医療ガバナンス学会 (2012年5月3日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
www.asahi.com/apital/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年5月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ホールボディーカウンターは体内に存在する放射能量を測定します。体の近くに検出器を近づけて、体内からの放射線を測定しています。その際、体内からの放 射線と、周りの環境から飛んでくる放射線の両方を拾ってしまいます。器械自体は周りの環境から飛んでくる放射線と、体内から発せられる放射線の区別ができ ません。検査後、専用のソフトウェアを用い、環境からの放射線の部分を引き算して、体内の放射能量を計算しています。
空間線量が高い場所(周りの環境に飛んでいる放射線が多い場所)で計測すると、この環境からの放射線の部分の引き算が難しくなります。相対的に小さい体内からの放射線の測定がやや不正確になってしまうのです(検出限界が高くなります)。
騒音の大きい場所で、小さい話し声を聞き分けるようなものです。空間線量が0.5μSv/hぐらいの場所だと、周りの環境からの放射線量が多すぎ(ノイズが強くなり過ぎ)て、今現在ターゲットにしているような放射能量の測定が厳しくなります。
当院でも当初は同様の問題が生じました。最初に使っていた椅子型のホールボディーカウンターは遮蔽が弱かったのです。バス型だったので院外に設置せざるを 得ず、遮蔽板を下に引いたり横に置いたりしていたのですが、どうしても理想とするレベルまでの遮蔽に至りませんでした。器械の検出限界は数分の計測では4 桁(1000~2000Bq/body)ぐらいを実現するのがやっとでした。それ以上の被ばくをしてしまっている方しか測定できない状況でした。
今現在の当院のキャンベラ社製のファストスキャンでは検出限界がセシウム137で250Bq/body程度、セシウム134で 210~230Bq/body程度です。ファストスキャンが、これほどの性能を出すことが出来るのは、器械自体にしっかりした遮蔽が内蔵されていることが 大きいです。第1回の写真の器械ですが、この器械の後ろ側のほとんどは遮蔽板によって作られています。今後、遮蔽のしっかりしていないタイプのホールボ ディーカウンターを導入する際は、設置の場所や遮蔽を十分に考慮する必要があります。
写真は、ウクライナのホールボディーカウンター専門施設に設置してある最も細かい量まで計測することが出来る器械です。5分の計測時間で約 30Bq/bodyまでの細かい値まで計測が可能です。もちろん内蔵している検出器自体の性能もありますが、遮蔽がしっかりしていることが非常に重要で す。
ただし、扉の開け閉めに1~2分かかります。僕自身も体験しましたが扉がしっかり閉まってしまうと、閉塞感が非常に強く、5分でも少し気持ち悪くなりまし た。もちろん現在のウクライナで、このレベルの器械がいたるところで稼働している訳ではありません。通常の検査は、今現在の我々の器械と同様レベルの器械 が用いられており、細かく値を追う必要があると判別されたり、精密検査が必要と考えられたりする方にだけ、使用されているとのことでした。
また計測する時間が長くなればなるほど、細かい値まで計測できる訳ですが、当然計測できる人数が少なくなります。ゼロまで計ることはそもそもできません。 食品検査と同様、まだどの程度の器械の性能を標準として計測して行くのかのコンセンサスがありません。福島県内には順次、ホールボディーカウンターの導入 が進んでいますが、今後詰めて行かなければならないことがまだまだ山積みです。計測に携わる当事者が同じ方向をむき、健康を守るために努力して行くことが 出来ればと思っています。
*文中の写真はこちらのサイトよりご覧ください。
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