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臨時 vol 188 「医療事故調査委員会設置の議論で政治は役割を果たせ」

医療ガバナンス学会 (2008年12月8日 12:20)


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民主党愛知13区総支部長
大西 健介

私は、以前、馬淵澄夫衆議院議員の政策秘書として、耐震強度偽装事件の国会
での真相解明に深く関わりました。耐震偽装を契機として、建築基準法の改正が
行われましたが、偽装を生んだ根本的な問題を放置したまま事態を収拾すること
のみに腐心をし、行政側の責任回避に主眼を置いた確認検査手続の厳格化は、現
場に混乱をもたらし、着工件数の落ち込みによる関連産業への連鎖的影響は社会
問題となりました。

私は、この時の苦い経験から、さまざまな分野で官僚主導による現場の声を無
視した机上の議論による制度改正が現場を振り回し混乱させている現実に強い危
惧を抱いています。

これは、医療の分野でも見られます。たとえば、診療報酬の外来管理加算を算
定する条件を患者が診察室に入ってから出るまでに医師が患者に「おおむね5分
を超えて」直接診療に当たっている場合に限定するいわゆる「5分ルール」や後
期高齢者終末期相談支援料といった制度は、厚生労働省の官僚が現場の声に耳を
傾けることなく机上で考え出したものの典型例と言えます。

私は、現在、衆議院小選挙区の民主党総支部の総支部長として地元で活動して
いますが、この他にも私のもとには、「医療崩壊」とも呼ぶべき状況についての
現場からの強い危機感の声が寄せられています。その中でも特に目立つのが医療
事故調査委員会の設置に関する危惧の声です。

私は何人もの医師の先生方とお話をする中で医師のこの問題に対する関心の深
さは、一般の国民の想像を超えていることに気づきました。当直時には連続32
時間勤務が普通となってしまっている過重労働やそれに見合うだけの十分な報酬
を得ることができないことよりも、最善を尽くした場合でも不確実性の高い医療
の結果に責任を問われ、場合によっては刑務所に入らなければならないというリ
スクの方が医師にとって精神的な重荷となっているのです。

以前、数名の研修医と話す機会がありましたが、彼らは口々に「自分は仕事が
たいへんなことは覚悟ができています。ただ、がんばっている私たちの志をくじ
くようなことだけはやめてください。」と訴えていました。

医師に対する「はっきり言って、最も社会的常識が欠落している人が多い。も
のすごく価値観が違うから。」という首相発言は、まさにギリギリの状態で踏ん
張っている現場の医師の気持ちをくじく発言であり許されないものです。リスク
をとる職業に対する正当な評価がなければ、なり手はいなくなってしまいます。

この点において、現在の医療事故調査委員会設置に関する議論は、間違いなく
医師へのプレッシャーとなっています。

最も問題だと思うのは、調査委員会での証言が個人の処罰に直結するという点
です。憲法38条1項には「何人も自己に不利益な供述を強要されない」とあり
ます。処罰を前提とした調査では、むしろ事実は表に出にくくなる恐れがあり、
ひいては、これまで医療の進歩を支えてきた「ああすればよかったのではないか。
こう判断すべきだったのではないか。」と反省することもしにくくなり、また、
医療そのものの委縮を招くことにもつながりかねません。

さらに、事故と医療従事者の処罰を連動させることはかえって遺族と医療従事
者の対立を高める可能性さえあります。

そもそも医療事故調査委員会の設置目的は、遺族の理解と納得を高めて、軋轢
を解消することにあったはずです。過去に医療従事者による事実の隠ぺい等の不
幸な事件があり、患者、遺族側に深い不信感があることは私も十分理解していま
す。しかし、遺族の望みは「真相を知りたい。」、「誠実に対話をして欲しい。」
というところにあり、納得さえ得られれば問題解決が得られる場合が多いと思い
ます。

私は、福島県立大野病院事故裁判の判決に対する父親の「家族の負担もある。
医師の負担も重いだろう。双方が苦しまないような仕組みを作ってほしい。」と
いうコメントをこの議論の出発点にすべきだと思います。

患者・遺族側、医療従事者側双方の主張があります。そして、その根底には
「医療そのものをどう考えるか。」という根本的な考え方の違いが横たわってい
るような気がします。たとえば、医療の無謬性。「人は誰でも間違える」という
前提に立って考えるかどうかで議論のあり方は違ってくるはずです。

私は、個人的には立場によって主張に隔たりが大きい問題、かつ価値観を伴う
問題は、官僚・役人だけに任せるべきではないと思います。こうした問題こそ、
政治家が調停役となって関係者の意見を十分に反映させることが不可欠だと思い
ます。

以 上

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