最新記事一覧

臨時 vol 191 「患者支援法案(私案1)」

医療ガバナンス学会 (2008年12月12日 12:16)


■ 関連タグ

■□ 民主党案を基盤とした4つの医療事故調査制度 □■

―医療事故調査4法の私案―

患者支援法案(私案1)

弁護士 井上 清成

〔1〕患者支援法案(私案1)

I 医療法の改正
第1 医療法第1章(総則)関係

(1) 医療従事者の責務として、診療その他の医療の提供につき、患者からの
求めに誠意をもって対応すること及び患者の理解と自己決定に基づいた医療を行
うことを加えること。

(2) その他基本理念の改正、国及び地方公共団体の責務の改正等を行うこと。
第2 医療法第2章第1節(医療に関する情報の提供等)関係

1 診療記録の開示及び訂正等

(1) 患者又はその遺族は、当該患者の診療に係る診療記録について、当該診
療に係る医療機関の管理者に対し、その開示を請求することができるものとする
こと。

(2) 医療機関の管理者は、開示請求があったときは、当該開示請求をした者
に対し、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、当該開示請求に係る診療記
録を開示しなければならないものとすること。

1) 当該患者に対する治療の効果等に明らかに悪影響を及ぼすおそれがある場
合その他当該患者の生命、身体その他の権利利益を著しく害するおそれがある場

2) 第三者の権利利益を害するおそれがある場合

(3)     患者は、開示を受けた診療記録に記録されている当該患者に関する情報
の内容に事実に関する誤りがあると認めるときは、当該診療記録を保存する医療
機関の管理者に対し、当該情報の内容の訂正、追加又は削除を請求することがで
きるものとすること。

2 診療に係る情報の提供等に関する体制の整備

医療機関は、診療記録の作成及び保存、診療に係る情報の提供等に関する具体
的な指針の策定その他の当該医療機関における診療に係る情報の適切な管理、提
供等を行うために必要な体制の整備に努めなければならないものとすること。

3 病院における医療対話促進者(メディエーター)の設置

(1)病院の開設者は、医療対話促進者を置かなければならないものとすること。

(2)医療対話促進者は、患者及びその家族の診療に関する理解及び医療従事者
との対話並びに苦情の解決の促進に係る事務を行うものとすること。

(3)医療対話促進者は、その職務に要する知識経験に関する要件として厚生労
働省令で定めるものを備える者でなければならないものとすること。

4 医療の提供の過程において事故が発生した場合に係る情報の提供

病院、診療所の管理者は、患者又はその遺族に対し、適切な方法により、医療
の提供の過程において人の生命又は身体の被害が生じた事故が発生した場合に係
る次の情報を提供しなければならないものとすること。

1) 第3の2(3)により事故調査委員会が設けられる場合においては、その
調査の結果に基づく報告書に基づいて説明を受けることができること及び当該調
査に関し意見を述べる機会が設けられること(第3の2(3)の病院以外の病院、
診療所又は助産所にあっては、第3の2(8)により、これらに準じた措置が行
われること。)

2) 第3の3(2)により、医療安全支援センターから医療の安全に関する紛
争の解決に係る情報の提供を受けることができること。

3) 第3の3(3)により、都道府県医療安全支援センターに対し、医療の提
供の過程において発生した人の生命又は身体の被害が生じた事故について、その
原因の調査を依頼することができるとともに、当該調査の結果の報告を受けるこ
とができること。
第3 医療法第3章(医療の安全の確保)関係

1 医療機関における安全な医療の確保

医療機関は、医療に係る事故の防止に関する具体的な指針の策定、当該医療機
関に勤務する医療従事者の資質の向上等を図るための医療技術及び安全管理に関
する研修の実施その他の当該医療機関において安全な医療を確保するために必要
な措置を講じなければならないものとすること。

2 医療安全管理委員会の設置

(1) 病院、患者を入院させるための施設を有する診療所の管理者及び入所施
設を有する助産所を有する助産所の管理者は、当該医療機関に医療安全管理委員
会を設置しなければならないものとすること。

(2) 医療安全管理委員会は、当該医療機関における医療に係る事故を防止す
るための対策その他の医療の安全管理に関する重要な事項について調査し、その
結果に基づいて、当該医療機関の管理者に対し、意見を述べるものとすること。

(3) 政令で定める数以上の病床を有する病院の医療安全管理委員会は、当該
医療機関において、医療の提供の過程において発生した人の生命又は身体の被害
が生じた事故として政令で定めるものが発生したときは、患者又はその遺族の求
めにより事故調査委員会を設けるものとすること。

(4) 事故調査委員会は、(3)の事案に係る事故等の原因、事故等に至る経
過、診療行為の内容等について調査を行い、その結果に基づき調査報告書の案を
作成するとともに、その報告書に基づいて患者又はその遺族に対し説明を行うも
のとすること。

(5) (4)の調査を行うに当たっては、患者又はその遺族の求めにより、人
の生命の被害が生じた事故にあっては解剖、画像による診断を行うための装置の
使用等を行うこと等により、できる限り、その原因を特定するよう努めなければ
ならないものとすること。

(6) (5)の解剖は、死体解剖保存法の定めるところにより行うものとする
こと。〔原則として遺族の承諾を受けて行う等〕

(7) 事故調査委員会は、(4)の調査に関し患者又はその遺族が意見を述べ
る機会を設けなければならないものとすること。

(8) (3)の病院以外の病院、診療所及び助産所は、(3)の事故が発生した
ときは、(4)から(7)までに準じた措置を行うものとすること。

3 医療安全支援センター

(1) 設置義務等

1) 都道府県は、医療安全支援センターを設けるものとすること。

2) 都道府県は、医療安全支援センターを設置する場合においては、医療法3
0条の4第2項第10号に規定する区域を参酌して、医療安全支援センターの所
管区域を設定しなければならないものとすること。

(2) 医療安全支援センターの事務
医療安全支援センターの事務として、医療の安全に関する紛争の解決に係る情報の提供を行うものとすること。

(3) 都道府県医療安全支援センターの事務

都道府県医療安全支援センターの事務として、次に掲げる事項を追加すること。

1) 患者若しくはその遺族又は医療機関から依頼を受け、医療の提供の過程に
おいて発生した人の生命又は身体の被害が生じた事故について、その原因を調査
し、その結果を患者又はその遺族及び医療機関に報告すること。

2) 都道府県医療安全支援センターは、依頼を受けたときは、医療関係者その
他の有識者をもって組織する調査チームを設け、これに依頼に係る調査を行わせ
るものとすること。

3) 2)の調査を行うに当たっては、患者又は遺族の求めにより、人の生命の
被害が生じた事故にあっては解剖、画像による診断を行うための装置の使用等を
行うこと等により、できる限り、その原因を特定する努めなければならないもの
とすること。

4) 3)の解剖は、死体解剖保存法の定めるところにより行うものとすること。
〔原則として遺族の承諾を受けて行う等〕

(4) 医療安全支援センターの人員

医療安全支援センターに、医療に係る苦情に対応し又は相談に応じる事務に必
要な知識経験に関する要件として厚生労働省令で定めるものを備える者を置かな
ければならないものとすること。
II 薬事法の改正

薬局開設者は、薬剤師が複数の商品から選択して調剤することが可能となる内
容の記載がされている処方せんにより調剤したときは、当該処方せんを交付した
医師又は歯科医師に対し、厚生労働省令で定めるところにより、調剤した商品の
名称を通知するものとすること。
III 医師法の改正

1 説明と異なる診療又は適切でない診療が行われた場合の患者等に対する説明

医師は、あらかじめ行われた説明の内容若しくはそれに基づいて決定された内
容等と異なる診療が行われた場合又は診療が適切に行われなかった場合には、で
きる限り速やかに、当該診療を受けた患者又はその遺族に対し、適切な方法によ
り、その事実及び当該診療の概要並びにそのような事態に至った経緯、患者が死
亡した場合における当該死亡の原因その他当該診療等に関し当該患者又はその遺
族に知らせるべき事項について、説明しなければならないものとすること。

2 診療中の患者が死亡した場合の説明

医師は、1の場合のほか、診療中の患者が死亡した場合には、できる限り速や
かに、当該診療を受けた患者の遺族に対し、適切な方法により、当該診療の概要、
死亡の原因その他当該診療等に関し当該遺族に知らせるべき事項について、説明
しなければならないものとすること。

3 第21条の規定の削除

第21条の規定〔死体等に異状がある場合の警察への届出義務〕は、削除する
こと。
IV その他

(1) この法律は、   から施行すること。

(2) 医療対話促進者の設置に係る経過措置を設けるとともに、その設置を促

するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとすること。

(3) 医療安全支援センターの紹介等に基づいて医療に係る裁判外紛争処理手
続の業務を行う者の増加を図るため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるも
のとすること。

(4) 政府は、次の事項について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置
を講ずるものとすること。

1) 看護記録の作成等の義務付け、診療録等の保存期間の延長その他の診療記
録に関する制度及び調剤録の保存期間の延長その他の調剤に係る記録に関する制
度の整備

2) 医療技術に関する情報の収集、評価、整理及び提供等が行われるための基
盤の整備、医療技術に関する評価の方法の研究開発の推進、医療技術に関する評
価に係る成果を普及させるための環境の整備その他医療技術に関する評価及びそ
れに係る成果の活用の促進

(5) 政府は、良質かつ適切な医療の確保及び医療を受ける者の自己決定に資
するため、この法律の公布の日後3年以内に、医療機関及び医療機関が提供する
医療に関する客観的な評価が行われる仕組みについて検討を行い、その結果に基
づいて所要の措置を講ずるものとする。

(6) その他所要の措置を講ずること。

 

〔2〕医療事故等の場合の患者支援制度(私案)

患者・家族(遺族を含む)の意志や思いを最大限尊重しつつも最も効果的に死
因・経過を究明する制度を創設する。従来、必ずしも十分とは言えなかった死亡
診断を充実・的確化させることに始まり、初期段階での証拠・記録(解剖検体・
画像を含む)の確保、患者・家族への説明及び理解の促進のためのさまざまなし
くみや医療機関の責務を規定した。院内事故調査委員会による調査が第一次的で
あるという考え方に立つが、患者・家族がその報告に納得できない場合は、公的
機関が依頼を受けて調査チームを結成し、調査にあたらせる。さらにその調査結
果を受けて紛争解決を行う事業者の紹介をも行う。国及び地方自治体は、これら
の制度の発足・定着のため財政措置を行う。

1 死亡診断

遺族に対して出来る限り速やかに、診療経過ならびに死に至った経緯等に関し
説明をし、理解を促進するよう努めなければならない

2 医療機関の対応・義務

1) 医療事故等の可能性がある場合に患者又はその遺族の求めにより、院内
に事故調査委員会を設置しなければならない。(中小病院や診療所が共同で設置
することも含む)
2) (遺族の求めにより)解剖やAi(オートプシーイメージング/死亡時画
像診断)を行い、できる限り死因の究明に努めなければならない。
3) 医療対話促進者(メディエーター)※1を設置し、患者・家族の理解促
進と医療機関との対話の仲介に務めさせなければならない。
4) 患者・家族に、(i)必要であれば解剖できること(死亡の場合)及び
(ii)今後の院内での調査・説明に納得ができなければ、院外の調査チームへの
依頼や紛争解決事業者(第三者ADR機関)の紹介をしてもらえること、を告げな
ければならない。
※ 1…医療対話促進者(メディエーター)
病院は、患者・家族の理解と自己決定の支援及び対話による納得・合意の促進
のため、(一定の研修を修了した)医療対話促進者を相談窓口へ配置しなければ
ならない。国及び地方自治体は配置のための財政的措置を講ずる。

3 院内事故調査委員会の調査・報告

1) 院内事故調査委員会は死因、死亡等に至る臨床経過、診療行為の内容や
背景要因等について事実関係を調査報告書に取りまとめ、患者・家族へ説明・報
告しなければならない。
2) 院内事故調査委員会は調査中に調査の経過について患者・家族から説明
を求められた場合、誠実に応じなければならない。
3) 院内事故調査委員会は調査に関して患者・家族から意見を受けた場合は
最大限尊重しなければならない。
4 医療安全支援センターへの届出、調査・報告、紹介・紛争解決

1) 患者・家族が院内事故調査委員会の報告に納得できない場合又は医療機
関が必要と判断した場合に、医療安全支援センターへ届出て、原因調査を依頼す
ることができる。

原因究明委員会が選任した調査員により結成された調査チームが、原因調査
(事実解明)を行い、調査結果を患者・家族及び医療機関に説明・報告する。

2) 患者・家族又は医療機関は、医療安全支援センターへ届出て、第三者
ADR機関の紹介を依頼することができる。

第三者ADR機関が、院内事故調査委員会や院外調査チームの調査結果を基に、
患者・家族の理解と自己決定に資するよう医療従事者との対話を促進しつつ患者
・家族が求める解決を図る。

※2…各都道府県に「医療事故に関する科学的原因究明委員会(略称:原因究
明委員会)」を設置し、届出先として医療安全支援センター(二次医療圏毎に設
置)を活用する。
〔3〕 中・長期的課題

医療者による自律的処罰制度の進捗状況などを勘案しつつ、刑法における故意
罪と過失罪の在り方や業務上過失致死傷罪などについて諸外国の法制度などを参
考に検討し、必要があれば見直す。

1 一般的な無過失補償制度の創設―公平な救済

民事医療過誤損害賠償請求訴訟による患者救済は、多大な負担・労力・時間・
費用を要するため、救済が必要なすべての人々に広く行き渡らない。すべての人
々の公平な補償こそがまず必要である。

一般的な結果回避可能性が認められる医療災害に対しては、あまねく補償を得
させて、救済の公平化を図るのが望ましい。過失・無過失にはとらわれず、経済
的損失に対する金銭補償を簡易迅速に実現する。

患者・医師の信頼関係の破壊をもたらさないようにするため、また、相互扶助
の精神に則るため、慰謝料としての補償は除外した方がよい。

既存の労働者災害補償保険法をモデルとした患者補償保険法(私案2)を、素
案として議論を深めることがよいと思う。
2 民事責任の限定―民事の軽過失免責

無過失補償制度は往々にして、民事医療過誤損害賠償請求訴訟を誘発しがちで
ある。そこで、無過失補償制度を整備する際には、債務不履行責任についても不
法行為責任についても、軽過失を免責するのが妥当であろう。
保険医療に関する民法特例法(私案2-1)

第1条  この法律は、健康保険法その他の医療保険に関する法律に基づき患
者を診療する医療(以下「保険医療」という。)その他特に法律で定める場合に
つき、医師の民法上の責任を制限することを目的とする。

第2条  保険医療上の債務不履行責任については、民法698条(緊急事務
管理)を適用するものとし、民法415条(債務不履行責任)及び民法第3編第
2章第10節(委任)の規定は適用しない。

第3条  民法709条の規定は保険医療の場合には適用しない。但し、医師
に故意又は重大な過失があるときは、この限りではない。
3 刑事責任の限定―業務上過失致死傷罪の適用排除

医師に対する医療事故の刑事責任追及は、往々にして有害無益である。そこで、
医療に対しては業務上過失致死傷罪の適用を排除し、故意犯に限定するか、少な
くとも、危険な医療を故意に行いその結果として過失致死傷の被害をもたらした
場合(危険医療致死傷罪)に限定すべきであろう。
保険医療に関する刑法特例法(私案2-2)

第1条  この法律は、健康保険法その他の医療保険に関する法律に基づき患
者を診療する医療(以下「保険医療」という。)その他特に法律で定める場合に
つき、医師の刑事上の責任を制限することを目的とする。

第2条  刑法209条の罪(過失致傷罪)、刑法210条の罪(過失致死罪)
及び刑法211条1項の罪(業務上過失致死傷罪と重過失致死傷罪)の各規定は、
保険医療の場合には適用しない。

第3条  保険医療に伴い、緊急の場合その他正当な事由なくして、患者若し
くはその親族に対し説明をせず、又は患者若しくはその親族の同意を得ず、身体
への侵襲を伴う施術をした医師は、刑法に定める傷害の例による。診療録に虚偽
の記載をした医師は、刑法に定める虚偽診断書作成の例による。

第4条  保険医療に際し、標準的な医療を殊更に無視し、かつ、重大な生命
又は身体の危険を生じさせる方法で患者を診療し、よって過失により患者を死傷
させた医師は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
4 行政的責任から自律的責任へー自立的懲戒制度の創設

医療は専門的であるだけに、患者災害の有無に関わらず、専門的な観点からの
当該医療行為自体に着目した規律が要請される。現在は、医師法を中心とした行
政機関による規律が主流であるが、今後は医療者自身による自己規律に移行して
いくべきであろう。医師名簿たる医籍を厚生労働省から統一的医師団体に移し、
自律的処分を行える体制を整備すべきである。

まずは、医師法の改正(私案3)と公益社団法人の設立が急務であろう。
5 すべての国民のための公的医療受給権―憲法の改正

国民皆保険制に基づくすべての国民のための公的医療を維持強化するために、
公的医療受給権を憲法上の権利として明示することが有益である。

患者支援制度も無過失補償制度も、そして、医療者の刑事・民事責任の限定も
自立的懲戒制度も、一体として、すべての国民のための公的医療受給権の確立に
資するものと考えられよう。
憲法改正案(私案3-2)

憲法25条の2「すべて国民は、法律の定めるところにより、その負傷、疾病、
障害に応じて、ひとしく医療を受ける権利を有する。」

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ