、結論を思案中の方の背中を押してあげるために、たくさんの回数をこなして放射能のお話し会を開催しました。先生のお 話しを聞いて、帰ってくるのか、出ていくのか、それはそれぞれの価値観の違いもあるので、本人に任せようと我々は何も口には出しませんでした。
座談会のような質問しやすいアットホームな会にしましょうと、少人数の茶話会のようなイメージで始めましたが、思いのほか毎回参加者が多く、嬉しい悲鳴をあげています。
お話し会終了後に設けている質疑応答の時間は、いつも時間がオーバーするくらい、たくさんの質問や疑問が飛び交います。

放射能とはそもそも何なのか?本当に危険なことや過度に心配しなくても良いことなど、正しい知識を持って、正しく怖がることが、これから先の生活で必要で あると考えています。セシウムの半減期が30年ということは、私の子どもたちでさえ生きている間は共存していかなければならないのです。一人一人が、正し い知識を持ち、何が必要で何が不要かを、自分で取捨選択できなければならないと思います。風評や噂話に惑わされることがないよう、各々が賢くなるべきで す。不安がなくなれば、前に進んでいくことができると思い、活動を継続中です。

私の思いつきにご賛同くださった上教授と時間をこまめにつくってくださる坪倉先生には、改めてお礼申し上げます。福島のために、もうしばらくお力をお借りできたら、と勝手に考えております。

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