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Vol.503 子どもたちに明るい未来を ~東日本大震災を経て~

医療ガバナンス学会 (2012年5月30日 06:00)


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茨城県日立市立会瀬小学校
教諭 池端 健
2012年5月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は現在、茨城県日立市立会瀬小学校に教諭として勤務しています。
東日本大震災から一年以上経過し、学校生活も震災以前の落ち着きを取り戻しつつありますが、今でもあの時のことは鮮明に脳裏に焼き付いています。

3月11日、震災当日は福島県いわき市立久之浜第一小学校に常勤講師として勤務していました。当時は、6年生担任。放課後の教室で教え子たちと共に、他愛もない会話をしながら過ごしていました。
『ドンッ』という音とともに教室を襲う激しい揺れ。すぐさま子どもたちを机の下にもぐらせ、揺れが収まるのを待ちましたが、揺れは激しさを増すばかりで収 まる気配がありません。次第に子どもたちから笑みが消え、不安そうな表情に。『大丈夫だ!』と声をかけ、ふと外に目を向けると、まるで荒れた海のように波 打つプールや激しく揺れる電柱が目に入り、ただ事ではない事態が起きていると直感しました。
長い揺れがわずかに収まった隙を見て、子どもたちを校庭に避難させ、残っている子がいないか確認し、校庭に出た私の目に飛び込んできたのは、亀裂の入った地面と崩れかけた校舎の柱でした。2年前の耐震補強がなければ、もしかしたら校舎は倒壊していたかもしれません。

外は冷たい雨。恐怖と不安で泣く低学年の子供達。冷静に行動しながらも、不安の色をのぞかせる6年生の教え子達。そんな中に飛び込んできた、7mを超す大 津波襲来の情報。校長不在の中、高台の中学校への避難が決まったのは、久之浜の海岸を津波の第一波が襲う直前でした。通信機器は全て使えず、道路及び中学 校の状況を確認に走り、もどってすぐ子ども達を先導して中学校へ向かうその道中に目にしたのは、津波によってあふれんばかりになった学校裏の川。もし津波 の規模がもっと大きかったら…と今でも恐怖することがあります。
中学校に着き、避難所となった教室で身を寄せ合う子ども達。自分の家族の安否も不明の中、まずは子ども達の安否確認。ほとんどの子は学校に残っていたた め、安否確認後、迎えに来た保護者に引き渡すことができたが、どうしても所在不明の児童が1名。1年生なので海岸近くの自宅にすでに帰宅、という推論をも とに、2名の先生と自宅に向かう。近くで火災も発生し、その明りに照らされた暗闇の中、津波の跡が生々しく残るヘドロまみれの道を自宅に向かうと、父親と ともにその児童は無事でした。全校生が無事であったことは、まさに不幸中の幸い。しかし、この津波で家や身内を失った子がいるのが現状です。
地震、津波、火災と三重苦の久之浜の惨状は、目も当てられません。少しでも力にと瓦礫をどかしているその時、消防団員から飛び込んできたのは、原発爆発の情報。半信半疑で学校に戻り、真偽もわからないまま帰宅。テレビに映っていたのは、衝撃的な映像でした。

その後、久之浜地区の自主避難勧告、私達は自宅待機命令。なぜか、すでに国によって手配されていたバスにより、子ども達は散り散りに避難。顔を見ることも できず別れた子達と、携帯電話を使って連絡を取り、常に安否と状況の確認をする毎日。本採用の教諭は8月に人事異動延期、上の都合により、私たち講師は4 月で異動。後ろ髪を引かれる思いで新任校へ。
未だに疑問の残る、いわき市内全小中学校4月6日の学校再開。避難先や避難所からバスで登下校しながら、別の学校での間借り生活を送る子ども達。放射線の 数値を常に意識しながらの活動。パンと牛乳だけの給食や断水の続く中でのお弁当など、色々な困難を子ども達と共にしながらも、約一ヶ月後の卒業式実現で、 再び教え子たちの笑顔を見ることができました。
色々な食品から放射性物質が検出される中、牛乳や給食を停止する家庭、屋外活動を控える家庭、新たに県外に転出する家庭もあれば避難区域から転入する家庭 もある。目に見えない放射線と闘いながら、家庭からの様々な質問や要望、苦情に、その都度情報を集め、説明し、最善を模索してきた教育現場。

そういった中で突きつけられた、福島県の今年度小・中学校教員採用ゼロという現実。藁をも掴む思いで茨城県の教員採用試験を受験し、今年度より茨城県の教員として勤務する毎日ですが、かなりの人材が他県に流出したのもまた事実。
何よりも子ども達の安全が第一、全ては子ども達のために。当たり前のことではあるが、この震災と一連の出来事を経験し、改めてそのことを考えさせられました。
後手後手の対応や曖昧な基準。政府や自治体、教育委員会などの対応には多くの疑問や不満がありますが、何よりも子ども達の今と未来を守ること、それを最優先に考えていただきたい。現場はいつでも子ども達を最優先に考え、動いています。
この未曾有の大災害を乗り越えた子ども達は、きっと優しくたくましく育っていくことでしょう。この子達が生きる未来が、希望に満ちた世界であって欲しい。そう願わずにはいられません。

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