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臨時 vol 190 「民主党案を基盤とした4つの医療事故調査制度」

医療ガバナンス学会 (2008年12月11日 12:17)


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■□ 民主党案を基盤とした4つの医療事故調査制度 □■

―医療事故調査4法の私案―

弁護士 井上 清成

第1 医療事故調査4法の立法目的

1 複合的な事故調の目的

2008年8月20日の福島県立大野病院事件無罪判決を経て、刑事司法が医
療に不似合いであることが明らかになった。やはり医療事故調査制度の整備こそ
が必要であろう。しかし、厚生労働省が提示した医療安全調査委員会構想(第三
次試案や設置法大綱案)は、余りにも決定的な欠陥を抱えているし、多くの弊害
が予期される。その根本的な原因は、いくつもの複合的な目的を1つの委員会で
実現しようとしていることに帰着すると思う。この機会にその根本に立ち戻り、
検討し直すしかない。

目的を患者遺族側と医療者側に分けてみよう。患者遺族側の目的には、精神的
側面と経済的側面がある。精神面では、患者遺族の納得であり、経済面では、医
療災害の補償といってよいであろう。また、医療者側の目的には、過去を清算す
る側面と将来を指向する側面がある。過去の側面では、当該医療者の処分・非難
であり、将来の側面では、医療安全の向上・再発防止といってよい。よく「責任
追及」というのは、前者の「当該医療者の処分・非難」を指す。

このように医療事故調査制度の複合的な目的は、分析すると4つに分けること
ができよう。

2 4つの目的の分析

これら4つの目的は互いに、必ずしも相性がよいわけではない。むしろ相性が
悪く、敵対関係にあるとも評しえよう。今までの事故調論議の欠陥は、相性の悪
い4つの目的を1つの制度で同時に合わせて実現しようとしたことにある。厚労
省の医療安全調査委員会構想は、その典型であった。

今後は、今までの議論の成果から学び、冷静に分析して、医療事故調査制度を
構想し直すべきである。つまり、相性の悪い4つの目的をリンケージさせてはな
らない。それぞれを分断して構想すべきであろう。

端的に結論を述べれば、1つの目的に対応して1つの医療事故調査制度を考え
ればよい。合計4つの別々の医療事故調査制度を創設すればよいのである。そし
て、4つの制度を互いにリンクさせてはならない。

3 4つの医療事故調査制度

それぞれの目的を実現するためには、それぞれの目的に即した事故調査、つま
り原因究明が必要である。

まず、患者遺族の精神的な納得を得るためには、その患者遺族の納得の得られ
ていないレベル(段階)に応じた原因究明が考えられねばならない。事後の一応
の説明で満足が得られればそれで終わるが、満足が得られずに要求が出ればカル
テ開示や一層の医学的説明をし、もう一歩の検査の要求があればAiをし、解剖の
要求が出れば病理解剖をし、不信感がある場合の解剖では法医による解剖をし、
さらなる究明を求められれば第三者の中立的専門機関による原因究明をする。つ
まり、重要な着眼点は、あくまでも患者遺族の納得が得られることが大切なので、
それぞれの患者遺族の要求レベルによって段階が変化し、全例が一律ではない。
患者遺族の原因究明の要求度合いは区々なので、すべてが解剖ではなく、すべて
がADRでもなく、もちろん、すべてが事故調でもないのである。

他方、患者遺族の経済的補償をするためには、「通常は避けられえた死亡」
(法律用語では、結果回避可能性)であったかどうかの原因究明が必要だし、か
つ、それで足りるであろう。ただ、これは典型的には公平な救済を旨とする無過
失補償制度であるが、その導入には、民事軽過失免責や刑事過失犯排除も必要と
なる。

医療者側で重要なこととしては、同じ医療人として、同僚・同業の者に対して
厳しい目を向けなければならないことであろう。自立的懲戒制度とか自律的処分
制度とかいわれるもので、医療者自らで自らを律するのがベストである。しかし、
これは医療者側の医療行為に対してだけ着眼して行われるべきことであり、患者
遺族側からの責任追及の形をとって行われるのは芳しくないであろう。つまり、
精神的な患者遺族の納得や経済的な金銭補償とリンケージさせて行われるべきこ
とではない。それらとは分断させ、あくまでも医療者自身の過去の清算としてな
されるべきことであろう。

医療側の再発防止・医療安全向上は、症例の性質に応じて、Aiや解剖などが使
い分けられねばならない。学問的意味合いや、再発のリスク・重大性などに応じ
て区々なのである。再発防止のための原因究明も、患者遺族の精神的な納得と同
様、やはり全例すべて同じではない。

4 効率と知恵

以上のように、1つの医療事故調査制度によってではなく、4つの別々の医療
事故調査制度によって、互いにリンクすることなく、4つの別々の目的をそれぞ
れ別々に実現すべきものと考える。なかには、これでは非効率と考える人もいる
かも知れない。しかし、全例解剖して調査報告書を作るわけでなく、必要に応じ
て行うにすぎないので、逆にかえって効率的である。また、1つの事故調査結果
をすべての側面に流用しようというのは、机上の理論にすぎない。大切なのは事
柄の性質に応じて個別に対処するという、紛争解決の知恵であると思う。

図1 http://mric.tanaka.md/r190.pdf
を参照してください

第2 医療事故調査4法の私案
(私案1-4に関して、今後MRICで順次配信いたします)

〔1〕 患者支援法案(私案1)
〔2〕 医療事故等の場合の患者支援制度(私案)
〔3〕 中・長期的課題
1 一般的な無過失補償制度の創設―公平な救済
患者補償保険法(私案2)
2 民事責任の限定―民事の軽過失免責
保険医療に関する民法特例法案(私案2-1)
3 刑事責任の限定―業務上過失致死傷罪の適用排除
保険医療に関する刑法特例法案(私案2-2)
4 行政的責任から自律的責任へー自立的懲戒制度の創設
医師法改正(私案3)
5 すべての国民のための公的医療受給権―憲法の改正
憲法改正案(私案3-2)
〔4〕医療安全調査委員会設置法案(私案4)

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