医療ガバナンス学会 (2012年7月21日 06:00)
『ロハス・メディカル』新聞社版2012年7月号に掲載されたものです
かたおか小児科クリニック院長
片岡 正
2012年7月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
始めたのは5~6年前、当時はまだ川崎市の方針で、同時接種は原則認められていませんでした。定期接種ワクチンを複数同時に接種すると、市から予防接種委託料が支払われなくなるのです。そのため同時接種はおたふくかぜやみずぼうそうワクチン等に限られていました。
状況が動き出したのは、ヒブワクチンの導入以降です。
ヒブは、治験も三種混合ワクチンとの同時接種を前提に進められました。2007年の導入直後は品薄で打つこともままなりませんでしたが、後に小児用肺炎球 菌ワクチンが導入されると、両者の同時接種が普通になりました。とはいえ、まだ数は多くありませんでした。どちらも公費による助成がなかったためです。
そして去年、ようやく公費助成が始まりました。ところがそこへ起きたのが、相次ぐ「同時接種後に死亡」報道の騒動でした。同時接種は一時的に見合わせられ ました。その後の厚労省検討会で「因果関係なし」として再開されるも、当時は東日本大震災の直後で、報道も震災一色。同時接種再開のアナウンスはまったく 行き届きませんでした。
また、3件目の死亡例は、この川崎市高津区でのケースでした。因果関係なしとは言われても、医療者側も、もともと「同時接種はダメ」という考え方に長年親しんできた人たちです。地元での出来事にすっかり腰が引けてしまった人も少なくなかったのです。
しかし、同時接種の安全性は世界で実証されています。何本ワクチンを同時に打っても、副作用の頻度や程度が増えることはありません。むしろ、”紛れ込み” の事故は同時接種を進めることで減ることでしょう。何より、必要な時期に必要なワクチンをすべて打ち、一刻も早く免疫をつけて赤ちゃんの健康を守るため に、同時接種が不可欠です。
私は川崎市医師会の予防接種担当理事も務めています。同時接種の普及のため、医療者への様々な啓発活動を講じてきました。例えば、専門家による医師向けの 講習会を毎年開き、出席しなければ市から予防接種事業を請け負うことができないこととしています。そのかいあってか、同時接種を行う医療機関もかなり増え てきました。
同時接種が一部進んでいない現状を、私は受診したお母さんたちから知ることが多いのが本当のところです。今の赤ちゃんのお母さんは、数年前の騒動など御存 じなくて、同時接種に抵抗のない方も多いんですね。もしかかりつけ医で同時接種をしていないようでしたら是非、お母さんから打診してみてください。それが きっかけで腰を上げる医師も少なくないようです。