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臨時 vol 196 「医学生の会 第1回勉強会傍聴記」

医療ガバナンス学会 (2008年12月17日 11:45)


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~ 学生を侮ってはいけないと反省 ~

ロハス・メディカル発行人 川口恭

医師のキャリアパスを考える医学生の会( http://students.umin.jp/ )と
いう会の学生さんから、勉強会をするとの案内をもらった。何のこっちゃっと思
いながらも、珍しい試みには違いないので行ってみた。期待以上に面白かった。
大人たちの議論が、いかにしがらみと建前に縛られているか思い知らされた。

この日の講師は土屋了介・国立がんセンター中央病院院長。後期研修班会議の
班長でもある。参加した医学生は、事前申し込みがあったのが10大学約80人。実
際にはもう少しいたようだ。全学年いて、中心は3年生と4年生。

勉強会とは言うものの、実際は学生たちが土屋院長に意見をぶつける会らしい。
やはり気後れするのか、最初はお行儀のよい質問が続いて、しかし段々と自分の
体験に根ざした勢いのある意見が出てくる。

慶應6年男性
「自分の世代の反省として、学生が上の言いなりだったと思う。実は、慶應で
2年ストレートの臨床研修を希望していたんだけれど、慶應の定員が急に60人
から55人に減ったという事件があって、減ったのは2年とも慶應のコースが1
5人から10人になった。その過程が問題だと思うのは、願書を出した後に突然
減った。なぜこういうことになったのか、受験票と一緒に紙が送られてきて、厚
生労働省からの強い要望と書いてあった。たとえ、この措置が医師偏在の解消に
役立つとしても、いきなり学生に負担を押しつけるというのはおかしくないか。
変えるにしても、学生の声を聴いてからするべきではないのか。今まで何も声を
上げてこなかったから、学生側も簡単にやられてしまうのだと思った」

土屋
「臨床研修制度のできた経緯を見れば、大学がまじめに医師を育てようとして
いないことは明白。(中略)学生も考えなきゃいかん、その通りだが、患者さん
にとってという視点を忘れちゃいかん。それを基準に考えていけばズレない。
(後略)」

東大3年男性
「患者さんのニーズと言うけれど、そこに学生側のインセンティブがなかった
らうまくいかない。地方に学生を行かせるというので、最初は予算つけちゃえと
いう所から始まって、それでうまくいかなかったら読売新聞のように強制的配置
にしろという意見が出てくるけれど、でもそんなことしたら、しばらくはいいけ
れど、医師をめざす高校生が減って、結局医師不足が進むだけだと思う。学生に
対して、どんなインセンティブを与えればよいと思うか」

土屋
「インセンティブの話をする前に、何が医師冥利に尽きるかということなんだ
が、これはやはり患者さんの感謝の言葉、治って笑顔になる、治らなくてもお礼
を言ってもらえる、この職業から足を洗えなくなるのは、そういう喜びが大きい
からだ。要は人間と人間のふれ合いの中に喜びはあって、そういうものが具現化
しやすいのは、実は大学の中ではなく、開業してその人の人となり背景事情を全
部知って家族のようになったところだ。最近は特に開業したからといって金儲け
できるわけじゃない、むしろそういう喜びを求めていく人が多い。中堅や若手の
医師が僻地に行きたがらないのは、僻地へ行けるだけの教育をされてないから。
自分の実力が心配なのだ。ある診療科しかやったことがないのに、いきなり総合
医・家庭医の必要な地方へは行けない。読売新聞もバカを言っちゃいけない。あ
の私案、大筋ではいい線行っていると思うが、若手の強制配置に関してだけは現
場を見ないで言っている。地方へは中堅どころが行かないと意味がない」

群馬大5年女性
「卒前教育を充実してほしい。アメリカではメディカルスクールの後ろ2年は
ほとんどクリニカルクラークシップとして実習できている。でも日本では6年生
は座学中心で、5年生は医師免許がないから見学になっている。そういった卒前
での教育の遅れが、卒後教育の遅れにもつながっている。私は、臨床研修の検討
会に嘆願書を出している。5年終了時に医師国家試験を受けるチャンスを与えて
ほしい。免許がないと医療行為ができない。6年生に自動的にとは言わないから、
試験を受けて合格した学生には実習を受ける権利を与えてほしい。やる気のある
学生にインセンティブを与えてほしい」

土屋
「よく分かった。私は1970年の卒業だが、私が学生時代にしていた議論そ
のものだ。いかに進歩してないか分かる。系統講義なんかは、学生を信用して、
本を読んでおけ試験するからで十分だろう。そうすれば実習の時間は取れる。で、
国家資格はなくても関係ない。というのが、医師に何が一番必要かというと、た
とえ外科医であっても腕ではなくマネジメントのブレインワークだ。どういう治
療を適用してあげるかが大事なんであって、そのディレクター機能が一番必要。
その時にベッドサイドで患者さんを診てどう考えるか。ロジックをつくって解答
を出す。つまり診察が一番大事だ。診断学だけが別建てであるのは、そういうわ
けだ。問題は何か、その解決法は何か、抽出すること。そのために必要なテクニッ
クは後で学んでも構わない。たとえば注射できないとしても、それは看護師にやっ
てもらえばいいんだから、診察して方針を出して、それをレジデントにチェック
してもらって一致したらやっていい。ただ、そういったことをするにはマンツー
マンに近い体制でないとできない」

東大3年男性
「ラディカルなことを言えば、総合医が各科ローテートする必要があるのをひっ
くりかえすと、たとえばがん専門医のようにスペシャリストをめざす場合、ロー
テーションは要らないのでないか」

土屋
「専門が分化すればする程、周辺領域のことを知っておかないと使いものにな
らない」

帝京1年男性
「先生は、レジデンシーを自明によいものとして、米国の制度がよいという前
提で話をしているが、米国は19世紀以来の歴史の中で市中病院優位の流れがあ
る。一方で日本はドイツの医局講座制で発展してきたんであり、ドイツ的な医局
制度に中途半端にレジデントを木に竹をつぐ形で入れたから話がおかしくなった
んでないか。(後略)」

土屋
「今やドイツも昔のドイツの制度ではない。実は各国とも似通ってきている。
それぞれの国でどういう医師を育てるか考えてきたら、結果的に似てきたという
ことだろう。ところが日本の場合は考えてこなかった。それは政府が悪いのでは
なく、医師が職能集団として真面目に考えてこなかった。だから制度が悪いとい
うのは天にツバするようなものであり、国民からしたら、お前らが悪いと言いた
いだろう。米国が一番よいと思っているわけではないが、あそこが一番よく考え
られている。ヨーロッパや日本が歴史の足かせのあるところで、アメリカは10
0年の間大きなコミュニティで考えてリニューアルを続けてきた。(中略)大事
なのは日本の土壌にあったシステムを考えることであり、歴史的な足かせのある
分、最終的にはヨーロッパの方がお手本にはふさわしいのかもしれない(後略)」

この他にも、たぶん医学生にとっては重要であろうと思われるやりとりが続い
たのだが、部外者には余り関係ない話なので、この辺で報告を終わる。最後に土
屋院長が以下のメッセージで締めくくった。

「学生に求められていることは何か。皆さんは自分で自分の針路を考えている。
それで十分。試験だったならば100点をあげる。自分で考える。医学部以外な
ら、みなやっていること。どうぞ自由にやってほしい。医師免許があれば何とか
なる。教科書は患者さん。患者を向いてやれば、間違いは起こらない。医師に必
要なのは、技術、知識、知恵の3つ。とかく前2つが偏重されがちだが、知恵は
自分でトレーニングしないと身につかない。そのうえでさらに必要なのは倫理観、
チームをまとめる和。さらに論語調になるが「仁」。慈しみ思いやり、自己抑制
と他者への思いやりだ。今患者さんや患者団体が医師を責めているのは、そこが
足りないからだ。そして最後に「徳」。よい行いをする性格、身についた品性と
人を感化する人格の力だ。午後5時過ぎたら悪さをしても構わないが、少なくと
も医師である時は徳を失ってはいけない」

清々しい気分になれた2時間だった。

(この傍聴記はロハス・メディカルブログhttp://lohasmedical.jp にも掲載
されています)

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